第49話 プロの鳴海楽
大学から帰ってメールを確認すると、仕事の問い合わせが増えていた。
以前から活動用のメールにはいろいろな連絡が届いている。動画を見た人からの感想や、音楽についての質問、既存の曲を使いたいという相談などだ。
ただ、最近は少し内容が変わってきた。
「また作曲依頼か」
受信箱には、映像制作会社や広告関係の会社から届いたメールが並んでいる。
中にはゲーム会社からの相談もあったけれど、それ以外の業界からの連絡が目立っていた。
短編映像の音楽を担当してほしい。
商品の広告に使う曲を制作してほしい。
舞台公演のために新しい音楽を書いてほしい。
どれも、すでに公開している曲を使わせてほしいという話ではない。
依頼された作品に合わせて、新しく曲を作ってほしいらしい。
「へえ、いろいろあるな」
一通ずつ内容を確認していく。
ほとんどのメールに、【灰冠のアルカディア】の名前が書かれていた。
《終幕まで聴いて》を聞いて連絡したという会社もあれば、《青瀬》の頃から知っていて、今回の商業制作を見て正式に相談することにしたという会社もある。
俺の音楽を以前から評価していたとしても、実際に仕事を頼むとなると、また別の話なのだろう。
Starward Interactiveとの仕事では、契約を結び、指定された条件に合わせて曲を作り、完成した音源を納品した。
その結果がゲームの中で使われ、ちゃんと商品として成立している。
そういう実績があると、仕事を頼む側も安心するのかもしれない。
もっとも、俺としては、言われたものを作って渡しただけなんだけど。
一通のメールを開く。
映像制作会社からの依頼だった。
ある商品の広告映像に使う音楽を作ってほしいという内容で、完成前の映像を共有できるらしい。
別のメールは、舞台公演の音楽制作だった。
こちらは面白そうだったけれど、何度も現地へ通って打ち合わせをする必要があると書かれている。
大学の授業もあるので、毎回決まった時間に出向くのは少し面倒だ。
それに、公演のための音楽なら、実際の舞台の動きや会場の響きまで確認したくなる。
そこまでやるなら、それなりに時間を使うことになるだろう。
いったん保留にして、次のメールを見る。
今度は映像作品の劇伴だった。
まだ企画段階なので、制作時期も詳しい内容も決まっていないらしい。
「決まってからでいいんじゃないかな」
そう思ったので、その旨を返信することにした。
全部の仕事を引き受ける必要はない。
報酬を見れば、かなり高い金額を提示している会社もある。
でも、今のところお金には困っていない。
面白そうな仕事ならやってみたいけれど、特に興味がないものまで無理に引き受ける理由はなかった。
一通り確認してから、気になった依頼をいくつか残す。
その中で、最初に詳しい話を聞いてみたいと思ったのは、短い広告映像の音楽だった。
依頼内容が分かりやすかったからだ。
しかも、音楽を入れる前の映像がすでにあるらしい。
どんなものなのか見られるなら、作れる曲も考えやすい。
俺は担当者へ返信し、詳しい資料を送ってもらうことにした。
〓〓〓
翌日、大学の授業が終わったところで、灰崎さんに呼び止められた。
「鳴海」
「はい」
「最近、仕事が増えているそうだな」
「そうですね。メールが結構来てます」
「全部受けるつもりか」
「まさか」
そう答えると、灰崎さんは少し頷いた。
「ならいい」
「何かあるんですか?」
「大学の課題を忘れなければ、私から言うことはない」
「ああ、それなら大丈夫です」
「本当だろうな」
「ちゃんと出してますよ」
「今はな」
少し疑われているらしい。
でも、課題を忘れたことはないし、授業を休んで仕事をしているわけでもない。
必要なことがあれば普通にやる。
それだけの話だった。
「ところで、《終幕まで聴いて》は私も聞いた」
「そうなんですね」
「なかなか面白いことをしたな」
「アリアの設定が面白かったので」
「歌で人間の意識を奪う魔女、だったか」
