50話 上海の朝、宮様一行テーラーへ行く
50話 上海の朝、宮様一行テーラーへ行く
投稿します。読んで頂けると嬉しいです。
投稿遅くなり申し訳ありませんでした。
上海の朝は賑やかだ。船が多く行きかい、港でその船の積み荷を降ろす時のクーリー(人夫)の歌が響く。朝食を売る屋台、商売の荷物を運ぶ人々。街を行き交う色んな人種の人達。
「上海ってこんなに賑やかなんだね〜」
「そうだよ、えり。港にも蒸気船や世界からの船が行き交って、正に世界の港って感じだよね。あたしも何回か来てるけどここ最近の発展は凄いよ」
「皆、おしゃべりしつつ朝ごはんも食べなよ。中華粥、冷めちゃうよ」
「でも、わっちは猫舌でやんすから。少し待たないと無理でありんす」
「おや、心は猫舌なんだね。何だか可愛いな〜」
「治助様も早く食べて」「そうだ冷めるぞ」
「あ、はいはい。すいません」
豆助と紅に言われ、治助は素直に従う。
皆は朝食を食べている。今日の朝食は中華粥。
日の本の粥と違い、乾燥貝柱の出汁で炊いた粥に、ネギや生姜、パクチーのトッピングや、油条という中華式の揚げパンを入れて食べる。
「豆助ちゃん、紅ちゃんは日の本の粥とは随分違うけど大丈夫なの?」
「松江様、豆助は普通の粥がいい」
「紅は、心様と同じでいいぞ」
「じゃあ、豆助ちゃんだけ日本の粥を持ってきてあげるね」
「松江様、豆助は自分で取りに行くぞ」
「お、じゃあ豆助ちゃんお願い」
豆助は最近自分の意見をちゃんと言える様になってきた。心はそれをちょっと嬉しく思っていた。
二人は今迄、話す時は交互に。
あまり個々の主張はなく、いつも二人で一人のような子達だった。
遅いけどやっとそれぞれに個性が出てきた気がする。
「皆、食べながら聞いてくれ。ここからは各々別行動になる」
平松の宮が話し出す。
「治助と流は一旦上海を出るまで別行動じゃ」
「そうそう、河の状態を見ないと、釣りの日程を組めないからなぁ。何日かは治助様も一緒だなぁ〜」
「流様はどんな魚を釣ろうとしているの?」
「ああ、豆助ちゃん。魚は出来るだけ大きい奴だな。いい金になる。まぁ俺は大きい方が釣りごたえがあるから狙うんだよぉ〜」
「そうか。それは凄いな」
豆助が目をキラキラさせて流の話を聞いている。
「そうじゃ。治助達以外の皆は、外出着を日本人街のテーラーで買わないといかんな。
特にえり姫の役人に挨拶に行く時の服をちゃんと選ばねばならん。心、よろしく頼むぞ」
「うふふ〜、それは楽しみ!
宮爺と治助様もすでに斬髪だし、洋装も似合いそうでやんすね」
「宮爺、あたしはいつもの服で平気。多分、『胡慶余堂』にも知り合いがいるからきっと驚かれないし」
「お、友子様、それは頼もしいな」
「豆助と紅もわっちと一緒に、テーラーに行きましょう。二人にも可愛い洋装が必要でやんす」
「心様、豆助は治助様について行きたい。加羅様も一緒じゃ。わっちは流様が大きな魚を釣る所がみたいんだ」
「え?確かに船に乗るから加羅様はついて行くだろうけど、豆助は邪魔じゃないの?」
「いや、心様加羅様に機嫌よくいてもらうのに豆助ちゃんは居てもらうと助かる。紅ちゃんは良いのかい?」
「紅は心様といる。洋装もみたい」
(二人が別々で行動するのは、今迄で初めてなんじゃ。こうやって少しずつ大人になっていくのかしら……)
心は少し驚いていた。
「念の為、俺と雅ちゃんも治助様について行くよ。
途中で流様とも別れるんだろ。孔ちゃんと、理央ちゃん、美桜ちゃんが、平松の宮様に付いてくれ」
まるちゃんが、使役をチーム分けした。
(一度感じたわずかな空気の違和感が、何かあってはいけない。俺らしか分からないからな。半分に分けて警戒しなきゃ)
昨日使役の皆でそう決めていた。
「では、午後から出発じゃ。支度せよ」
皆が各々支度を始めた……
外国人居留地には、日本人街ができている。
初めは大変だったらしいが、今ではここは日本では?と思う位の賑やかな街並になっていた。
「どうする?えり。最新の洋装のドレスも良いよね。あ、それとも豪華な大振袖にしちゃう?髪は日本髪やめて、可愛いまとめ髪にしようね!
