第51話 訪問の服は誠意と誇りと白雪
第51話 訪問の服は誠意と誇りと白雪
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読んで頂けると嬉しいです。
「いやぁ、この上海で心ちゃんと会えるなんて。嬉しいなぁ」
刺繍職人軍団の健さんは、思わず心に駆け寄って握手をする。
「わっちは異国に衛生材料と薬を探しに。あと、大好きな手工芸品や民族衣装を見に来たんでやんす」
「そうかい。そりゃあ心ちゃんらしくていいね。私は上海に洋装のオーダーメイドと中国の刺繍を学びに来たんだ。刺繍は各国でやり方が違うからね。大変だけど楽しいよ」
「それはわかる!やぁ私もいろんな国の刺繍を勉強してみたいな〜」
「ははっ、心ちゃん、花魁言葉が乱れてきたね。
皆様、先にお入り下さい。
これじゃあ店に入る前に、話が止まんなくなっちまう」
一行とハンカチを買いに来た男性は、店の中に入る。
「お客様、先ほどは大変失礼致しました。ハンカチはどのような物をお求めでしょうか?」
「妻用です。上海に来て一年ですが、飯屋の経営もやっと軌道に乗ってきまして。お疲れ様の気持ちも込めて、美しい刺繍入りのハンカチを渡したくて」
「それは素敵でありんすね!奥さまの好きな花を刺繍で入れたハンカチなんてどうです?」
「あれ?あなた様は、あの有名な心花魁ですか?一度だけ天女楼に料理をお持ちした時に、お見かけしました。いやぁ美しい!あ、これは失礼致しました。
いや、好きなものを刺繍で入れるとは。
私には思いつかない。良いですね」
「あとは、二人の思い出の場所を刺繍してもらうとかね。健さんの腕前なら何でも刺繍してくれるよ」
心はもう店員のようである。
「う〜ん。そうですねぇ、何がいいだろうか……
あ!白雪だ。それがいい!」
「お客様、白雪とは?」
「私たちが江戸にいた頃飼っていた白猫です。こちらに来る直前で亡くなってしまいまして……
長毛で洋猫みたいな猫でした。妻がとても可愛がっていたんです」
「白猫!なんて可愛らしい。そして長毛!もふもふだぁ」
「松江様、落ち着いて下さい。しかし愛猫を刺繍するとは素敵な案ですね」
孔ちゃんがさりげなく後押しする。
「それでは先ほどの非礼のお詫びに、刺繍代金をサービスさせて頂きます。ハンカチの料金だけで構いません」
「そんな、いや却ってすいません」
「良いんです。お店側の不手際ですから。
さぁ、では白雪ちゃんの姿を教えて下さい。
その間に心ちゃん達は、デザインブックでどんな感じが好みか見ていて下さいね」
早速皆で洋装のデザインブックを見てみる。
「まあ、宮爺と理央はコートとスーツだろうね」
「スーツですか。えり姫様、私は着こなせるでしょうか」
「心配しなくても大丈夫よ、理央。
着物より動きやすいし、訪問するまでしばらく洋装で過ごせば慣れるんじゃないかな?」
「そうですか。では頑張ります!」
「じゃあ、一応着てみようか」
宮爺は濃いグレー、理央は白髪に映える深いボルドー色のスーツ。シャツは顔映りに合わせてそれぞれ選んでもらう。
「二人ともバッチリ似合うよ。素敵」
「理央、とても素敵よ」
「えり姫様そうですか?」
「宮様、理央ちゃん、とても似合いますよ」
「ほんとうよ!理央ちゃん」
皆が二人を褒めている。
(最先端のデザインが、前世の明治初期に流行ったフロックスーツではなく、現代のスーツに近くなっている。やっぱりこの世界は少し時代が先行しているね。明治中期から後半の世界になっている。これは薬もかなり期待出来るかも……)
心は今流行りの服装から、この時代の進み方を考えていた。
「次は私たち。特にえりね。
この時代だと、バッスルシルエットで後ろが膨らんでいるの。
以前より膨らみが減ってスッキリしたの。活動的になった女性の為の服だよ。きっと、えりや皆にも似合うと思う。ほら、見て!」「ほんと!これ、可愛いね」
次第に女性陣は盛り上がっていく。
まずはえりが着てみることにする。
体に沿ったデザインジャケットに首元までつまったブラウス。コルセットのおかげで腰周りは細く、後ろに少し高さが出るバッスルデザインの女性が動きやすい丈になったロングスカートにブーツ。
帽子には、華美すぎない飾りが付いている。生地は色白のえりに映えるように薄いピンクにしている。
「これはこれは、ここまで着こなせる日の本の女性はなかなかおりませんよ。いやぁこれは素敵だ」
「健さん、これはいいね」
皆、えりの姿にも見惚れている。
「でもコルセットはちょっと大変よ」
「しばらく装着して慣れないとね。
みんな似合うんだけどさ。
う〜ん……」
「どうしたの心?」
何だか納得できなさそうな心を見て、えりがたずねる。
「私たち、この時代の洋装はさすがに着慣れてないでしょ。服に着られてる感じでさ。
これじゃ皆の良さが相手には分からないよ。
だからって和装の格好にしても、相手への誠意は伝わらないと思うのよ。
挨拶や交渉の場では、一番大事なことでしょう?
前世なら異国に追いつけ追い越せみたいな所があったけど、この世界なら、自国の文化への誇りも出していきたいじゃない?
う〜んそう思うと、友子は良いよね」
「えっ、そう?」
「うん、元々が和洋折衷だし。
お互いの文化にリスペクトがあるよ。
……ってそうか!和洋折衷だよ。
それに白雪の心遣いだよ!
よし!健さん、ちょっとちょっと」
「おや、心ちゃん。何か思いついたね」
「うん、訪問の時だけど。いっそのこと皆で行ってさ……」
心は健さんに耳打ちする。
「いや、それはいいねぇ。最高だよ。相手も喜ぶだろうよ!なら心ちゃん、早速情報収集だな。
ふふふ、久しぶりに腕が鳴るねぇ」
「私も手伝うよ、健さん!」
「そうかい?じゃあお願いしようかな?」
二人は職人同士にしか分からないハイテンションで、盛り上がっていた。
「あの、宮爺ももう少し可愛い奴にするとかはいらんかの?」
「……いや、そこはこっちの服の感じがいいでありんす」
「そうかい?でもこちらの着物も良くないかな」
宮爺もちょっと二人のノリに参加してみようとするが、二人に綺麗に無視された。
次回は9月30日(水)20時に投稿します。
よろしくお願い致します。
*9月29日(火)19時、スピンオフのお話
「お疲れなアラサー着物女子、推し活旅で推し友の神対応に癒された件」 の第六話
を投稿致します。良ければお楽しみ下さい。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。皆様の日々のちょっとした楽しみに。
そして心がふわっと軽くなってもらえたら嬉しいです。