「はい」
灰崎さんは少し考えた。
「声部の扱いも特徴的だった。特に、中心となる声を入れ替える部分だ」
「ああ、あそこですか」
「一つの声を追っているつもりでも、途中から別の声を聞くことになる」
「そうなるように作りました」
「だろうな」
灰崎さんは俺を見る。
「他の作品でも、ああいうものを作るつもりか」
「必要なら作りますけど、別に毎回あれじゃなくてもいいですよね」
「そうだ」
「ゲームの設定があれだったから作っただけですし」
「なら問題ない」
それで話が終わるかと思ったけれど、灰崎さんはもう一つ質問した。
「商業作品で作曲すること自体は、どうだった」
「面白かったですよ」
「どこがだ」
「自分だけで曲を作る時と違って、最初から条件があるところですかね。ゲームだと、どこで音楽が変わるかも考えないといけませんし」
「制約があることは嫌ではなかったか」
「別に。条件があるなら、その中で作ればいいので」
「そうか」
灰崎さんは少しだけ表情を緩めた。
「作曲家としては、それで十分だ」
「そういうものですか」
「依頼された作品を理解せず、自分の作りたいものだけを押しつける人間もいる」
「それだと、依頼された意味がないですよね」
「その通りだ」
灰崎さんは手元の資料を持ち直した。
「今後も仕事は増えるだろう。引き受けるなら、条件と時間は確認しておけ」
「はい」
「それと、授業は出ろ」
「出ますって」
「ならいい」
そう言って、灰崎さんは歩いていった。
俺も教室を出る。
仕事が増えていることは、大学の先生にも知られているらしい。
別に隠しているわけではないけれど、思ったより話が広がっているようだった。
〓〓〓
広告映像の制作担当者とは、オンラインで打ち合わせをすることになった。
今回の依頼は、家具を扱う会社の短い広告映像だった。
商品そのものを大きく紹介するというより、普段の生活の中で家具が使われている様子を見せたいらしい。
「映像をご覧いただきながら、ご説明してもよろしいでしょうか」
「はい」
画面に、制作途中の映像が表示された。
朝の部屋。
窓から光が入り、木製のテーブルの上を照らしている。
誰かが椅子を引く。
食器を置く。
別の場面では、夕方の部屋で一人の人間が本を読んでいた。
派手な演出はない。
家具を使っている人々の生活が、短い時間の中でいくつか映し出される。
「今回は、商品を強く印象づけるというより、生活の中に自然に馴染んでいる様子を伝えたいと考えています」
「なるほど」
「音楽も、あまり主張しすぎないものが理想です。ただ、映像全体に統一感は持たせたいと思っています」
「分かりました」
俺はもう一度、映像を再生してもらった。
椅子を引く時の動き。
食器を置く手。
朝の光と、夕方の光。
木の表面に映る色。
映像の中で鳴っている小さな生活音。
それぞれが、自然に音として重なっていく。
「これ、生活音は残しますか?」
「はい。食器を置く音や、椅子を動かす音は使う予定です」
「じゃあ、その音は邪魔しない方がいいですね」
「そうですね」
「ナレーションもあります?」
「最後に短く入ります」
「それなら、最後は少し音を減らした方がいいかな」
担当者が頷いた。
「そういった調整もお願いできればと思っています」
「大丈夫ですよ」
その後、映像の尺や納品形式、制作日程について説明を受けた。
今回も条件を確認し、必要な契約手続きを進める。
Starward Interactiveとの仕事で一度経験しているので、どこを確認すればいいかは分かっていた。
もちろん、契約内容は仕事によって違う。
前と同じだと思って適当に済ませるわけにはいかない。
ただ、分からないことがあれば聞けばいい。
必要な条件が整理され、正式に制作を引き受けることになった。
「鳴海さん、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
打ち合わせを終え、映像データを確認する。
