44話 異国旅への準備 最後!
第44話 異国旅への準備 最後!
投稿します。読んで頂けると幸いです。
「あの〜、心花魁、お支度はまだでやんすか?」
豆助が心にたずねる。
「治助様もお忙しい中、異国旅の支度の合間に来てくれたんでやんすよ」
紅も心を急かしている。
「わっちも異国旅の支度で忙しいのですよ。
ねぇ、豆助と紅見てくんなまし。この伊勢木綿の格子柄と縞の着物、どちらが好きです?」
「格子柄で!」「縞で!」
(あ、しまった!これじゃ駄目だった!)
豆助と紅はお互い顔を見合わせ、うなだれ……ない!今日はちゃんと新たな作戦があったのだ。
二人はそばにいる狆のまるちゃんに、
ドヤ顔をしながら心に言う。
「あの……心花魁、治助が今日異国旅に向けて平松の宮様から預かった本があると聞きました。
何でも心花魁が以前から宮様に頼んでいたものとか」
「ああ!やっと来たでやんすか。じゃあ急ぎ支度しましょう。そういえば治助様にもずっと会っていませんねぇ。お顔を見るのも楽しみでありんす」
(え、今なんて言った?楽しみ?)
豆助と紅はおののいた。何だか今迄の治助様への態度と少し違うような……
「治助様にも、異国旅の支度のコツを聞かないといけません」
「ああ、やっぱりそうですか……」
豆助と紅はがっくりうなだれた。
「ぐふっ!」
狆のまるちゃんの鳴き声は、まるで二人を見て笑うようだった。
心花魁は支度をして松竹亭に向かった。乳白色から裾に向かい徐々に橙色になる地色に、様々な菊が染めと刺繍で表現された打掛と、べっ甲で作られた菊の簪が、初秋を感じさせる装いだ。
松竹亭の入り口迄の苔の絨毯にも、少しだけ色づいた桜や紅葉の葉が舞い落ちて、秋の静かな足跡を感じさせる。
「治助様、お待たせ致しました。心花魁でありんす」
挨拶をして頭を上げると、立派な菊の鉢植えが目に入った。黄色と白の二つの糸菊。細い花弁が下に広がり、まるで花火が垂れ落ちるかのような大輪の花を咲かせている。
「心花魁、元気だったかい?異国への旅支度で忙しい中悪かったね。お詫びに美しい糸菊を持ってきたんだよ」
「本当に見事な糸菊でありんすねぇ……
わっちの今日のお支度とぴったりでやんす。
菊の花もとてもよい香り。
治助様のお心遣い、いつも嬉しく思います」
「いやいや、忙しくしている心花魁に、この時だけはゆったりして欲しくてね。食事の後に平松の宮様から預かっている本を渡そうか」
「いえ、わっちは食事の前に見たいでありんす」
「相変わらず気持ちが良いくらい正直だね。では持ってきておくれ」
そう言うと、えりが本を持ってきた。
「えり、なんで?びっくりしたぁ」
心は花魁言葉が出なくなる程驚いた。
「ゆっくり食事をしてから驚かそうと思っていたのだよ。まぁいいか。
えり姫様も旅支度を聞きに来たんだよ」
「えり、理央はどこなの?」
「ああ、孔ちゃんとまるちゃんといるよ。心、私にも本見せてよ。はい、どうぞ」
「世界の刺繍」、「世界の民族衣装」、えりが渡したのは二つの本だった。
刺繍の本は、中国のスワトウ刺繍、インドのビーズや金銀糸を使った刺繍、フランス刺繍や、メキシコのカラフルな刺繍など様々な刺繍が載っている。
民族衣装の本にも、様々な衣装と一緒に美しい髪飾りなどの宝飾品で着飾った綺麗な人々が衣装の説明と共に載っている。
「わぁ〜、なんて素敵なんだろう。特に中央アジアから、中東の衣装はやっぱり素敵だなぁ〜
うふふん、こんなん、何時までも見ていられるよ!
これ、行く先々で見れちゃうのかなぁ?こっちの世界だと、どうなってるんだろう」
心はうっかり前世のことを話してしまう。
「そうだね。こちらでは、多分、しん国というのが中国なのかな?刺繍の手技や民族衣装もほとんど変わらない。いやどちらかと言うともっと豪華になっているかな。インドもそうだね。こっちの印度はより壮麗だよ」
治助は普通に、心の前世の世界の本に順応していた。
「あの……治助様、この本が変だとは思わないのでありんすか?」
「ああ、驚かせてすまないね。今度心花魁達と一緒に異国に行くからって、あらかた平松の宮様から事の経緯を聞いたんだよ。
私もある程度は神様の声が聞こえるから。
あまりびっくりはしなかったんだ」
「治助様、それでも異世界から転生してきたと聞いて、私達には何も思うところは無かったのですか?」
「うん、だからって四人や使役さん達の何かが変わった訳ではないだろう?心花魁の言葉を使うなら、皆は私のお気に入りだよ」
「治助様……」
(この人は心の底から優しい穏やかな人なんだ。何だか嬉しいな)
心は、えりと笑いながら、本を見ている治助様を見つめていた……
「そうだ、治助様。旅支度の心得をお教えください」
「えり、あんたメモ帳まで持って」
「だってぇ〜ちゃんと準備しないと」
「いい心がけですよ。えり姫様。そうですね。
換えの効かない物は最小限で持っていく。
無くしたくない物は持っていかない。
逆に現地調達出来る物は要らないです」
「なるほど。続けてください」
えりがメモを取る。
「例えば衣類は現地調達できます。
悪目立ちしないのでおすすめです。
日の本の衣装を見せたければ普段着と正装が二三着あれば充分です。絶対に忘れてはならないのは体にあう薬です。これは友子様がいるので安心ですね」
「そうでしたか。わっちは衣装や小物だけでも大変な数だと困っておりました。現地調達!それは何とも楽しそうですね治助様」
「はい。色々な服装はきっと心花魁は楽しいだろうね。あともう一つ、神様方とも、約束された薬の事だけどね」
「それもお聞き及びでしたか」
「そうなんだ。それで私も何とか皆の力になりたくてね。各地に研究者や薬を扱う友人がいるんだ。
紹介するから会ってみたらどうだい?
何か糸口がつかめるかもしれないよ」
「それは嬉しい話でありんす。治助様、是非お願いします」
「嫌だね。心花魁。私達はもう旅仲間じゃないか。遠慮は要らないよ」
「そうですね。花魁として会う以外は、わっちのことは心とお呼び下さい」
治助はそれを聞いて、びっくりした。
「うわぁ……本当にいいのかい?」
「はい」
「じゃあ、じゃあ練習で……心様」
「はい、治助様」
うっわぁ〜 治助は全身真っ赤になり倒れそうになったが、何とか持ちこたえ、少し成長した治助だった。
松竹亭で皆が異国旅の話をしている頃……
友子と流が後にした山の奥地では、黒い塊が渦を巻くようにうごめいてまた少しだけ大きくなっていた。
次回の投稿は 9月18日(金)20時です。
明日、9月17日(木) 7時 スピンオフのお話を投稿致します。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。皆様の日々のちょっとした楽しみに。
そして心がふわっと軽くなってもらえたら嬉しいです。