理央ちゃんは特別にお付きの人として洋装を、着てもらうからね……うっわあ、好き!楽しいねぇ」
「出た!心の『うわぁ、好き!楽しいねぇ!』だよ〜これが出ると止まんないよ友子……」
「だねぇ、でもしようがないよ、松江。
心はさ、えりのウエディングドレスの材料も、こっそり見るつもりなんでしょ。刺繍とかレースとかさ」
その心は、紅と手をつなぎスキップしそうな勢いでテーラーに向かっている。
「着いたぞ。あれがテーラーじゃ」
宮爺が指さす方をみると、何やら店の前で揉めている人がいる。
「さっさと出ていかんか!もう宮様方がおいでになるんだ。お前なんか相手にしてる時間はない!」
「旦那様、それはあんまりです。
このお客様にもちゃんと見ていただきましょうよ」
「うるさい!こんなハンカチだけ買いに来た奴なんか後回しだ」
店主とみられる男が店員に手を振りかざす。
「その手は下ろしたほうが良さそうですよ。店主」
孔ちゃんが、素早く店主の手を持ち、後ろに回す。
「痛い!何をするんだ」
「すいません、言って分からない方にはこうするしか無くて」
「ああ、孔よ。店主を離してやれ。もういいのじゃ」
「おや、そうですか?」
店主がほらみろという顔で、孔ちゃんを見る。
「そやつはもう、店主でも何でもないからな。店とは関係ない。クビじゃ。店員、今日からそなたが店主じゃ」
「そんな事が爺さまに出来るはずがない」
店主は、いや元店主が言い放つ。
「出来るのだ。ここは私がオーナーの店だからな。
ほれ」
宮爺が指さす看板を見ると、「テーラー平松」となっていた。
元店主は、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「覚えてろよ!」
捨て台詞を残し、どこかに消えて行った。
「あやつはしかるべき処分を考える。新店主。
気にせずともよいぞ」
「宮様ありがとうございます。
さあ、お客様、宮様御一行、大変失礼致しました。どうぞ」
新店主は、男性と宮様一行にお辞儀をし、店のドアを開ける。
「お待たせ致しました。お入り下さいませ」
そう言って新店主が頭を上げると……
「あれ?心ちゃんじゃないか!どうしてここに!」
新店主が大きな声を出す。
「え、健さん!いったい何で上海にいるの?」
「久しぶりだねぇ心ちゃん!いやぁ懐かしい!」
えり姫の着物や特攻服長襦袢を心と一緒に刺繍をした、『ドッキドキ!見るもの聞くもの初めてばかり!えり姫の歌舞伎ツアー』の扇子も刺繍した、刺繍職人軍団の一人、健さんだった。
次回は9月28日(金)20時に投稿します。
よろしくお願い致します。
*9月29日(木)19時、スピンオフのお話
「お疲れなアラサー着物女子、推し活旅で推し友の神対応に癒された件」 の第六話
を投稿致します。良ければお楽しみ下さい。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。皆様の日々のちょっとした楽しみに。
そして心がふわっと軽くなってもらえたら嬉しいです。