《終幕まで聴いて》とは、まったく違う仕事だった。
あの曲では、聞いている人の意識を音楽へ引きつけることが重要だった。
でも、今回は逆だ。
見ている人には、映像の中の生活を感じてもらいたい。
音楽が目立ちすぎて、家具や人の動きが見えなくなったら困る。
ただし、音楽がなくてもいいというわけではない。
必要なところで音を鳴らし、映像全体を自然につなげる。
そういう曲にすればいい。
「こっちも面白そうだな」
俺は映像をもう一度再生しながら、使う音を考え始めた。
〓〓〓
自宅の音楽室で映像を確認し、最初にギターを手に取った。
柔らかい音が欲しかったので、弦を指で弾く。
一つ音を鳴らし、その響きが消えるところまで聞いてみる。
悪くない。
ただ、映像の最初から旋律を入れる必要はなさそうだった。
朝の光がテーブルへ伸びていく場面では、部屋の中の静けさを残したい。
そこで、最初は低い音を薄く入れることにした。
ギターで短い音を録音する。
次に、少し高い位置へ音を重ねる。
旋律というより、呼吸のような動きだった。
同じ音をずっと鳴らすのではなく、映像の中の小さな動きに合わせて、少しずつ変化させていく。
椅子が引かれる。
その動きの後に、短い音を入れる。
食器が置かれる場面では、効果音が聞こえるように音楽を少し引く。
窓から入る光が変わるところで、和音を動かす。
それだけでも、映像全体の印象が変わった。
今度はピアノを加えてみる。
ギターだけでも成立するけれど、少し広がりが欲しかった。
ただし、音を増やしすぎると、せっかくの生活音が隠れてしまう。
必要な場所へ、必要な分だけ入れる。
途中で一度、全部の音を聞き直した。
「うん、こんな感じかな」
映像を再生する。
朝の部屋。
木製のテーブル。
誰かの手が食器を置く。
ギターの柔らかい音が、その動きの後ろで静かに流れている。
場面が変わると、ピアノが短い旋律を奏でる。
夕方の部屋では、最初と似た音が戻ってきた。
ただし、朝とは少し違う響きになっている。
光の色も、部屋の空気も違うからだ。
最後に、映像の中で商品名が表示される。
そこでは、音楽をほとんど止めることにした。
ナレーションが入る予定なので、言葉が聞こえやすい方がいい。
それまで続いていた音が静かに収まり、短い余韻だけが残る。
曲はそこで終わった。
「これでいいか」
完成した音源を、映像と合わせてもう一度確認する。
音楽だけを聞けば、特に派手な曲ではない。
でも、映像と合わせると、ちょうどいい。
俺は必要な形式で音源を書き出し、制作担当者へ送った。
しばらくして、確認したい部分についての連絡が届いた。
最後のナレーションが入るところで、もう少し音を静かにしてほしいという相談だった。
「確かに、こっちの方がいいか」
共有された仮のナレーションを聞きながら、音量を少し調整する。
声の低い部分と重なっている音も、少し位置を変えた。
その方が言葉が自然に聞こえる。
修正した音源を送り直すと、今度は問題なかった。
『映像の雰囲気と非常によく合っています。特に生活音を残した構成が素晴らしいです』
そんな返事が届いた。
担当者の反応を見る限り、気に入ってもらえたらしい。
これで今回の制作は終わりだった。
《終幕まで聴いて》とは、ほとんど正反対の音楽になった。
あちらは最後まで意識を引きつける曲。
こちらは映像の邪魔をせず、必要なところだけを支える曲。
どちらも、依頼されたものに合わせて作った。
俺としては、それだけの違いだった。
〓〓〓
完成した広告映像が公開されると、制作会社からお礼の連絡が届いた。
クレジットには、音楽担当として俺の名前が記載されている。
映像を確認すると、最後に調整した音もきちんと反映されていた。
「ちゃんとできてるな」
そのまま一度見終えて、画面を閉じる。
今回の仕事について、特に問題はなかったようだ。
しばらくすると、また別の会社から問い合わせが来た。
今度は短編映像の音楽だった。
