眼帯姫のお姉さま
一日一投稿にしてましたが、一週間ほどの間は一日二回投稿に変更しようと思います。朝七時と夜八時の二回にいたします。
下記のルールを前提にお読みください。
★主人公のセリフの見分け方
「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)
「〝 〟」異世界言語のセリフの中に混ざる日本語
『 』日本語のセリフ
「そんなに緊張なさらなくても大丈夫です。姉姫様は神殿でお育ちになっておられますから、ある意味で王女らしいお方ではございません。エリザベッタ殿下のことも悪く仰ったりは致しませんよ。」
それでも神殿内で王女としての教育を受けていたと言っていたではないか。こちらはたかが二か月の付け焼き刃なんだぞ!
エリザベッタはそう反論したかったが、語彙力が追いつかなかった。あったとしてもヴィオランテ相手では勇気が出なかったことだろう。そんなヴィオランテは部屋に入るなり少しばかり顔を顰めた。
「オーコクのアオキツキ、セージョ、チェレステサマにゴアイサツモーシマス。」
姉妹であるのに形式ばった挨拶である。〝王国の青き月〟という前口上は聖女にしか使用しない。王妃の場合は単純に〝王国の月〟と呼ばれる。チェレステは正しく〝王国の青き月〟である。
「申し上げます、ね。」
「あっ、シッツレーイタシヤーシタ!」
「失礼致しました、ね。」
的確なツッコミに不機嫌な表情。初めて会う三番目の姉は聖女らしい威厳というより悪役令嬢のような威圧感のある人物だった。
姉ではあるが異母姉。それに魔王を斃した英雄様御一行の要である聖女だ。恐縮と緊張は当たり前、その上不機嫌であからさまに苛ついた態度を取られれば、いくら図太いエリザベッタであっても縮こまってしまう。
「いいわ、エリザベッタでしょ。言葉が不自由だという話は聞いてるから。無理しないでいいわよ。」
思いの外、簡単にデレたチェレステにエリザベッタは虚をつかれる。あんぐりと口を開ければ背後のヴィオランテに「補習」とささやかれた。
「貴女の三番目の姉のチェレステよ。多分、わたくし以外に貴女の姉を名乗る者はいないから感謝なさい。」
「は、はあ。ありがとう存じます。」
再び「補習」が入った。恐らく「は、はあ。」が相応しくなかったのだと思われる。細かい指摘にエリザベッタはげんなりした。今すぐ自室に戻りたいが、せめて救世主の一人であるチェレステに一言でもお礼を述べようと思い直した。
「チェレステサマ、マオートーバツ、オツトメでした。ゴクローサマ。」
何だか文法が奇しいが、言葉が不自由なのはご存知のようなので辿々しくも一生懸命な様子を全面に押し出して深々と礼をした。カーテシーではなく、日本人らしいお辞儀である。
「ええ、とても大変だったわ。」
「セカイ、ヘイワ。オカゲ、チェレステサマ。」
「そうよ。よく分かってるじゃない。それよりもチェレステ様ってやめてくれる?」
王女同士なので敬称はいらなかったはずだが気を悪くしたのだろうか。不安に思い、エリザベッタは訂正した。
「チェレステデンカ。ヨロシイ?」
「よろしくないわ。お姉さまでよろしくてよ。」
「オネーサマ。」
「そう。」
「チェレステオネーサマ。ふふ。」
ガチガチだったエリザベッタが微笑んだのは、精神年齢的に自分より年下である少女をお姉さまと呼ぶ捻れが面白く感じただけだった。花の綻ぶようなエリザベッタの微笑みに同性ながら見惚れてしまったことを恥じたチェレステは照れ隠しの毒舌を放つ。
「馬鹿にしてるのかしら!?姉を姉と呼ぶことの何が楽しいんだか!貴女のような妾腹が正しき血筋のわたくしを姉と呼べるのよ!?〝土下座〟でもしてお礼を述べるべきだわ!!」
「〝土下座〟?」
今、チェレステは驚くべきことに日本語で「土下座」と言った。もしやとは思うがヴィオランテや護衛の近衛騎士もいるのでとりあえずこの件は一旦横に置いておくことにした。あちらもしまったという顔をしている。確かに王女らしくない、素直な女の子のようだ。短気だけど。
「ああ、そうそう。紹介するわ。彼、貴女の婚約者になるランベルト・クリザンテーモ。」
ひょえ!?と大声を出しそうになるのを片手で押さえると「グレーゾーンですわ」とささやかれた。無反応で微笑みを維持するが正解なのは承知している。
(この人が、未来の夫……やだ!並びたくない!顔が良すぎる!テンプレ展開キタコレ!?)
