56話 紅は愛を知る
56話 紅は愛を知る
〜投稿します。読んで頂けると嬉しいです。
翌朝、朝食を食べた後で心が紅を散歩に連れ出した。上海の職人街の方へ行くと、美しい装飾品や高価な服の生地屋がある。しばらく行くと庶民向けの古着や簡易なシャツとズボンも売っている。
「あちらは高官等が仕立てるお店、庶民向けのお店もありますね」
「籠なんかの雑貨もあるぞ。心様好きであろう」
「そうでありんすね。買い物籠は良さそうですね。
みてみましょうか。紅はどれが好きですか?」
「うん。よく見てみよう!紅は心様より少し小さい方が良いな」
竹で編んだ買い物籠やザル、ほうきが所狭しとぶら下がっている。
買い物籠はシンプルだが、その横にハギレだが刺繍が美しい布が売っていた。紅はそれをじっと見ている。
「紅、どうしましたか?」
「心様、あの布で花を作って籠に下げたらどうだ?
ほら、あそこにある鈴も一緒に付けよう。きっと可愛いぞ」
「紅、それはいいアイデアでやんすね!
う〜ん、じゃあわっちは青系にしますかね」
「え〜!じゃあ紅は桃色と黄色を買う。豆助は黄色が好きだ。一つは豆助のを作るんだ!」
二人は買い物籠を三個とハギレ布を買った。
「楽しみだな!帰ったら早速作ろう。豆助も驚くぞ」
「じゃあ、健さんに教わりましょう。きっと色々な花の形を教えてくれるでやんすね」
「あい!」
買い物のあと、二人は茶館でお茶を飲んでいた。
寒くなってきた時に飲む、香り高い中国茶がほっと体を温めてくれる。
紅はにこにこして買った生地をずっと眺めている。
「何の花がいいかな〜梅の花か、桜か……沢山作って藤の花にするのはいいか」
「紅は縫い物が好きなのですね」
「うん。だが、着物を縫うより小物作りや刺繍をするのが好きだ。だから健さんの刺繍の仕事を見るのは楽しい」
「他に好きなことや気になることはないでやんすか?」
「まだ他のことはやってないから分からない。でも芸事では小唄と舞。特に舞は好きだったぞ。このお茶美味しいな」
紅は笑顔でお茶と甘い干したイチジクを食べながら言う。
「このお茶は中国茶で凍頂烏龍茶と言います。ほら、このように日の本のお茶の入れ方とは違うのですよ」
心は上海に来てから覚えた淹れ方で、お茶を楽しんでいる。熱湯。注いだ茶器の上からも湯をかけ茶葉を十分に開かせ、香りを楽しみながら飲む。良いお茶だと何煎も楽しめる。
「本当だ面白いな」
「そうですよ、紅。世の中には知ると面白いことは沢山あります。この旅では色々な所へ行くし。
薬の所や刺繍やレース等の手工芸。
友子が行く、薬草の採取やプラントハント。
紅は自分の興味がある所に色々行ってみるといいですよ。皆、紅と一緒にいるのは大歓迎です」
紅はその言葉に驚いて顔を上げる。
「皆は紅と一緒でもいいのでやんすか?」
「はい。紅と豆助は可愛いし、気立てのいい子達ですから、皆二人が大好きです。きっと取り合いでありんす」
「……」
紅はそれを聞いて黙り込んでしまう。
そしてお茶を一気に飲み干した後、ぽつりと言った。
「それは違う。だって天女楼では誰もそんなこと言われたことはないぞ」
(この子はこんなにも傷ついている。遊郭という厳しい環境では、誰もそんなこと言いやしないから……)
心は席を立ち、紅を抱きしめた。
「紅、遊郭は競うところ。天女楼はまだ穏やかだけど、それでも人を思いやる気持ちは皆少ない所です。
でも、船に乗ってからはどうですか?
皆はいつも紅と一緒に泣いたり笑ったり。
本音で紅と過ごしているでしょう。
戻ったら、皆に聞いてみるといいでありんす」
「そうなのか?」
「あい。絶対にそうですよ」
お茶をしたあと、二人は日本人居留地に戻ってきた。
松江とえりが昼食の準備を現地の料理人と一緒に説明を聞きながら手伝っている。
松江が帰ってきた紅を見つけた。
「あ、紅ちゃ〜ん!今ね、肉饅作りを習ってるのよ。一緒にやらない?」
「え、わっちでやんすか?」
「うん。生地をコネコネして包むの。楽しいよ!」
「紅ちゃん、えり姫様のやり方をよく見てやるんだよ。姫様はもう既にプロ並みです!」
横で聞いていた理央が、相変わらず恋は盲目的な口出しをている。
「あい。わっちはやってみるぞ!」
「よしよし紅ちゃん。じゃあエプロンをつけましょう」
孔ちゃんが小さなエプロンを紅につける。
「紅ちゃん可愛いのよ!美桜と雅も一緒にやるぅ〜」
桜雅コンビも小さなエプロンをつけ一緒に肉饅頭作りを楽しむ。紅は皆を真似て一生懸命に作る。
「お、紅ちゃんはなかなか筋がいいわ。この調子だと、お料理前半上達が速いかもよ。また一緒にやろうね」
「そう?紅は上手いか。なんか嬉しいな」
紅は松江から褒められ何だか嬉しい気分になる。
そうしているうちに、ホカホカの肉饅頭が出来上がった。
「さあさあ、私とえり、紅ちゃんと桜雅コンビで作った肉饅頭だよ!食べて食べて〜」
松江が声をかけ、さっと理央と孔ちゃんが肉饅頭を皆のもとに運ぶ。
「いっただきま〜す!」
皆で出来たばかりの肉饅頭にかぶりつく。
「美味しい!これいいよ」
「本当だ!紅ちゃんも桜雅コンビも初めてとは思えないよ」
「やったね〜紅、美桜、雅!」
「心様、紅が包んだ奴を食べるでありんす」
「う〜ん。紅、これは美味しい!上手ですよ」
「そうでしょう。紅ちゃん、なかなか筋が良いのよ。しばらく私達とお料理しない?」
えりが早速、紅を料理チームへ勧誘する。
「いやいや、明日から行く薬の店に行ってみようよ!色んな薬草があって楽しいよ!紅ちゃん」
友子も負けじと薬屋に誘う。
「健さんの所に行って、裁縫を習うのも楽しいよ!
今日も行くけど、また花を作んなきゃ!」
心も必死に勧誘する。
「私達と料理!」
「いや、あたし達と薬屋!」
「いや、わっちと健さんの所!」
紅は皆の様子を見て、呆気に取られていた。
(ここではわっちは邪魔ものではない。皆、ちゃんと一緒に過ごそうとしてくれる)
「紅は、朝ごはんを松江様とえり様と作って、一日は健さんの所、別の日には薬屋に行きたい。
全部やってみたいのだ。だめか?」
「勿論!問題無し!」
皆が笑っていた。
皆の争奪戦の結果、紅は明日松江達と朝食作り。
その後、友子らと初めての薬屋に行くことになった。
「よし、じゃあ明日薬屋に行く時のお洋服をコーデしましょう……」
心も紅の為、薬屋訪問の際のコーデの事で幸せ一杯であった。
◆
月の夜空が寒々しく感じる夜更け……
心と一緒のベッドでスヤスヤと笑顔で寝ている紅の体の中で、小豆大位の黒い塊は、黒から薄いグレーの色に変わり、塊は霧状のおぼろげな感じに変わっていた。
読んで頂きありがとうございました。
次回の投稿は10月19日(月)20時です。
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