19 理央感激で震える
「あのさ〜理央ちゃん、お披露目の時には羽織袴でって言われてるでしょ?
着物のサイズ分からないと思うから
普段着ている着物を貸してくれる?」
「心様 では持ってきます しかし当日の姫様は、さぞかし美しくていらっしゃるのでしようね。
理央は楽しみにしております」
そう言って着物を貸してくれた。
「任しといて!」
心は作業部屋へ戻っていった……
そして季節は春になった。庭には枝垂れ桜や染井吉野、八重桜など全て咲いている。
この江戸は、春になるとまるで東北みたいに花々が一気に咲くのだ。
黄色のレンギョウも色を添え、木々の隙間にひっそりと菫も咲く。様々な蝶々もひらひらと舞い、まるで
楽園のようだ。
「庭中に春が来てるねぇ、松江」
「ほんとに 孔ちゃん猫のまんまずっと寝てるし」
「思わず桜雅コンビも、鳥の姿で犬のまるちゃんと、じゃれて飛び回ってるよ」
庭には小さな茶会の席が設けてある。
今日はいよいよえり姫が無事健康に成長し成人となった、お祝いの席だ。
羽織袴の正装の理央と宮様が座って待っている。
えり姫当人と準備がある心、その手伝いのまるちゃん以外の皆は、ホスト役としてスタンバイしていた。
「ねぇ、理央は緊張でガチガチだね。えり見たら直ぐ卒倒しちゃうかも」
「ねぇ友子、その時は私達で対応しよえりの晴れ姿、今日は絶対に最後迄みてたいよね……」
「うん。だって理央はえりが生る前、巫女のお母さんからの使役だよね。お母さん、えりが生まれてすぐに亡くなってるから。その後はほぼ理央が育てたって事でしよ?」
「そうだよ〜人間で会えるのは、帝と宮様だけ。それ以外はほぼ誰とも会えないなんてさ。
えりも理央も本当に大変だったよね」
「私今の二人をみてると、嬉しくて泣けてきちゃうんだよ、松江。今日が迎えられて本当に良かったよ」
友子と松江は二人で涙ぐんでいた。
すると、桜雅コンビが胸をはってやってきて挨拶を始めた。
「えっとお、今日はえり姫のお披露目会にようこそおいで頂きましたぁ」
「僕も今日は頑張ったえり姫様の晴れ姿を見れて嬉しいです。
でも〜 今日は理央ちゃまがきっと一番嬉しいと思いま〜す。だから良かったね、理央ちゃま」
「はいっ!はぁ……」
もう理央は涙で声も出ない。
「では、えり姫様においで頂きますどうぞ〜!」
えり姫が桜雅コンビにエスコートされゆっくりと歩いて来る。
まるちゃんは鼓、孔ちゃんは笛を吹いている。桜の花びらが舞う中えり姫が皆の前に現れた。
「皆んな今日は私の為にありがとう」
えり姫を見た理央は、わなわなと震え声も出なかった。
透き通る白い肌に、薄く施した化粧。淡い桃色の唇。
『葵髱つぶ髷尾長』(あおいまげつぶまげおなが)と呼ばれる公家の娘が結う島田髷のスタイル。
(微妙に違うけど和装の後ろに長い髪が日本髪と思えば大丈夫)
髪には平打という平たい丸簪がさしてある。銀の透かし模様は稲荷狐だ。
「私、私がいる……」
理央が呟く。
櫛は螺鈿細工。江戸の名工で心花魁の客人『蛸さん』に作ってもらった。
伏見稲荷大社の印、抱き稲が螺鈿で描かれている。
花かんざしもえり姫のお印、撫子が桃色珊瑚で作られ
蝶の下げ飾りがシャラシャラ揺れる。
後ろの髪をまとめる紐は銀色の布地を細く編み組紐のように編んでいる。
「あれは……私の着物?」
理央は本当かと何度も見直している。
打掛には、宮様と理央の着物も使い、全体的には裾から藤色から桜色へのグラデーションになるように
少しずつ生地を縫い合わせてある。
