18 心の出番
「第二段階担当の心、最近の進捗状況は、どう?」
松江は心とお茶を飲んでいる時に、聞いてみた。
「うん、松江。もう成人の姿が予想できるくらいになったから、今、着々と生地から選んで作ってるよ。
えりの体の成長に合わせて着物や帯、小物、ヘアアクセとか沢山作るんだぁ!
えりは色白のブルベ冬だからぁ、まずさ……」
(ああ、こいつに聞いた私は馬鹿だった……これ止まらないよ。着物オタクめ!
おしゃれ、可愛い小物、生活雑貨、何ならクラフト系もほぼ全般大好きなオタクだもん)
「ああ、それで最近夜更かしでクマ作って、ボサボサなんだ」
「うん 楽しくてさ!」
「それはいいけど、あんた本職は花魁なんでしょ。
クマ作っていいの?」
「大丈夫、時々まとめて寝てるから。ここの出入りの着物問屋さんにも縫うのはオーダーしてるしね。
他の人もいるし!今は一人ではやってないから、少し楽~」
(初めは一人でやる気だったのか…このオタクめ!)
松江は聞いてて笑いそうになるが心は本気だ。
そのうち、
「あ!そうだ!前見た異国の総レース生地で、羽織りを作るか?
いや、いっそのことレース着物にしちゃう?
なら、宮爺か治助様に頼んで異国のレース生地や他の色々な生地や、インドの刺繍生地とか持ってきてもらおうか?うっわぁ!たっのし~い」
(もう独り言なんだか、ようわからん)
松江が半ば呆れかけていた。
「松江~治助様に連絡取れる?」
「取れるけど、天女楼でもないのに治助様、来てくれるの?……否。治助様喜んで飛んでくるよね。
しかも異国貿易で宮様の下で働いてるから、宮様も了解しやすいし」
「だね!なら直接宮様に頼んでみる」
「わぁ……ここにも本職のメロメロズッキュンとさせる奴がいたわ。こっちは本職だけど、同じく無意識。
しばらく会えてない。連絡もつかない。治助様、気が狂いそうになってるところにこれだもん。はぁ~怖!」
松江も半ば独り言のようにぶつぶつ言っていると、
「あ!何かまた新しいアイデアが!ちょっと作業部屋に行ってくるよ!治助様の件、よろしく~」
そう言って心は去っていった。
「心、一体どんなの作るのかなぁ」
えりが松江の所にやってきた。
「え?まだ見てないの、えり?」
「うん。いつも心は作業途中の反物を持ってきて『よし!やっぱえりにはこっちだ!顔色にめちゃ合ってる!』とか言って作業部屋に帰っちゃうの」
「それもう完全にゾーンに入ってるよ。
もうしばらくは自分の世界だ……」
「うん、もうほっとくしかないね」
「本当相変わらずだね、心は……」
えりと松江は可笑しくなってきた。
心は、楽しくてしょうがなかった。なんせお代は全て宮様が持つ。いくらでも欲しいものが使える。
「えり姫に似合うものを沢山作って欲しい。今迄姫を放っておいたこの儂のせめてもの気持ちじゃ」
宮様の強い願いだった。
宮爺の気持ちにも報いたい。そのこともあり、心は懸命に、いや嬉々としてえりに似合うものを探し、どんどん着物を作っていった。
(えりは綺麗な色が絶対に似合う。
和顔なんだけど、可愛い系でもスッキリ系でも似合う。
宮爺と理央に着飾って姿をみせる一着。
次は、帝がお忍びで来る日の一着。
それと訪問着数着、小紋、浴衣くらいかな?
少し治助様から異国の服も持ってきてもらおう。
着物は色合いを見て、反物を決めるだけだからかなり決まったね。
そこから、半襟と帯、帯揚げ、帯締め、帯留め、簪、草履、バッグ……
うっふっふ。笑いが止まんない。このコーデがたまらんのよ~
半襟の刺繍は頼むとして、それに異国のビーズを縫い付けてぇ。兵児帯にも端にビーズをつけて~
理央と宮爺に見せる時の着物は、えりに似合う色の着物を集めて、パッチワークで作りたいなぁ。
その生地の組み合わせも作らなきゃ!
流石に宮様の時は、素敵な宮中着を頼むけど。色重ね
は私が決めなきゃ)
こんな事を考えているから、意味不明な言葉が漏れてくる。みていてちょっと怖い。
まるちゃんはこれに慣れているのでいい塩梅で、声を掛ける。これが最重要のまるちゃんの仕事だ。
ほっとくと心は寝食忘れて、倒れるまでぶっ通しでやってしまう。
まるちゃんの声掛けで何とか食事と睡眠を取り、まるちゃんがマッサージをして、心は倒れずに作業が出来ていた。
職人気質のまるちゃんは、宮様にマッサージの先生を紹介して頂き、マッサージを学んだ。今ではプロ級の腕前になっている。
(もちろん、このことで孔ちゃんが感嘆し、また絆が深まっていた)
こうして次々と衣装が出来上がった。
だが、宮爺と理央に見せる着物がまだ出来ていなかった。
どうしても気に入ったものが出来ない。出来た生地の色合いは良い。えりに似合う。
だがピンとこないのだ。何故だろう……
心は行き詰まってしまった。
「心様、ちょっと気分転換しましょう」
夜にまるちゃんが休憩を促した。
星がキラキラと瞬いている。落ちてくるようなくらいの沢山の星々だ。
もう夜中なのに、松江とえりが夜食を持ってきた。
「疲れた心には、栄養も摂れる和風参鶏湯ね!」
初夏から始まった健康改善計画は、年も明けて、もう少しで春になろうとしていた。
熱々のスープはまだ冷える夜に、ほっと体と心をほぐす味だった。
「ありがとう。えり、松江。これ、染みるよ。とっても美味しい。うん?でも参鶏湯?漢方?友子なの?」
「えへへ そうだよ~!私も心に良さそうな薬草取ってきて毎日の食事にいれてたのよ。気が付かなかった?味の分かる心が珍しいね」
友子も起きていた。
「そっか薬膳だもんね。友子だよね。ありがとう」
「これは、秋と冬に採ってきて調合してた奴だよ。 心、一生懸命なのは良いけど体もちゃんと労わらなきゃ。まるちゃんも心配してたよ」
「うん……皆ありがとう。嬉しいよ」
心は思い切って、皆に相談してみた。
「あのね、最後に残った一着が何故かピンとこないの。色合いはとても良いのに。
食事も薬膳もマッサージもさ、皆に助けてもらってるのに。何かね、行き詰まっちゃったよ」
「心キツイ?ごめんなさい。私の為に無理させて」
「いや、基本楽しいし平気だよ」
「やっぱり心が頑張ってたらさ、そりゃあ私とえりは夜食作るじゃん」
「うん。応援したくなるから、山にも薬草取りに行っちゃうよね」
「皆、私の為に……ありがと。うん? 私の為? ん?……
そうか! 分かった! これだ! よっしゃあああ!」
心は爆速で、参鶏湯を食べ終わると凄い勢いで作業部屋に走っていった。
……が、一旦戻ってきて、
「ありがとう!皆さん!おかげ様で足りないものが分かったよ 皆さん!ありがとう!」
そう言って走っていった。
「何か分かんないけど、良かったね」
皆、ちょっとホッとして残りの参鶏湯を食べて眠りについた。




