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鳴海楽は努力しない  作者: 悪癖


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21/55

第21話 鳴海楽という作曲者

最初の共同動画を出してから、陽太はすぐ次の振りを持ってきた。


「楽、できた」


放課後、多目的室へ入るなり言う。


「何が?」


「次のやつ」


「全部?」


「だいたい」


だいたいらしい。


陽太がスマートフォンを置く。


「一回見る?」


「見る」


音楽を流して、踊り始める。


前の動画とはかなり違った。


足を大きく使う場所が少ない。


上半身が細かく動く。


途中で身体を止めて、次の瞬間だけ強く落とす。


前回の曲をそのまま使うと合わない。


「もう一回」


「やっぱ二回見るんだな」


「必要なら三回でも」


「一回で全部分かるとかじゃねえんだ」


「音は一回で覚えるけど、陽太が次も同じに動くかは見ないと分からない」


「なるほど?」


陽太もよく分かっていないらしい。


もう一度踊る。


一回目と二回目。


同じ振りでも、細かいところは違う。


でも、必ず同じ場所で身体が沈む。


そこは音も落とせる。


逆に腕を細かく使う場所へ音を詰めすぎると、動きが見えにくい。


「分かった」


「早いな」


俺はピアノの前へ座る。


低い音を一つ。


違う。


少し上。


今度は合う。


陽太が横で聞いている。


「前のと全然違うな」


「踊り違うから」


「同じ俺なのに?」


「同じ陽太でも動き違うでしょ」


「まあそうだけど」


音を重ねる。


今回は前より軽い。


でも途中で一度だけ重くする。


その瞬間に陽太の身体が落ちる。


「そこ踊って」


「もう?」


「確認したい」


陽太が中央へ戻る。


俺が弾く。


陽太が動く。


一度止める。


「今のところ、もう少し待って」


「俺が?」


「うん」


「曲の方変えるんじゃなくて?」


「そっちの方がきれい」


「楽が俺に合わせるんじゃなかったのかよ」


「何でも陽太に合わせるとは言ってないよ」


「そういうもん?」


「一番よくなる方にする」


陽太が少し笑う。


「じゃあもう一回」


今度は陽太が少し待つ。


そこへ音を入れる。


さっきよりいい。


「今」


俺が言う。


「俺も今の方好き」


「じゃあこれ」


そのまま続きを作る。


陽太の動きが先にある。


でも全部をそのまま音にするわけじゃない。


陽太が動くために必要な場所は残す。


曲だけでも変にならないようにつなぐ。


二つが一緒になった時に一番よければいい。


曲ができる。


録る。


陽太が踊る。


動画にする。


前より流れが早かった。


一回やったから、必要なことが分かっている。


ファイルを保存する時だけ少し止まった。


「名前どうする?」


陽太が聞く。


「陽太の曲2」


「やっぱそれなんだ」


「二個目だから」


「もう諦めたわ」


二本目ができた。




 

 

 

〓〓〓

 

 

 



