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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫は犠牲になる

一日一投稿にしてましたが、一週間ほどの間は一日二回投稿に変更しようと思います。朝七時と夜八時の二回にいたします。


下記のルールを前提にお読みください。


★主人公のセリフの見分け方

「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)

「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語

『 』日本語のセリフ

 ところで、エリザベッタの生きる世界には魔王が存在する。滅ぼしても滅ぼしても百年周期で甦る厄介なもの。それを倒した者は英雄と讃えられる。

 各国は魔王が復活するとこぞって討伐部隊を編成し、敵地へ送り込む。向こう百年大陸の覇者として君臨するためだ。英雄を輩出した国は外交面で有利になる。それがこの世界の政治的常識であった。


 魔王の復活をどのように知るか。とてもわかりやすい。金の月が昇るからだ。この世界の月は青い。エリザベッタの住む国の王族の眼と同じ色だ。暗闇に青空を映したような青にちなんでチェレステ王国と名付けられている。初めて魔王を倒した英雄が建国の祖である。

 故に王家の青は親しみ深く広く使われ、金の色は禁色となり、魔王を斃した王家のみに許された色である。黄金は王家しか所有が許されない。通貨などは鉄製の硬貨が使われている。


(へえ、そうなんだ。めんどくさっ!特別感の演出とかいらないし。)


 ヴィオランテによる王女教育が始まり、少し文字が読めるようになった。とはいえ、子ども向けの絵本から始まっており、それを一人で音読出来る程度。建国神話の絵本だ。

 チェレステは現代まで建国の祖を含めて三人の英雄を輩出している。その英雄が今まさに凱旋するという。


(ま、私には関係ないか。一回くらい顔を拝めるといいな。)


 ただのミーハーな野次馬根性でしかないので、見れたらラッキーくらいにしかエリザベッタは考えていなかった。マナーもまだ及第点を頂いていない。そもそも発語が未だに片言だ。王女として人前に出ていいレベルではない。

 魔法が存在すると聞いたが、王女は余り使うことはないようで、大した訓練はしていない。初めて魔法を発現したときは感動したものだが、本当に子どもが習う程度のことしか教わっていない状態だ。

 聞けば異母姉である第三王女が産まれる前に神託により聖女と認定され、物心つく頃には力が発現、今は英雄様御一行に加わっているそうだ。どの国でも英雄には王女を娶せることが多い。恐らく苦楽を共にした第三王女と帰還次第婚約が発表され、いずれ婚姻を結ぶであろうと噂されている。もちろんエリザベッタはそんなことを知る由もない。知ったところで「お疲れさま〜、おめでと〜」くらいの労いと祝辞しか出てこないだろう。


「エーユー、ランベルト、キカン?ランベルト・クリザンテーモキョー、……〝何だこれ。この後の単語分かんないな。〟」


 一応、と断りが入って置かれた新聞を読む。発音がイマイチでもどかしい。早くネイティブになりたぁーい!と思うエリザベッタなのであった。


「殿下、そろそろご移動願います。」


「はい、ヴィオランテ。」


 自室から出るので眼帯を着けねばならぬことを今更煩わしくなど思わない。包帯を巻くより余程簡単だ。


(ゴムの入ってない紐だから、もうちょい安定感が欲しいけどね。)


 呑気なものである。本宮に移り二か月。すれ違う者たちは頭を下げるが、忌み子の王女であると知る者はまず初めに「ヒッ!」と小さく悲鳴を上げ、知らぬ者でも仰々しい眼帯に驚きの色を隠せない。


「エリザベッタ殿下、ご機嫌麗しゅう。」


「サイショー。ご機嫌よう。」


 ご機嫌よう。この一言は何とか普通に発音出来るようになった。何故ならしょっちゅう使うからだ。エリザベッタにとっては小さな一歩だが、大きな前進でもある。姿勢がいいので歩き方、立ち姿、カーテシーはすぐに合格をもらえたが、苦戦しているのはテーブルマナーである。他にも夜会などのルールを叩き込んでいる最中だ。この国の成人は十五歳。それまでに何とか形にせねばならぬ。なるほど、だから慌てて呼ばれたのかとエリザベッタは一人得心する。内情はそれだけではないのだが。


「おお、随分と発音がしっかりなられましたな。よく頑張っておられる。」


「オソレいります。」


「うんうん。カーテシーもとても美しい。これからもよく励まれませ。」


「ありがとう存じます。」


「ありがとう存じます」もよく使う言葉のひとつだ。なかなか上手く言えたと自慢げにエリザベッタはフスンと鼻を鳴らし、宰相は声を上げて笑い、ヴィオランテには「後で補習ですからね」と耳元でささやかれた。鼻を鳴らすのは王女としてよろしくない。最後まで気を抜かないのも大事なことだ。良い教訓になった。


