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第七話 血の足跡

白河の空気が変わり始めていた。


町を歩く人々の声は小さい。


夜道を避ける者も増えた。


昨夜、

町外れで見つかった浪人は、

生きてはいた。


だが。


右肩から先が、

無くなっていた。


斬られたようには見えない。


まるで。


何かに噛み千切られたみたいだった。


「化け物だ……」


誰かがそう呟いた。


その言葉を、

皆が否定できなかった。


白河藩の侍たちも、

夜の見回りを増やしていた。


冬の空は暗い。


雪は静かに降り続いている。


久世家。


由美は雪弥を抱きながら、

外を気にしていた。


「最近、

 変なことばっかりね……」


高志は黙ったまま、

刀の手入れをしている。


しゃり。


静かな音。


その手つきは妙に慣れていた。


本人も気づいていないくらい自然に。


由美が少し不思議そうに見る。


「高志、

 そんな上手かった?」


高志は自分の手を見る。


確かに妙だった。


まるで。


ずっと使ってきたみたいだった。


「……俺にも分からん」


雪弥はその様子を、

じっと見ていた。


難しいことは分からない。


でも。


高志の近くは落ち着く。


鉄の匂い。


炭の匂い。


少し汗の混ざった匂い。


嫌いじゃなかった。


その時。


「雪弥ー!」


元気な声。


勢いよく障子が開く。


朝倉咲だった。


雪で髪が少し濡れている。


「咲ちゃん、

 そんな勢いよく入ったら――」


由美が言う前に。


咲は雪弥の目の前へ来ていた。


「今日ね!

 お団子もらったの!」


得意げに見せる。


雪弥はじっと咲を見る。


近い。


でも嫌じゃない。


咲の匂いは、

なんだか安心した。


甘い匂い。


雪の匂い。


陽だまりみたいな匂い。


雪弥は小さく手を伸ばす。


咲が笑った。


「わっ、掴んだ!」


高志が呆れる。


「お前、

 ほんと遠慮ねぇな」


咲はけらけら笑う。


その笑い声だけ、

今の白河では妙に明るかった。


でも。


外では。


静かに何かが近づいていた。


夜。


見回りの侍たちが、

提灯を持って雪道を歩いていた。


「……本当に化け物なのか?」


「馬鹿言え」


そう言いながらも、

声は硬い。


その時。


一人が立ち止まった。


「おい」


雪の上。


赤い染み。


血だった。


提灯の火が揺れる。


血は、

奥へ続いている。


ぽつ。


ぽつ。


足跡みたいに。


でも。


片方しかない。


侍たちの顔から、

血の気が引いた。


雪の闇の奥から。


ぐちゃり。


何かを踏む音がした。

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