エリザベッタがそう思うほど、エリザベッタでなくとも誰もが認める美丈夫であろうお方が英雄だなんて!私の夫だなんて!とエリザベッタは混乱した。混乱ついでにめずらしくカーテシーを失敗して「練習百回」と補習の上に課題も追加された。
「エーユー、ランベルト・クリザンテーモキョーにゴアイサツモーシマ、ゲマス。」
エリザベッタが名乗ろうとしたら「補習追加です」と追い討ちを喰らう。何が悪かったのか。最後に噛んだからいけないのか。エリザベッタは正解が導き出せない。
「あのね、英雄は英雄でも彼の身分はただの騎士爵なの。むしろ彼から名乗りを上げないといけないのよ。貴女は王女なんだからその後でいいの。それくらい覚えときなさい。毎回これをやれば彼だけでなく他の者にも侮られるわよ。」
エリザベッタが聞き取れたのは「身分」「騎士爵」「名乗り」「覚えろ」「毎回」であった。ああ、翻訳機が欲しいと何度思ったことか。ヴィオランテには理解出来ないときは困り顔をして首を傾げて相手に伝えろと言われているので、エリザベッタは顎に右手を添えて首を傾げた。もちろん〝仕草は優雅に〟が鉄則なのは言うまでもない。
「第五王女殿下にご挨拶申し上げます。お初にお目にかかる。クリザンテーモ男爵が三男、ランベルトと申します。有難くも陛下より騎士爵を賜り、東方騎士団に籍を置いております。どうぞ、お見知り置きを。」
「お見知り置きをって、結婚相手に言う言葉?」
「お断りするつもりでおります。このご様子ですと第五王女殿下はまるで幼な子のようではないですか。このような方に婚姻生活は難しいでしょう。いくらなんでもご負担が大き過ぎる。私が国にいれば問題ありますまい。諍いの原因になるくらいなら一生独身を貫く覚悟でございますれば。陛下にもそのようにご説明申し上げる所存です。」
「無理ね。あの私利私欲にまみれた伏魔殿の住人たちが英雄との縁つなぎを諦めるわけないわ。既成事実を作られるか、強権発動で命令不可避になっておしまいよ。嫌なら神殿からの横槍に期待するのね。そうしたらわたくしと結婚よ。まあ、ぜっ!たいっ!に!お断りだけどね!!」
チェレステはフン!と英雄から顔を背けた。というより、近衛騎士の服を着て第三王女の護衛をしているような状況ではどう見ても彼らが婚約者同士に見える。俗に言うケンカップルというヤツではないだろうか。やはり二人は恋仲なのではないか、結婚相手はエリザベッタである必要はないのではないかと疑問を持つ。
チェレステはツンツンしているだけなので、その内デレるに違いない。いや、二人きりのときはきっとデレデレしているのだ。安易に婚約しても結局この二人はくっつくのではないか。そうしたらエリザベッタはお払い箱だ。エリザベッタは二人の恋愛を盛り上げる舞台装置にしか過ぎないのかもしれない。
エリザベッタは一生独身でもかまわない。チェレステお姉さまは物言いがキツイだけで悪い人ではないとヴィオランテも言っていた。事実、そのように見える。非常に残念だが、今後の為に彼女とも距離を置こう。自己保身、大事。これからはチェレステの恋愛成就を神に祈ろう。毎朝毎晩だ。
エリザベッタはそのように考えたのであった。
お読みいただきありがとうございました!
評価、ブクマ、感想、お待ちしています!
励みになりますので、よろしくお願いします。