「陛下、ヴィオランテでございます。エリザベッタ殿下をお連れ致しました。」


 こんな風に直接声をかけられるのは女官長で乳母のヴィオランテだからこそ。本来なら騎士を通さねばならないらしい。

 二か月ぶりに訪れる父王の部屋の前でエリザベッタは緊張で胸を高鳴らせていた。「入れ」という苦々しい声がすると騎士が苦笑しながら扉を開けてくれた。


「シツレーいたします。エリザベッタ、陛下のオヨビにヨリ、サンジマシタ。」


 父王に向かってカーテシーをしながら挨拶をする。カーテシーだけは王国一とヴィオランテからも太鼓判をもらった。

 噛まず、つっかえず、間伸びせず言えた!とエリザベッタは心の中でガッツポーズをした。そう、心の中でやらないと後が怖いのである。前門の虎、後門の狼状態でエリザベッタに逃げ場はない。父の前で失敗するのも怖ければ、ヴィオランテの前でやらかすのも怖い。またもやなかなか頭を上げられずにいたが、そんなに長くならずに「楽にしろ」と声がかかった。


「もうすぐお前の姉チェレステと英雄ランベルト・クリザンテーモが王都に帰還する。聞いているな?」


「はい、陛下。」


「そこでクリザンテーモには褒賞の一つとして王家から姫を降嫁させる栄誉を与えることになっている。エリザベッタ。お前が嫁げ。」


(はい!?)


 第三王女チェレステは神託により聖女であることが産まれる前から判明していた。その為、建国の祖の妻であり尊き青き(まなこ)を持つチェレステの名を与えられた。妻の名を国名にするなど何ともロマンチックな話である。伝説のテンプレートに漏れずその妻は聖女であった。名に相応しい、空色の両眼を持つ美しい女性だ。五歳の頃から神殿に預けられ、聖女としての鍛錬を行っていたが、内面までも美しいとは限らない。悪人ではないが清廉潔白でもなく、また聖女として生まれた時から崇め奉られてきたせいかそれなりに我儘であった。

 ちなみにヴィオランテによる人物評は案外甘く、気は強く、舌鋒鋭いが根は優しい、というものだ。要はツンデレのお手本のような十七歳の少女である。ヴィオランテの評価が他者と異なるのは何より神殿育ちであるが故に生母である王妃の息がかかっていないことに寄与する。月に一度の里帰りでも取り繕った笑みを浮かべ、まるで他人のように接する姿を度々目にしているので、「()()()()()()()()ご姉弟かもしれませんわね」とエリザベッタに伝えていた。

 同母弟であるファウストは完全に王妃によって洗脳済み。一度、エリザベッタの居室に突然現れて「フン、この程度か」と宣って去って行った。弟の無事を神に祈らないでいて良かったとエリザベッタは自分の勘が正しかったと思ったのであった。単に忘れていただけとも言う。


 しかし、エリザベッタが降嫁とは。


 元々国王はチェレステと英雄を娶せる気でいたし、宰相始め国の重鎮は同じように考えていた。だが、それではまるで建国神話をなぞることになる。ファウストの立場が危うくなるのではないかという王妃の生家一派からの意見や、ランベルトの出自、それと何よりチェレステ本人が断固拒否の姿勢を貫いている。

 様々な思惑が入り混じり、英雄を国内に留めておくことに重きを置き、この際、どの王女でも構わないという姿勢に方針転換。第一王女、第二王女は既に他国へ嫁ぎ、第三王女は先程触れた通り、第四王女は今年成人したのですぐにでも婚姻可能であるが、元の身分が低過ぎるとやはり我儘を言った。

 そこで王妃が思い出したように、「もう一人姫がいるではありませんか」と言い出す。要するに英雄への人身御供だ。英雄は下位貴族の庶子であり、所詮騎士爵の成り上がり。己が腹を痛めて産んだ子を嫁がせたくないと王妃は考えた。

 魔王の討伐は三か月も前に済んでおり、王妃による進言は英雄様御一行が帰還の途を辿り始めた頃、討伐直後だった。エリザベッタの離宮にヴィオランテが現れるまで一か月もかかったのは、エリザベッタの教育がどれほど進んでいるのかを確認する為に家庭教師として届出られている人物を召喚したことに端を発する。筆頭女官であるロジータを経由して進捗の報告は行われていたが、エリザベッタの具体的な人物像を本宮の誰も知らなかった。英雄に嫁がせるのに愚図で愚鈍では王家の立つ瀬がない。かといって、公爵家の令嬢となるとその親共が虎視眈々と王座を狙っている。英雄の王女との婚姻は国王にとって絶対だった。

 女官による報告書とは辻褄の合わない家庭教師の言を不審に思った宰相はすぐさま離宮へ人を出す。報告では離宮が廃墟と化しており、人の住むような屋敷ではなくなっているとのことだった。

 その後はお察しである。筆頭女官を呼び出し尋問が行われ、王妃の悪事が陽の元に晒されることになった。王妃もまさか最低限の教育まで放棄されているとは思わず、墓穴を掘った形になる。


「王妃ってバカでもなれるんだな。」


 後日エリザベッタから漏れた言葉は的を射ていた。

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