36 孔ちゃんとまるちゃん、稲荷様に会いに行く
本日から投稿を、再開します。今後は
週2回から3回、 (月)(水)(金) のいずれか
20時〜21時
で投稿致します。今後ともよろしくお願い致します。
「さて、どうしたものかなぁ。俺、あんまり口達者じゃないしな。何て言えばいいんだ?孔ちゃん」
「まぁ確かにまるちゃんは行動で示すタイプですからねぇ……。
私も一緒に行きますが、吉原の稲荷様がまるちゃんに聞かれると代わりに答える訳にはいきませんよ」
「だろ!」
「いや、そこに自信を持って答えられてもね」
孔ちゃんはそう言いながら考えてみた。
(吉原の稲荷様にはまず、味方になってもらうこと。伏見稲荷神社の稲荷様、いや大稲荷様と呼ぶべきだろう。理央ちゃんの結婚を認めてもらう足がかりだ。失敗する訳にはいかない。だが……)
「大丈夫ですよ。まるちゃんならきっとうまくやれます」
「そうかな。孔ちゃんが言うなら大丈夫だな!」
(神の前でいくら繕っても駄目だ。正しい交渉とはいえない。まるちゃんには素直に思いを話してもらうのが良いだろう。今は自信をもってもらう方が大切だ)
そんな話をしながら二人は、松竹亭に向かう。松江が稲荷様への供物として作るいなり寿司を取りに来たのだ。
松竹亭では松江が供物の支度をして待っていた。
「はい、孔ちゃん。今回のいなり寿司はかなりの自信作よ!きっと稲荷様も気に入ってくださるわ。あとまるちゃん!」
「はい。なんでしょう?」
「そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫よ。まるちゃんが理央ちゃんを大切に思うその気持ちがあれば、きっと稲荷様には伝わるよ。私はそう思う」
「そっか!そうだよな。やっぱ真心だよな。松江様ありがとうございます」
松江はそう言いながら、孔ちゃんにウインクをする。
(松江様、気の流れで私が稲荷様との交渉で、不安があると見抜かれるとは……)
「あっぱれでございます、松江様。
流石でございます……」
いつもは、松江と「王と軍師ごっこ」で使うセリフを、孔ちゃんは思わず呟く。
そして、にっこりしたあと松江にウインクを返した。
「はうぅ!」
「い、いってらっしゃい。頑張って」
松江は、孔ちゃんのウインクのあまりの破壊力にうずくまりながら、見送ったのだった。
◆
松竹亭から吉原の稲荷神社は歩いてすぐの所にある。
まるちゃんは「よし!よっしゃあ!」
と一人気合いを入れながら歩いている。
「着きましたよ」
孔ちゃんが吉原の稲荷神社を見上げる。
(自分もまるちゃんも、この稲荷様の計らいで異世界から転生してきた二人の使役になっている。この事は偶然なのだろうか)
そう考えていると、一匹の白い狐が目の前に現れた。
「こちらからどうぞ。稲荷様がお待ちです」
白狐について行くと、光輝く本宮が見えてくる。その光の中に入っていくと、そこには美しい部屋があった。
普通は小さなお宮があるだけで本宮がある大きな神社には見えない。神や使役、選ばれた人間だけが繋がる場所が、この部屋であった。
神社と同じ赤い柱で囲まれた部屋の中で、稲荷様は異国の椅子に座っておられる。
「まる、孔、久しぶりじゃな」
「ははっ!」
稲荷様は白く長い真っ直ぐな髪に、宮司の様な装束。体全体に後光が差している。中性的な麗しい顔立ちで、手には異国のものに見える扇子を持っていた。
「そなた達、今日は何の用でここに来たのだ。まるよ、答えよ」
「あ!あの、今日、私はえり姫様の使役の理央がっ、け、けけ」
まるちゃんが真っ赤になりながら頑張って話そうとしている。
(頑張るのだ!まるちゃん)
孔ちゃんは必死のまるちゃんの背中にそっと手を当てる。
「使役の理央とえり姫様との結婚をお許し頂く為に、稲荷様のおちっ、お力添えをお願いしたくっ……」
「ほほほ、まる。上等じゃ。うまく言えたの」
稲荷様は真っ赤になりながらも、必死で話すまるちゃんをねぎらった。
「稲荷様……まるちゃんは、」
孔ちゃんがもう一度説明しようとしたが、稲荷様はそれを手で制した。
「孔よ、大丈夫じゃ。わらわは全て承知しているのだ。ほれ、先日の平松の宮の宴に、シロを見に行かせたのでな」
稲荷様がシロと呼ぶ白狐は、人型になり稲荷様にひざまずいていた。
「本来、使役とは主に仕えていくものだが……。えり姫を支えていくのは、ひいては帝の御心の安定に繋がり、それは日の本の安定に繋がることは確か。夫婦となり、えり姫を支える事は重要ぞ。私はこの申し出には賛成する」
「なんと!稲荷様ありがとうございます」
まるちゃんが喜び感謝しているが、
孔ちゃんの顔に笑顔はない。
「稲荷様、して今後私共にどうしろと?」
「さすが孔じゃな。この件に関して、大稲荷様は恐らくお一人では決めることはないであろう。
日の本の安定に関わるなら、大国主命様も出てこられるはずじゃ。伏見稲荷神社に向かう際は、その事も考えねばならん」
「わかりました。お教えに深く感謝致します」
孔ちゃんは深く会釈をした。これを見て、まるちゃんも慌てて会釈する。
「それともう一つ。まぁここからは供物を頂きながら話そうかの。シロ!」
シロが供物を持ってきた。松江が作ったいなり寿司だ。三段重にそれぞれ違ういなり寿司が入っていた。
「これは美味しいのう。いなりの中に香ばしい漬物が入っている。これはなんじゃ?」
「はい。一段目はたくあんです。少しだけ、いぶりがっこも入っています。
二段目はチラシ寿司です。三段目は何がお分かりですか?」
稲荷様は三段目のいなり寿司を食べてみる。
「これは!異国の味がするな。何というものじゃ」
「オムライスです。トマトケチャップというものでご飯を炒めて卵でくるんであります。チーズという乳製品も入っています。それを油揚げで包みました」
「く〜うっ!なんともいえぬ!」
稲荷様はほっぺを手で触り、椅子の上でじだんだを踏んでいる。
「さすが松竹亭の松江じゃな〜
異国のものも、上手く使う腕前。これはもう天上の味じゃ。や〜まいった。
先日平松の宮もこの扇子をもって来た。ほれ、気に入って使っておるが」
(稲荷様、扇子を気に入るあたり異国にも興味があるのだろう。
平松の宮から聞いて、稲荷様好みの異国風のいなり寿司を作るとは。
松江様あっぱれです……)
孔ちゃんは全てを理解した。
「しかしな、これで私が味方になるわけではない。これは、運命なのだよ」
「稲荷様、どういうことなのでしょう」
まるちゃんが尋ねる。
「うん、それはな……」
稲荷様が話しだした。
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