57話 一行、胡慶余堂(こけいよどう)へ。
一行、胡慶余堂へ。
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心達は上海から一晩かけて水路を行き、漢方と刺繍の本拠地、杭州に到着した。
まずは、杭州にある胡慶余堂に向かうことになった。
胡慶余堂は心達のいた世界では、明治初期に清にあったらしい。
この世界の胡慶余堂も、同様にしん国の最高級品の漢方が揃う所として存在しているようだ。
この胡慶余堂で漢方薬を買うのが、国内では最も安心でステータスでもあるという。
皆は胡慶余堂に向かう前に、移動しやすい服装に着替えていた。
えりと松江は装飾が少ないブラウスにジャケットとロングスカート。
頭は夜会巻きにして髪をまとめ、三角巾を持参した。髪の毛が落ちないように漢方を売る店に対して誠意を見せることにしたのだ。
「心は着物なのね」
「うん、でも健さんに刺繍してもらったんだ。ほら!」
「お〜、どれも薬草の花々だね」
「さすが友子!御名答。わっちはこの帯でリスペクトを示したのでやんす。髪はほら、えりたちと同じでまとめ髪にしてますよ」
「紅も、心様と色違いでお揃いにしたぞ」
「可愛いぞ!紅ちゃん」
子供好きの理央がすぐに反応する。
友子は普段の服装だが、やはり三角巾と手袋も持参している。
「いつもそうしてるからさ。特に私は薬を触るからね!」
「そうじゃの。わしも一応仕入れの品をみるからな。ほれ」
平松の宮様は動きやすいスーツにシャツ。当然手袋も持参している。
「孔達も、服の装飾品は全て取り、髪は全て帽子に入れました。どうでしょう」
「うん、美桜はあたしと行ったことがあるから知ってるけど、孔ちゃん、理央ちゃんも、皆もバッチリだよ!」
「では友子のお墨付きが貰えたところで、行こうかの」
船から馬車に乗り継いで、一行は胡慶余堂に向かう。
店に近くなるにつれ、辺りも薬草や漢方薬を扱う店が増えてきた。
「あ、漢方薬の匂いが充満してるね」
松江と使役達がいち早く気がつく。
「ああこの匂い!たまんないよ〜」
友子のテンションが上がってきた。
「ええっと、まず免疫力や体力のつく薬『全鹿丸』や『補中益気湯の丸薬』を見るでしょう。自分で煎じる様に人参も外せないし、それから〜」
友子が呪文のようにブツブツと言い出した。
「友子様の独り言はいつものことなので気にしないでなの〜」
美桜が明るく皆に話す。
「もう、好きなに事なると、友子もしようがないでやんすね〜」
(いや、お前が言うか!)
全員が心に突っ込みを入れたかったその時、馬車が胡慶余堂に到着した。
「到着したね!」
友子が真っ先に馬車から降りると、門の前に一人の女性が立っていた。
「友子!待っていたよ〜」
「うぁ~麗!しばらくぶりだね。元気にしてた!」
「私元気よ。一流のお店にいて、病気は出来ないね」
麗と呼ばれる女性は、友子と抱き合い再会を喜んでいた。
「紹介するね!胡慶余堂に勤めてる麗。この通り日本語も上手だよ。しん国では唯一女性で有名な腕利き薬師なんだよ」
「これはこれは、麗さんはじめまして。
高松の宮といいます。今日はよろしくお願い申す」
平松の宮は流暢にしん国の言葉で話す。
「私は理解できるけど、現地では方言が残っているから、店の中では通じるかは半々だね。でも友子も方言が分かるし、私もいるから安心よ。」
麗が笑って言った。
「そうでしたか。一応しん国の言葉はマスターしていたのですが、こちらの方言までは……」
孔ちゃんが残念そうに言う。
「大丈夫よ。今日の皆の服装を見たら、皆敬意を払うよ。貴方達素晴らしいね。薬屋を分かっているよ。
異国の人達は私達を、下に見てる人が多いから」
「私たち、相談してリスペクトを示そうって決めてね。これにしたの。分かって貰えて嬉しいな!」
友子は笑顔で麗に伝えた。
(やはり、服装を事前に考えてきて良かった……)
心や皆は目を合わせて頷いた。
そして皆は三角巾を付け準備万端にした。
「では入るよ〜」
麗が扉を開けて案内してくれる。
大きな宮殿のような建物に入ると、人々が忙しそうに右往左往している。
中心には大きなカウンターがあり、奥には人参や鹿茸等、一級品の生薬が並んでいる。
「うっわぁ!久々だぁ!このずらりと並んだ薬の数々!いつ見てもときめく〜」
友子が前のめりになっている。
「ははは!友子は相変わらずだねぇ」
大きな声で笑いながら男性がやって来た。
「雪石のおっちゃん!」
友子が男性に近寄りハグをした。
「本当に、しん国で一番の漢方薬を扱う胡慶余堂の主人、胡雪石を雪石のおっちゃん呼びするのは友子だけよ〜」
麗が笑いながら言っている。
「だってねぇ、雪石のおっちゃんとは昔からプラントハント仲間だし、話が合うんだよ〜
こんな大きな薬屋を作って、おっちゃん凄いねぇ」
友子は有名な胡慶余堂の主人、胡雪石と和気あいあいと話している。
「ねえねえ、確かにプラントハント仲間だろうけどさ。やっぱ友子も心と同じ、爺さまキラーってことだね」
「そうだよ松江。しかも世界を股にかけてるし」
そう言う二人に、えりも加わる。
「ていうことは、友子って行く先々に、友子びいきの爺さまがいるって事?」
「怖っ!」
三人は改めて友子のワールドワイドぶりに驚かされていた。
「今日はよろしくお願い致します」
そう言って平松の宮様が一通り自己紹介を済ませ、今回欲しい物を伝えようとすると……
急にぶるぶると雪石が震えだした。
「あの……ひょっとして心様、貴方は日の本江戸の吉原、天女楼にいらしゃる心花魁ではないですか?」
「ああ、わっちが心花魁ですが」
「おお!私は浮世絵コレクターでもありまして。貴方様の浮世絵を最近手に入れまして。この世にこんなに美しい方がいるのかと感動したのですよ!
握手して下さい!」
「わっちなんかで良ければ……。しん国でも美の基準って一緒でありんすかね?」
心は不思議そうに握手する。この時代だから受ける和顔美人である事を自覚しているのだ。
「ありがとうございます。心花魁!やったぞ〜」
雪石が子供の様に喜んでいる。
「いや、多分それだけじゃなくて心もワールドワイドな爺さまキラーってことだよね……」
「うん。同感」
松江とえりはこっそり呟いた。
「皆様は、本日は何をご所望ですか?友子や心花魁もおられますし。
今日は何なりとお申し付け下さい。」
胡雪石が、平松の宮様に尋ねる。
「はい。冬に向けて免疫力や抵抗力を強める薬を所望します。それと……」
平松の宮が雪石の目を見ていった。
「もし梅毒治療薬があれば、是非とも見せて頂きたい」
次回の投稿は10月23日(金)20時です。
よろしくお願い致します。