その次は舞台関係。
さらに、広告制作会社からの相談もあった。
すぐに正式な仕事になるものばかりではない。
企画段階の相談もあれば、条件が合わないものもある。
ただ、以前とは違って、最初から作曲家として俺に連絡してくる会社が増えていた。
「本当に増えたな」
受信箱を見ながら呟く。
最近は、仕事関係のメールを確認する時間も少し長くなった。
音楽を作ること自体は、別に面倒ではない。
むしろ、面白い依頼なら歓迎だ。
ただ、メールを読むのは音楽とは違う。
同じ内容を何度も確認したり、条件を整理したりする作業は、どうしても必要になる。
もちろん、適当に引き受けて後から困るのも嫌なので、必要な確認はする。
でも、何でもかんでも仕事にする必要はなかった。
いくつかの依頼に返信し、条件が合わないものについては丁寧に断る。
残ったものも、急いで全部引き受けるわけではない。
授業の予定もあるし、今やっていることを途中で投げ出したくはない。
そんなことを考えていると、スマートフォンに陽太からメッセージが届いた。
『楽、また仕事したんだって?』
『うん。広告の曲』
『見た。普通にいい曲だった』
『ありがとう』
少しして、また返事が来る。
『最近プロの作曲家みたいになってるな』
俺は画面を見た。
プロの作曲家。
言われてみれば、そうなのかもしれない。
曲を作って、報酬をもらっている。
それなら、仕事としては間違っていない。
『実際仕事で作ってるからね』
そう返すと、すぐに返信が来た。
『まあそうだけどさ』
『何?』
『お前、もっと何か感想ないの?』
少し考える。
『ゲームの曲は面白かったよ』
『知ってる』
『広告のも結構面白かった』
『それも知ってる』
『じゃあ何?』
しばらく返事が来なかった。
やがて、短いメッセージが届く。
『いや、やっぱ楽だなと思って』
『そう?』
『うん』
それから、陽太は別の話を始めた。
最近見つけたダンスの動画についてだった。
俺もその動画を見て、動きと音の合わせ方について少し話す。
前からそうだったけれど、陽太は身体の使い方について俺より詳しい。
音楽を聞いて、それに合わせて身体を動かす時の感覚も、俺とは少し違う。
そういう話をしている方が、仕事が増えたことについて話すより面白かった。
しばらくメッセージをやり取りしてから、スマートフォンを置く。
机の上には、次に確認する予定の制作資料があった。
その横には、大学の課題も置いてある。
仕事が増えても、大学の授業がなくなるわけではない。
必要なことは、今までどおりやればいい。
俺は先に課題を終わらせることにした。
〓〓〓
大学で課題を提出した後、作曲科の学生と話していると、商業音楽の仕事について聞かれた。
「鳴海って、今どのくらい仕事してるの?」
「どのくらいって?」
「作曲の依頼。ゲーム以外にもやってるんだろ?」
「うん。最近は映像の曲とか」
「すごいな。もう普通にプロじゃん」
「そうなのかな」
「いや、そうだろ。仕事として作曲してるんだから」
確かに、そのとおりだった。
ただ、自分でプロになろうと思って何かを始めたわけではない。
曲を作っていたら動画を見てもらえるようになって、そこから仕事の相談が来るようになった。
今は、それが増えている。
「でも、大学で習ってることと、仕事でやってることって違わない?」
「違うところもあるよ」
「例えば?」
「仕事だと、使う場所が先に決まってるから。ゲームなら戦闘中に使うし、広告なら映像に合わせるし」
「なるほど」
「だから、その条件に合うものを作ればいいんじゃないかな」
彼は少し考え込んだ。
「言うのは簡単だけどなあ」
「そう?」
「俺だったら、映像に合う曲を作れって言われても、何から考えればいいか分からないと思う」
「映像見ればいいんじゃない?」
「いや、だから……」
彼は笑った。
「まあ、鳴海に聞いた俺が悪かった」
「何で?」
「いや、何でもない」
そんな会話をしているうちに、次の授業が始まる時間になった。
