番外編 出会い、伏見稲荷大社
大変遅くなりました。番外編投稿しました。
読んで頂けたら嬉しいです。
よろしくお願い致します。
「伏見稲荷大社はやはり大きいな……」
その時、参道の脇からガサガサと音が聞こえる。
「何奴っ!」
信広は刀に手をかけた。
◆
「若様、若様〜」
「何事だ。そんな大声を出して」
「何をおっしゃいますか。幾ら成人されたとはいえ、遠衛家の若様が供の者もつけずに出かけるとは」
(……なぜ歩いて直ぐの神社に行くだけで。過保護すぎだろう)
遠衛信広は御年16歳。昨年成人し、今は江戸から京都に居を移している。
この世界の日の本では、帝は神事、政治は主に幕府と分かれている。
然し、帝が賜る国つ神のお告げは、政治にも深く関わる事が多い。
この為、帝は江戸で過ごす事も多く、多くの貴族もこれに従う。
遠衛家は代々大臣を務め、帝や宮家を支えてきた家柄。成人した男子は数年京都で過ごし、京都の生活、神事等を体験する。貴族として経験を積む年月なのだ。
「京に行ったら早朝の参拝を欠かさぬように」
決められた慣わしの一つで、逆らう事は絶対に出来ない。
(面倒臭い……)信広は渋々朝の参拝に来ていた。
「伏見稲荷大社はやはり大きいな……」
すると参道の脇からガサガサと音が聞こえる。
「何奴っ!」
信広は刀に手をかけた。
「斬らないで!」
茂から一人の巫女が出てきた。手には百合の花を持っている。
「この先の崖の近くに咲いていたの。綺麗でしょう?きっと神様方も喜ばれると思って」
(鈴のような声、輝く笑顔。眩しい。何だこれは?)
信広は不思議に思った。
「私はえり子です。この伏見稲荷大社の巫女をしております。貴方は?」
「遠衛信広だ」
なぜか信広は名前を言うのが精一杯だった。
翌日もえり子様は茂みから出てきた。
「信広様おはようございます。今日はりんどうが咲いておりました。綺麗でしょう?」
「……はい」
信広は参拝に通い続け短い挨拶をかわす。毎日、毎日。なぜかふわふわする幸せな日々……
季節の神事では、えり子様や巫女達は神楽女となり、神楽舞を奉納する。
四季折々の装束をまとい、煌びやかな金の天冠や花冠をつけたえり子様が踊る。
(えり子様の周りだけが、きらきら光っている。まるで天女が舞い降りたかのようだ。)
信広は何時までもその姿を眺めていた。
何度もえり子様の神楽舞を観た頃、早朝の参拝でえり子様が信広を待っていた。
「信広様、お会い出来るのは今日が最後となりました。私は巫女を辞める事になりました。」
「え?どういう事でしょうか?」
「毎朝お会いする信広様には、ご挨拶してここを去ろうと思いました。私は、神々に仕える身でありながら、何よりも大切な方とお会いしてしまったのです。」
「どういう事ですか?巫女は一生神に仕えるのでは?」
(初めてえり子様と長く喋った。でもこれが最後だとは)信広は焦ってやっとこれだけを言う。
「はい。私も全く思っても見なかった事でした。
私は神々と常に一緒でした。ですが、もう違うのです……」
えり子様は泣いていた。だが、直ぐに笑顔になり、
「信広様、毎朝お会いするのがえり子は楽しみでした。どうかこれからもお元気でお過ごし下さい」
「えり子様も……」
えり子様は深くお辞儀をして去っていかれた。
信広はそれからしばらく、ただただその場に立っていた。
◆
「とまあ、こういうわけです。儂が純真な心を持っていた頃の話ですよ。平松の宮様!」
「そうでしたか。いや誰しも一つ位は初恋のキラキラな物語があるものですね。いやぁ素晴らしいお話でした、遠衛様。こちらに呼ばれた甲斐がありました」
玉川宮邸で、一段落ついたあとは、例によって宴会が始まっていた。
「いやいや、お互いもう爺様ですが、これからは協力して日の本を盛り立てていきましょう。それに……」
「それに?」
「遠衛様を是非お連れしたい場所もあるのでな。楽しみにしてて下さい。」
「はあ……」
「ねぇ〜!遠衛のおじちゃま!一緒にお話しましょう〜」
「おうおう、美桜ちゃん雅ちゃん、今いくよ〜」
遠衛様はすっかり桜雅コンビに気に入られた様子で、まるで爺と孫のよう。
宴会はまだまだ続きます。
淡い初恋をこじらせてしまった遠衛様……ですね




