表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/10

第6話 義両親の前で


深夜のインターホンが鳴り響く。


突然の訪問にもかかわらず、義父母は私を招き入れてくれた。


「ユイさん……そのすす汚れ、どうしたんだ。それにこんな時間に」


リビングのソファに座るなり、義父のマサルさんが眉をひそめた。

義母のキヨミさんが心配そうに温かいお茶を出してくれる。


私は、喉の奥に詰まった塊を吐き出すように、事実だけを並べた。


出張から早く帰ったこと。

自宅が火事になっていたこと。

ハルが一人で留守番をしていて、救急搬送されたこと。


そして――リョウジが「家にいる」と嘘をついていること。


「……火事、だと」


義父の顔色が変わった。


義母は口元を手で覆い、「ハルちゃん……!」と悲鳴のような声を漏らす。


「ハルは命に別状はありません。でも、もし近所の方が通報してくれていなかったら……」


「リョウジは何をしているんだ。あいつは今日、休みを取っているはずだろう」


「電話では『家にいる、ハルと寝ている』と言っていました。でも、家は全焼しています。現場に彼の姿はありませんでした」


私の言葉に、義父のこめかみに青筋が浮かんだ。


厳格で、曲がったことが大嫌いな義父だ。

息子の不祥事、それも孫の命に関わる嘘など、許せるはずがない。


「……あの大馬鹿者が」


義父は低い唸り声を上げると、受話器を掴んだ。


リョウジへの電話だ。


『親父? どうしたの急に』


スピーカー越しに、先ほどと同じ間の抜けた声が聞こえる。


「今すぐ帰ってこい。大事な話がある」


『えー、もう遅いし……』


「いいから来いッ!! 十分以内に来なければ勘当だと思え!」


怒号とともに電話が切られた。


リビングに重苦しい沈黙が落ちる。


私は冷え切ったお茶を一口だけ飲んだ。

不思議と涙は出なかった。ただ、心臓が早鐘を打っている。



十五分後。


玄関が開く音がした。


「なんだよ親父、大声出してさー。俺だって疲れてるんだから……」


リビングに入ってきたリョウジは、酒臭い息を吐きながら、けだるそうに髪を掻いていた。


しかし、ソファに座る私を見た瞬間、その動きが凍りついた。


「……え、ユイ? なんでここに? 出張じゃ……」


「リョウジ」


義父が、地を調うような低い声で名を呼んだ。


「お前、今までどこにいた」


「え? いや、だから家だよ。ちょっとコンビニ行ってて、そこへ親父から電話が……」


「家だと?」


バンッ!!


義父がテーブルを叩きつけた音に、リョウジがビクリと震える。


「マンションは火事になったぞ」


「……はい?」


「お前の家だ! 夕方から燃えて、全焼したんだ! お前が『家にいる』と言っていたその時間にだ!」


リョウジの顔から、サーッと血の気が引いていくのが見えた。


口をパクパクと開閉させ、私と義父を交互に見る。


「か、火事? 嘘だろ……?」


「嘘じゃないわ」


私は彼を睨みつけた。


「ハルは救急車で運ばれた。一酸化炭素中毒よ。あんたが一人で放置したせいで、死ぬところだった」


「あ……いや……」


「なんで嘘ついたの? なんでハルを置いて出かけたの?」


私の問い詰めに対し、リョウジの目が泳ぐ。


言い訳を探して、脳みそをフル回転させているのが分かった。

そして、ひねり出された言葉は、あまりにもお粗末なものだった。


「だ、だって……ハルももう五歳だろ? いつまでも親がべったりじゃ良くないと思って……そう、自主性! 子供の自主性を育てるために、少し一人にさせてみたんだよ!」


「はあ?」


義母が呆れた声を上げた。


「それに! 俺だってストレス溜まってんだよ! 仕事も忙しいし、ユイは出張でいないし! ちょっとくらい息抜きしたっていいだろ! ほんの数時間の出来心だったんだ!」


リョウジは顔を真っ赤にして叫んだ。


自分が被害者であるかのように。

子育て論とストレスを盾にして、自分の過失を正当化しようとしていた。


ああ、だめだ。

こいつは、何もわかっていない。


私は静かに立ち上がった。


「自主性? ストレス解消? ……それで、ハルが死んでも同じことが言えるの?」


「だ、だから死んでないんだろ! 結果オーライじゃんか!」


パァンッ!


乾いた音が響いた。


私が叩くよりも早く、義父の拳がリョウジの頬を殴り飛ばしていた。


床に転がるリョウジ。


「ふざけるなッ! 自分の子供を危険に晒して、何が結果オーライだ! 恥を知れ!」


「あなた……最低よ」


義母も冷ややかな目で見下ろしている。


誰も、もうリョウジの言葉には耳を貸さない。


彼の言い訳は、ただ空しく響くだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