それぞれ席へ戻り、資料を取り出す。
今日の授業では、複数の楽器を使った編成について扱うらしい。
先生が譜面を配り、説明を始める。
俺は普通に授業を受けながら、必要なところをノートへ書いた。
知らない名称があれば覚える。
課題が出たら解く。
それだけだった。
授業が終わった後、今度は灰崎さんに呼ばれた。
「鳴海、次の課題は分かっているな」
「はい」
「仕事があるからといって、提出期限を忘れるなよ」
「忘れませんって」
「そう言って忘れる学生もいる」
「俺はまだ忘れてないですよ」
「だから確認している」
なるほど。
そういうことらしい。
「大丈夫です。ちゃんと出します」
「ならいい」
灰崎さんは頷いた。
それから、少しだけ考えるような顔になる。
「それにしても、お前は忙しくなったな」
「メールは増えましたね」
「作曲の方は?」
「別に。面白い仕事だけ受けてるので」
「そうか」
「全部受けたら大変そうですけど」
「当然だろう」
少し呆れたような返事だった。
「仕事を選べるうちは、自分で判断しろ。ただし、引き受けたものには責任を持て」
「はい」
「それができているなら、私から言うことはない」
「分かりました」
灰崎さんと別れて、教室を出る。
廊下では、別の学生たちが授業の課題について話していた。
誰かの演奏するピアノが、離れた部屋から聞こえてくる。
窓から入る光も、廊下の空気も、いつもどおりだった。
俺が仕事をするようになったからといって、大学そのものが変わるわけではない。
まあ、それは当たり前か。
〓〓〓
その夜、また新しい依頼が届いた。
今度は映像作品の音楽だった。
資料を読むと、少し面白そうな場面がある。
主人公が誰もいない街を歩いているだけの短い映像らしい。
台詞も少なく、音楽と環境音を中心にした演出を考えているそうだ。
「へえ」
俺は映像の説明を読みながら、どんな音が合うか考えてみた。
誰もいない街。
でも、誰もいないからといって、音がないわけではない。
風は吹くし、建物の中にはいろいろな音が残る。
人が歩けば足音もする。
それをどう聞かせるかで、同じ映像でも印象は変わりそうだった。
詳細を聞いてみたいと思ったので、担当者へ返信する。
必要な条件を確認し、資料があれば送ってほしいと伝えた。
これも仕事になるかもしれない。
ならないかもしれない。
どちらでも、今は別に困らない。
俺はメールを閉じ、音楽室へ入った。
今日は特に作らなければならない曲はない。
大学の課題も終わっているし、受けている仕事も一通り片付いている。
つまり、暇だった。
「さて、何しようかな」
ピアノの前に座り、適当に鍵盤を押す。
鳴った音が少し面白かったので、別の音を重ねてみた。
今度は、その音を少しずらす。
すると、最初とは違う響きになった。
「こっちもいいな」
そのまま続きを弾く。
途中でギターを重ねたくなったので、ピアノから離れて楽器を持ち替えた。
別に、今作っている音楽をどこかへ公開する予定はない。
仕事として使うつもりもない。
ただ、思いついた音が面白かったから鳴らしているだけだ。
そういえば、最近は仕事関係のメールでも、俺のことを作曲家と呼ぶ人が増えた。
以前から動画を見てくれている人もいれば、商業作品で初めて知った人もいるらしい。
そういう人たちが、俺の曲を仕事で使いたいと言ってくる。
それは別に悪いことではない。
面白そうな依頼なら、これからも作ればいい。
報酬ももらえるし、作った曲が実際の作品で使われるのを見るのも楽しい。
ただ、それで俺のやることが大きく変わったわけではなかった。
仕事があれば、頼まれたものを作る。
仕事がなければ、好きな音で遊ぶ。
大学では授業を受ける。
それだけだ。
ギターの弦を弾くと、さっきまでのピアノとは違う音が広がった。
その響きが気に入ったので、もう一度鳴らす。
次の音も、すぐに思いついた。
「うん、面白い」
俺はそのまま、しばらく音で遊び続けた。