その上から、裾には銀糸だけで様々な季節の花が刺繍され日に当たるとキラキラ光ってまばゆい。
桜満開の早朝、匂い立つ様なこの庭をイメージして、刺繍屋さんと必死で縫ったのよね。ギリギリだったけど我ながらよく間に合わせたよ……
心が皆に挨拶する。
「この着物は、古い着物や色んな着物を縫い合わせたりしています。
本来は姫宮様には相応しくない手法ですが。
私はこの作り方でないとえり姫と皆の思いを表現出来ませんでした。
でも、上手く出来たと思います。えり、本当によく似合ってるよ。おめでとう。」
「心、ありがとう。私こんなに素敵な着物、みたことない……。
着ているとみんなの思いを感じる着物なの。とても嬉しい」
「心、本当にありがとう。
爺も、こんなに素晴らしい魂を感じる着物は初めてだ。姫、もっと側で皆と着物をみてみたいのだが?」
「はい、宮様」
皆がえり姫の周りに集まった。
「あ!松江様見て下さい帯には私の前立ての模様が刺繍してあります。途中からまるちゃんの服の柄になってますよ!」
「ほんとだな 孔ちゃん私のだ」
「そうね、私の簪と同じ銀流しの玉が帯留めになってるし」
「あ、お母ちゃんの着物の柄の帯締めで帯揚げは美桜と雅の羽の色だぁ」
「お〜よくこの派手な柄を帯締めに仕立てたね。うぐいす色の帯揚げも着物にあってるね 素敵!」
中の着物(掛下)は、薄紫。理央、まるちゃん、孔ちゃん、美桜と雅が丸紋の花模様に描かれていた。
「ねぇ理央ちゃま、もっと近くでみようよ」美桜と雅が理央の手を引いてえり姫の元に連れてきた。
「理央、今日迄ありがとう。これからもよろしくね」
「姫宮……」
理央は、顔を真っ赤にして震えている
「あのっ、あのっ、う……はい」
「理央様は誰よりも、えり姫様の美しきご成長ぶりに歓喜され震えているのですよ。ね……」
「孔ちゃん……」
もう理央は何もいえず、感涙している。
「万歳……」
まるちゃんが呟いた。皆が頷いた。
「万歳〜!万歳〜!」
桜の花びらが舞う穏やかな庭で皆が喜ぶ声がいつまでも響いていた……
宴が無事終わり、えりは心に手伝って貰い、別の着物に着替えていた。
「あ〜ちょっと暑かったな」
「だよね~打ち掛けも着ちゃうとね。
えり脱水とか平気? 着替えの部屋だからもう襦袢になっちゃって!」
「うん、心ありがと……って何!これ〜!!」
「ふっふっふっ 我慢出来なくてついね……刺繍職人さんと意気投合して、やっちゃいましたぁ!」
二人が話している所に、友子と松江もやってきた。
「えり、心、お疲れ〜!っておお!何これ、すっご〜い!みてみて松江」
「うわぉ!襦袢だけど特攻服みたい」
えり姫の襦袢には、前世の世界で暴走族が着ていた、特攻服のような台詞が、襦袢と同じ白い糸で刺繍してある。
『異国からきた4人組江戸での生まれは違えねど、
今ここに集いし熱き魂』
『その名はえり姫、 夜露死苦
松竹亭の松江、 愛羅武勇 夜露死苦
植物採集人友子、仏恥義理 夜露死苦
心花魁、 美来斗利偉 夜露死苦』
『4人揃えば 天上天下唯我独尊』
「心、忙しかったのに何やってんのこれめっちゃ手が込んでるよ……」
「いやぁ、友子、徹夜ハイで刺繍職人さんとやりだしたら止まんなくなっちゃってさ」
「挨拶の時は感激してたのに〜!」
「ごめんごめんえり。つい、ね!」
「えりってば、ヤンキーだ!ぷぷぷ」
「え〜!松江なんてこと言うの!」
うわあはっはっはっ 皆笑い転げてしまった。
「全く、あんた達!ぷぷっ」
結局えりも笑い転げた。