二本目も、前より見られた。


ものすごく多いわけではない。


陽太の動画を見る人が、少し増えたくらい。


でもコメントの中に、前回には少なかったものが増えた。


昼休み。


陽太が俺のところへ来る。


「楽、これ」


またスマートフォンを見せられる。


「コメント?」


「そう」


読む。


『今回も曲オリジナル?』


『前の動画と同じ人が作ってる?』


『この音、振りに合わせて作ってるのかな』


『曲の切れ目と動き合いすぎて気持ちいい』


「合ってるね」


俺が言う。


「何が?」


「振りに合わせて作ってる」


「感想そこ?」


「違うの?」


「いや合ってるけど」


陽太が画面を下へ動かす。


「ほら、前より曲のこと聞かれてる」


「うん」


「誰が作ってるのって」


「陽太が作ってないのは分かるんだ」


「俺、作れるって一回も言ってないし」


「じゃあ普通じゃない?」


「そうじゃなくてさ」


陽太は少し考える。


嬉しい。


自分の動画が見られるのも嬉しいし、俺の曲が気にされるのも嬉しい。


その二つはまだ普通に一緒だった。


「次から書く?」


「何を?」


「作曲したやつ」


「俺?」


「他に誰がいるんだよ」


「別にいいよ」


「名前出していい?」


「鳴海楽?」


「そう」


考えるほどでもない。


父さんから言われていることはある。


住所。


学校。


普段いる場所。


必要のないものは自分から出すな。


面倒が増えるから。


でも名前は別だった。


「いいよ」


「ほんとに?」


「うん。学校とかは書かないで」


「当たり前だろ。俺も自分の学校なんか出してねえし」


「じゃあいい」


陽太がすぐ納得する。


「次から説明んとこに入れとく」


「何て?」


陽太が画面へ指を置く。


「曲作ったのは友達の鳴海楽、とか」


「それで分かる?」


「名前知りたいって言ってんだから分かるだろ」


「そっか」


俺には、それで何かが変わる感じはしなかった。


曲は同じだ。


誰が作ったか書いても、音は変わらない。


「楽、ほんと興味ねえな」


「何に?」


「自分の名前出ること」


「陽太の動画でしょ」


「でも曲はお前のだろ」


「うん」


「普通ちょっと気にならね?」


「変なこと書かれたら?」


「それもあるけど」


「事実なら別に」


「……まあ楽だしな」


陽太が勝手に納得した。


チャイムが鳴る。


「じゃ、次の動画からな」


「うん」


それで終わった。




三本目。


四本目。


共同動画は少しずつ増えた。


陽太の振りも毎回違う。


だから俺の曲も違う。


三本目は足の細かい動きが多かった。


音を細かくしすぎると全部が同じところへ集まるから、低いところだけは単純にした。


四本目は逆だった。


陽太が大きく移動する。


だから曲も少し広くした。


同じ速さでも、音の置き方を変える。


陽太も慣れてきて、振りを見せながら言うようになった。


「ここ、もっと強いの欲しい」


「どんな?」


「どん、って来る感じ」


「長い?」


「短い」


「ここだけ?」


「一回目と最後」


「分かった」


俺が鳴らす。


「それ!」


「これ?」


「そうそう」


陽太が欲しいものを言葉にできない時もある。


でも動けば分かる。


身体が何を待っているか聞けばいい。


「楽、こっちはなんか違う」


「どこが?」


「分かんねえけど、踊りにくい」


「もう一回やって」


見る。


分かる。


音の位置が少し早い。


俺には弾ける。


でも陽太がその動きから次へ行くには時間が足りない。


「これなら?」


少し変える。


「あ、それ」


そうやって作る。


前より陽太も注文するようになった。


俺も、何を言っているのか分かるようになった。


曲を渡して終わりではなく、一緒に作っている感じが少し増えた。




 

 

 

〓〓〓

 

 

 



