15 懇親会は盛り上がる
平松の宮様が、早速美味しい料理の数々を手配してくれた。
そこに新鮮な魚介も届いた。それを使って友子が魚をさばいてお刺身を作った。
「舟の上でもよくさばいて食べるから
任せて〜」
美桜と雅も魚を運び友子を手伝う。
小さい二人がちょこちょこと動いて、何とも可愛らしい姿だ。
早速大きな舟盛りが出来た。
松江は慣れた手つきで海老や貝類を
焼き始めた。料亭でも客人の前で焼くこともあるらしい。
素早く貝の処理をして、タイミングをみて醤油や塩、まだ今世では珍しいバターで味を整えていく。
「う〜ん!いい香り!皆食べて〜」
「流石松江様! 何時も通り鮮やか
なです」
出来た物を、孔ちゃんが素早く運ぶ。
そこで心が、料理にぴったりなお酒を一つ一つ選び、まるちゃんに持っていかせる。
皆、使役達と息ぴったりである。あっという間に、料理と酒が並んだ。
「理央見てますか?皆、流石ね〜」
まるで自分事のように、自慢げに話すえり姫に、理央も負けじと必死に皆のお皿に料理を運んだ。
「ちょっと松江、見てあれ。あれが無意識なのってえり怖いわ……」
私は思わず素で話す。
「ほんと、理央様って、えり命!って感じだもんねぇ 凄いよ……」
「いやあ、えりって帝も激甘シスコンにして……
もう陰のドンだよね。これが無意識ってほんと凄い奴……」
お友も思わず二人の会話に加わる。
「本当に凄いよ……」
三人の使役も深く頷いていた。
宴もたけなわ、使役達もお互いについて話し込んでいた。
「まるちゃんさんは、いつ心様の元にいらしたのですか?」
「孔ちゃんさん、私は心様が吉原の稲荷様に毎朝お参りされていた時に、私を拾ってくれたのですよ。
元々、さる大名が異国に私の母上を連れていった時に、父上と恋をして生まれたのが私です」
「だから、まるちゃんさんは異国のお顔なんだね〜」
「そうなのです。美桜ちゃんさん。私は兄弟が多く飼いきれないと、大名から捨てられたのです。
神社の境内で遂に死にそうになった時、哀れに思った稲荷様が、使役の役割を下さった。その後お心様に拾われてから、ずっと心様の傍らにいるのです。
今は心様と、吉原の人々が健やかに過ごす事に尽力しています。」
「あ!だから心様が頑張った、吉原の環境改善や感染予防が上手くいったのかぁ。凄いです〜まるちゃんさん!」
「いや、まだまだですよ雅ちゃんさん。あの時はシャボンを皆の部屋に運んだ位でした。使わないと吠えましたが。
あとはまぁ、心様は花魁になるまでの頑張りが凄くて、尊敬しています。
まあ好きな事に夢中になりすぎるのが玉にキズですね。
うっかり徹夜して縫い物をしたり、異国から取り寄せたレース生地を見てニヤニヤして1日を過ごしたりと、好きなものにはオタク気質が炸裂してしまいます。
が……そこは私が散歩に出たがってみたりと、適度に止めて頂くのですよ」
使役一同「おおっ!」と感心した。
「なら次は私、孔の番ですね」
孔ちゃんは、眼鏡をきらーんと光らせ話しだした。
「私、孔は大人になってから、松江様に拾われました。実は子猫だった時に既に死んでおりまして」
「ほう!」使役一同驚き声をあげる。
「その死んだ場所が、これまた吉原の稲荷様でした」
「稲荷様!何だか私、縁を感じます」
「そうなんです!まるちゃんさん!実は孔もそう思っておりました。
あ、丁度その時、松江様の松竹亭が、商売繁盛する様にと、料亭の庭に稲荷様からお社を頂きまして。
私は使役としてこの松竹亭を守るよう、稲荷様から新たに使役として命を頂きました。
それで料亭の庭にいた私を、松江様に拾われた訳です。」
孔ちゃんは、眼鏡をキリッと持ち上げた。
「いやぁ、松江様が三国志好きで某軍師の名前を頂いた訳ですが……
ずっと長椅子に寝転び、『いや孔◯様死なないで!』等延々に独り言を言い、本に熱中する様は私も幾分ひきます。
ですが、綺麗に流れる気の流れを視て部屋やその日の料理をピシッと決める姿は、見ていて惚れ惚れしますね。
因みに私がこっそり料亭のお客様は選別してます。気が悪くなる客人は入れないようにしているのです。
商売繁盛を守るのも使役の役割ですから」
「わあぁ! いいぞ〜!使役の鏡!」
使役皆があっぱれと拍手するなか、孔ちゃんは、鼻高々に話し終えた。
「じゃあ次は、私達だね〜」
初めに美桜が口を開いた。
「私達には三人のお母さんがいるの。一人は霊鳥だったお母さん。
お母さんはいよいよ長い人生を終える前に、次を繋ぐ者として、ある相思鳥の巣の卵に霊力を込める事にしたの。それが私達だったのね。
しかし私達は小鳥なので、お母さんの霊鳥の能力を二羽で頂いたの。
そしたら今度は、私達の卵を生んだ、相思鳥のお母さんが鷹に狙われて死んでしまったのよ。卵の私達は何も出来なかったの。
巣のある木も折れてしまい、どうしようって思っていたら、お友様が見つけて、自ら卵を温めてくれたの。
そう言う意味でもお友様は私達の第三のお母さんなのです」
「お小さいのに大変な事でしたな」
まるちゃんが涙ぐむ。
「ここからは僕、雅が話すね〜」
