第八話 雪の奥
侍たちは動けなかった。
雪の上へ続く、
赤い足跡。
片方だけ。
ぽつ。
ぽつ。
まるで。
片脚で引きずるように歩いている。
提灯の火が揺れる。
「……行くのか」
一人が唾を飲み込む。
年嵩の侍が低く言った。
「放っておけるか」
雪を踏む音。
ぎし、ぎし。
足跡を追って、
侍たちは森の奥へ入っていく。
白河の夜は暗い。
木々の隙間から、
冷たい風が吹いていた。
その時。
先頭の侍が止まる。
「……なんだ、あれ」
雪の上。
黒い塊。
近づく。
血の臭い。
提灯を向けた瞬間。
「――っ!」
誰かが悲鳴を呑み込んだ。
そこにあったのは。
人だった。
いや。
人だったもの。
身体は途中から潰れ、
内臓が雪へ散っている。
片脚だけが、
不自然に残されていた。
侍の一人が吐く。
「なんだよ……これ……」
その時。
ぐちゃ。
後ろで音がした。
全員が振り向く。
いた。
木の間。
白い顔。
裂けた口。
細長い身体。
異様に長い腕。
そして。
笑っていた。
「ぁ――」
誰かの喉が鳴る。
次の瞬間。
それは消えた。
速い。
見えない。
ぶしゃっ。
血が舞う。
侍の一人の首が、
半分無くなっていた。
絶叫。
提灯が落ちる。
火が雪へ散る。
「逃げろ!!」
叫び声。
雪。
血。
闇。
化け物は笑っていた。
――同じ頃。
久世家。
雪弥は眠れなかった。
なぜか胸がざわざわする。
由美の腕の中なのに、
落ち着かない。
外を見る。
雪。
暗闇。
その向こう。
何かいる気がした。
雪弥は小さく泣いた。
「ぅ……」
由美が優しく揺らす。
「どうしたの〜」
でも。
雪弥は外を見続けていた。
遠く。
白河の夜へ、
悲鳴が響く。
高志が顔を上げた。
その瞬間。
頭の奥へ、
知らない景色が流れ込む。
赤い雪。
燃える町。
化け物。
そして。
白い炎。
高志は息を呑む。
外では、
まだ悲鳴が続いていた。