四本目を投稿した翌日。


教室で知らない声に呼ばれた。


「鳴海」


同じクラスの男子だった。


話したことはある。


でも普段一緒にいるわけではない。


「なに?」


「相沢の動画の曲、お前が作ってんの?」


「うん」


「マジで?」


「うん」


「全部?」


「最近のは」


「へえ」


驚いている。


疑っているわけではない。


単純に、同じ教室にいるやつが曲を作っていたのが意外らしい。


「なんで分かったの?」


「説明に書いてあった。友達の鳴海楽って」


陽太が本当に書いたらしい。


「そう」


「お前、ピアノ弾けるもんな」


「うん」


「作曲もできんだ」


「できるよ」


男子は少し興味深そうに俺を見る。


でも、それ以上大きなことにはならなかった。


「次も作るの?」


「陽太が使うなら」


「ふうん。じゃ、また見るわ」


「うん」


その男子が離れる。


入れ替わりに陽太が来た。


「何話してた?」


「動画」


「曲?」


「うん」


「やっぱ学校でも見てるやついるんだな」


「同じクラスだからじゃない?」


「俺の動画、前から知ってるやつはいるけどさ」


陽太は嬉しそうだった。


「コメントも増えたぞ」


「また見るの?」


「見ろ」


スマートフォンを渡される。


『曲作ってる鳴海楽って誰?』


『友達なんだ』


『毎回オリジナルなら普通にすごくない?』


『作曲してる子の音ももっと聞きたい』


最後で少し止まる。


「俺の音?」


「だろうな」


「動画に入ってるじゃん」


「もっとって書いてある」


「じゃあ長くすれば?」


「そういう意味じゃねえと思う」


難しい。


曲は陽太が踊るために必要な長さで作っている。


余計に長くしても意味がない。


「これも」


陽太が別のコメントを指す。


『鳴海くん本人は動画出てないの?』


「出てないね」


俺が言う。


「見りゃ分かる」


「何で俺見たいの?」


「知らん。作ってるやつ気になるんじゃね?」


「顔見ても曲変わらないよ」


「そういう問題じゃないって」


相変わらず、視聴者が何を気にするかはよく分からない。


陽太は楽しそうに画面を見ている。


俺の名前が出たことを嫌がっていない。


自分の動画なのに俺へ注目が来た、と困ってもいない。


『楽の曲ちゃんと評価されてんじゃん』


そのまま喜んでいる。


「陽太」


「ん?」


「俺の名前出してよかった?」


「何で?」


「俺のこと聞く人増えたから」


陽太が変な顔をする。


「いいだろ別に。楽が作ったんだから」


「陽太の動画だけど」


「だから何?」


「陽太が嫌なら名前消してもいいよ」


「嫌じゃねえよ」


即答だった。


「俺が踊って、楽が曲作ってる。それ書いてるだけじゃん」


「そうだね」


「むしろ曲だけ俺が作ったみたいに思われる方が嫌だわ」


嘘になるかららしい。


そこも陽太だった。


「じゃあそのまま」


「おう」


授業が始まるから、陽太はスマートフォンをしまった。




 

 

 

〓〓〓

 

 

 



その後も動画は増えた。


陽太の名前を覚えている人。


前から見ている人。


最近来た人。


その中に、俺の名前を書く人も少しずつ増えた。


『今回も鳴海楽?』


『この二人の組み合わせ好き』


『曲が毎回ちゃんとダンスに合ってる』


『鳴海くん、何者なんだ』


何者と言われても、中学生だった。


「友達」


陽太はそう答えていた。


ある日、コメントを見ながら俺が聞く。


「何者って聞かれてるよ」


「見えてる」


「答えないの?」


「答えてるじゃん」


「どこ?」


陽太が自分の書いた返信を見せる。


『曲を作ってるのは友達の鳴海楽です』


それだけだった。


「短いね」


「他に何書くんだよ」


「知らない」


「だろ?」


陽太は俺の経歴を並べなかった。


小学生の頃にピアノを習っていたことも。


コンクールへ出ていたことも。


六年続けて一位だったことも。


そんなことは、陽太にとって今の動画を説明するのに必要ないらしい。


俺も必要だとは思わなかった。


「楽は楽だし」


陽太が言う。


「うん」


「俺の友達で、曲作ってる。それでよくね?」


「いいと思う」


「じゃあ終わり」


簡単だった。


俺もその方が楽だった。


ただ、名前が出るようになってから、コメントの種類は少し変わった。


陽太がどう踊ったか。


振りがどうだったか。


前より上手くなったか。


そこに混ざって、


鳴海楽の曲。


次の曲。


誰が弾いているのか。


どうやって作っているのか。


そういう話が増えた。


俺は聞かれたことを全部答えるわけではない。


陽太も必要のないことまで書かない。


それでも、鳴海楽という名前だけは、動画を見る人の中で少しずつ形になっていった。


俺自身は、あまり変わらなかった。


学校へ行く。


授業を受ける。


暇なら音で遊ぶ。


陽太が振りを持ってきたら曲を作る。


それだけだった。




ある日の放課後。


いつものように多目的室で陽太が踊り終わる。


俺はピアノの前にいた。


今日は曲を作る日ではない。


陽太が以前の曲を流して、一人で練習していただけだ。


「楽」


「なに?」


陽太が床に座ったまま俺を見る。


「今度さ」


「うん」


「録音じゃなくて、お前がその場で弾いて、俺が踊るの撮らね?」


「今までみたいに?」


「前にここでやっただろ。俺が動いたら楽がその場で音変えるやつ」


「ああ」


中学一年の頃。


最初にこの部屋で一緒にやった時のことを思い出す。


陽太が動く。


俺が弾く。


陽太が変わる。


俺も変える。


録音した曲へ陽太が合わせるのとは別だった。


「動画にするの?」


「そう」


「俺も映る?」


「ピアノ弾いてるとこ入れた方が分かりやすくね?」


「別にいいよ」


「顔も?」


「いいよ」


陽太が少し笑う。


「軽いな」


「何が?」


「今、コメントで楽のこと気にしてるやつ増えてるのに」


「だから?」


「いや。お前はそうだよな」


陽太が立つ。


「じゃあ今度やろうぜ」


「うん」


「曲、決める?」


「決めなくていいんじゃない?」


「は?」


「陽太が動いたの見て弾くから」


「最初から?」


「その方が面白そう」


陽太が止まる。


それから、ゆっくり笑った。


『それやりたい』


すぐ分かる。


「いいじゃん」


陽太が言った。


「それやろう」


俺も鍵盤を一つ鳴らした。


録音した曲を使う動画は、もう何本か作った。


次は、その場で陽太を見ながら弾く。


同じ音にはならない。


たぶん、その方が面白かった。

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