53話 河の主様と豆助
53話 河の主様と豆助
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「流様は、魚を捕る時はいつも神の声を聞くのか?」
まるちゃんがたずねる。
「そうだよぉ。神の声を聞いて自然を頂いていると、自然の精霊も色々と教えてくれるんだよ〜
それは友子も一緒だ。な、雅ちゃん」
「そうなの。お母ちゃんも山の神様や自然の精霊達とお話してるのよ。だからいつも薬草やプラントハントも上手くいくのよ〜」
「どの辺りがいいか、河の神が教えてくれると思うから、しばらく船で河を上って行くかねぇ」
流はそう言うと、神の声を聞くためか、船の先頭に立ち目を閉じた。
しばらくすると治助が、船尾の付近に黒い大きな影があるのを見つける。
「流、船の後ろに大きな影がいるよ。あれは何だい?大丈夫かね」
「治助様、あれはこの河の主だ。大丈夫だよう〜
今迄も何回か会ってるんだ。
丁度良かった。今回、河の魚を頂くことのお礼を言っとこうなぁ〜」
そう言うと流は船尾に移動して、手を合わせた。
小さなキラキラした光が河の黒い影に吸い込まれていく。
「よし。挨拶は終わりだ〜」
流がそう言うと、魚が一度大きくジャンプして遠くに泳いで行った。
「大きい魚だ、凄く大きいぞ。七色の鱗なんて初めてみた。ナマズみたいな髭も面白いな!豆助はあんな魚見たことがない!治助様と一緒に来て良かった!」
豆助は興奮して身を乗り出し、河の主が遠くへ泳いで行くのを見ている。
「お〜い、あんまり身を乗り出してると危ないぞぉ~落っこちる……」
ばしゃ〜ん!流が注意してる間に豆助が河に落ちてしまった。
河の速い流れに豆助はどんどん流されていく。
(わっちはここで死んでしまうのか。死にたくない!助けてくれ、心様!)
豆助の意識はどんどん遠くなっていく。
遠くなる意識の中で、心花魁と会うまでのことが走馬灯のように頭に浮かんでいた。
◆
豆助と紅は豪商の家に生まれた。母親は二人を産むと間もなく、産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった。
「双子は縁起が悪いと昔からいうぞ」
「母親は双子を産んだせいで亡くなった」
「商売をしている家にいてはならない」
周りから多くの双子を不安視する声が上がった……
店の繁盛を第一に考える父親は、二人は蔵で育てるよう命令した。蔵以外は側にある小さな箱庭にだけ、出ることを許された。
身の回りを世話する乳母だけが、二人の知っている人間であった。
ある時、父親が新しい妻を迎え、翌年には男子が生まれた。すると……
「せっかく生まれた跡取りに災いがあるといけない」
という義母の意見で、二人は七歳で遊郭に売られたのだ。
そして天女楼で心花魁に会って、禿として下に付き、色々と教えてもらった。優しくしてもらった。
蔵と箱庭しか知らなかった二人は、たとえ遊郭でも心花魁の側に入れればいいと思っていた……
◆
「豆助!」
まるちゃんが河に飛び込んだ。豆助を追っていくが、なかなか追いつかない。
まるちゃんがもう少しで追いつくところで豆助は河に沈んでいった……
「加羅様!」「助けてあげてなの!」
「治助、雅、河の底では我の力は及ばない。
だが……」
「そうだ。きっと大丈夫だ」
「流!何を根拠に言ってるんだい?」
豆助は河の深く深く沈んでいく。
すると、急に体がふわっと軽くなり、全く苦しくなくなった。
(あれ、わっちはもう死んでしまったのか?)
豆助は気が付くと何かの背に乗っていた。
「そなたは流の仲間だね……」
「え、ひょっとして河の主様でやんすか?」
「そうだよ。私が近くにいて良かった。今、船に連れて行くよ……」
豆助と河の主様の周りには丸い玉ができていて、普通に息ができる。
「河の主様、わっちを助けてくれてありがとうございます」
「流は私の友人だからな。いつもここに来た時はちゃんと挨拶してくれる。この世界の人間のこともよく教えてくれるんだ。それがなかなか楽しい」
「そうだったのか。流は凄いな……」
「豆助といったな。一つ教えてやろう。お前と同じような人間の中に、何かがいるぞ。そいつはその人間の負の感情を吸っている。大きくなると厄介だぞ。お前が気をつけてあげるんだ。私は人の心に敏感なのだ。
豆助を通して、それが分かる」
「なんだ、それは紅の事か?」
「今すぐ何か起こるわけではない。
その子の負の感情が大きくならないように見守ってあげるんだ」
「分かった。ありがとう主様。主様、名は何と言うの?」
「私には名はない。いつも主様と呼ばれるが」
「それじゃあ寂しいな。じゃあ……
月の河と書いて月河王という名前はどうじゃ」
「私に名前を?月河王か……
いい名前だな。とても気に入ったぞ。ありがとう豆助」
月河王という名前をもらい、主様はよほど嬉しかったのか、七色の鱗が川底でも分かるくらいに、光輝いた。
「おや、向こうにいるのはお前達の仲間じゃないか?」
まるちゃんが川底を必死に探し回っているのが見える。こちらを見つけて泳いでくる。
「あ、まるちゃんだ!」
「豆助!見つけたぞ!」
まるちゃんがやってきて、月河王の球体の中に入った。
「豆助!良かった、無事だったのだな。本当に良かったぞ!河の主様、豆助を助けて頂きありがとうございました」
「主様ではない。月河王じゃ」
「月河王?」
「河の主様の名前じゃ。豆助がつけた。
いい名前じゃろう」
「おお、それは美しい名前を考えたな。豆助」
まるちゃんが豆助の頭を撫でると、豆助は嬉しそうに目を細め思う。
(わっちは、今が一番幸せだ)
月河王は、あっという間に船に連れて行った。
「良かった。思ったとおりだったよ〜
助けてくれてありがとう。主様」
「いやいや流、大したことはないぞ。たまたま近くにいたからな。
それより私は、今日から月河王になった。豆助が名をくれたのじゃ。これからはそう呼んでくれ」
月河王はかなり嬉しそうだ。
「おう、月河王か。いい名前だ。
それは良かったなぁ〜」
「うむ。私はとても気に入った。
豆助、あらためて礼をいう。
そしてまる、紅という豆助の片割れに気をつけてやれ。お前の主を慕っているのだろう。
その気持ちがこじれると大変になるのだよ」
「はい。月河王様」
「では、またな流、豆助、皆」
そう言うと、月河王は虹色の輝く大きな体をひねりながら、河の奥に消えて行った。
「さあ、また河を登ろう。豆助今度は気をつけるんだよ〜」
流はそう言って船を進めさせる。
「豆助、まるちゃん、『紅を気をつけてやれ』とはどういうことだい?」
「うん、それはな……」
豆助とまるちゃんが皆に話を始めた。
次回の投稿は、10月12日(月) 20時です。