雅がちょこんと正座をした。その姿も何とも可愛らしい。
「お友様はあちこちの山や異国に行かれます。
いつも山の神様や植物とお話して
いい薬草を採集したり、プラントハントもするので基本安全なのですが。
時々悪さをする山の物の怪がいないとは限らないの。
そんな奴らを避けて道案内するのが僕達の仕事なのよ〜」
「お二人はお小さいのに大層なお役目ですな」
話を黙って聞いていた理央が、思わず声をかけた。
美桜 雅が一生懸命話すのをみて、もう涙目になっている。けっこう真面目で熱い使役みたいだ。
「ありがとうございます。理央様。でもお友様とあちこち旅するのは楽しいの。
山の神様や精霊と話すお友様はカッコいいし。
いつも世界中のちょっと変わった柄の服を好んで着ておられますが、お友様は不思議とそれがよく似合います」
「そうだったのか。良い事だな」
何だかもう、理央は小さいこの二人が可愛くてしようがないようだ。
えり姫を幼少の頃から育てているのでそれを思い出すのであろうか。
今度は理央が話し出した。
「私、理央はえり姫様が生まれてからずっとお守りしてきました。
小さいえり姫をお育てするのは、大変でしたが、姫の愛らしさにはどんな苦労も吹き飛びました。
えり姫様が日々、美味しいものを頂けるように、野菜畑や養鶏もやりました。まぁ沢山は召し上がりませんが…
えり姫様が健やかに過ごされると、帝も落ち着き、日々御心を正して過ごすことができますので」
「まぁ 皆様色々ですがこれからは我らも力を合わせて合宿を盛り上げますか!」
まるちゃんがこう言った後、孔ちゃんが音頭を取り、
「では、私達の出会いと今後のこ更なる活躍に乾杯!」
使役達は皆で盛り上がっていた。
「う〜んと、姫の健康改善計画っていったいいつ、話すのかのう……」
皆の様子をみていた宮様は、ちょっとそう思っていた。
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今から21年前、平松の宮様は、第1皇子の葵が連れてきた、美しい女性と会っていた。
「初めまして宮様。私は京の稲荷大社の巫女をしております、えり子と申します」
真っ白な肌に艶めく黒髪。桜色の唇からは、話す度に花が溢れてきそうだ。
「父上、すいません。私は京に出向いた際、稲荷大社で雅楽を踊るえり子」
に一目惚れしてしまいました。
巫女であるえり子は、私と一緒になる為に、神職を降りました。もう何処にも行く所がありません。
私は決まった姫より、えり子と一緒になりたいのです」
(……今の帝は私の兄。今現在子供はいない為、このまま行くと葵は帝になる可能性もある。
葵は以前貴族の娘と婚姻し、皇子が生まれたが、妻は間もなくして病に倒れ亡くなった。
結婚するのは問題ないが……宮は黙って考えていた)
「葵よ。お前は自分の立場をどう考えているのじゃ?」
「はい 分かっております。ですが私はえり子と一緒になる為なら、臣下に下ることもやぶさかではありません」
「葵様!私は結婚出来ずとも、ただ側にいれればいいのです。どうか臣下に下るなど言わないでください」
「えり子……」
(う〜んどうしたものか。臣下に下るのも悪くはないが、問題は私の第二皇子は病弱で帝には向かないと言う事だ。
何とか現帝にお子が出来れば解決する事なのだが)
私は帝になる事は無かった。今になれば自由の身こそ、有難いことだと考えている。
しかし、この葵の優れた人格、神の声を聴く力の大きさは、祭事を担うに相応しい。
その葵が自分の身を捨てても選んだ伴侶を連れてきたのだ。
「そなたの気持ちはよく分かった。
だが葵、臣下に下る事はならん。
代わりにえり子殿との結婚は許そう。申し訳ないが現帝にお子が出来ることを祈るしかない。
もし、子が出来なかった場合。
葵、そなたは帝になるのだ。
その時、えり子殿は、秘する妻となってしまう。
申し訳ないがこの日の本の為、
こうするしか他はない。
葵、えり子殿分かってくれるか?」
「何という酷い事を仰るのですか。
父上!」
「葵様!私はそれで良いのです。
葵様は帝になるのが相応しい方。
私がどうしてもお側に居たいと思ってしまったのです。是非そうして下さい。葵様」
……こうして葵とえり子殿は秘密裏に一緒になった。
二人はそれでも幸せそうだった。
そして直ぐにえり子殿にお子が出来たのだ。
しかし、えり子殿はえり姫を産んで直ぐに産後の肥立ちが悪く、あっけなく亡くなってしまった。
重なるように、現帝がお子を持つことなくお隠れになったのだ。
葵はえり子殿を亡くした悲しみに耐えながら、帝の地位に着いた。
りえ姫を帝の手元に置く事はままならず、私の館で秘密裏に育てた。
稲荷大社の使役理央が神使としてやってきたのはその頃だった。
「稲荷様は、このえり姫の使役になるように私に言われた。この先の国難に耐えうる様にとの事だ」
理央は神の進言を私に伝えた。
「続けて言う。『平松の宮は近いうちに稲荷大社に向かう様に』と稲荷様からの命である」
稲荷様が私を?私は不思議に思いながら京に向かうことにした。




