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第六話 はじめての雪

翌朝。


白河は少し騒がしかった。


「昨夜、

 人斬りが出たらしい」


「いや、

 獣だって話だ」


町人たちが不安そうに話している。


道にはうっすら雪。


空は重たい曇り空だった。


由美は雪弥を抱きながら、

その噂を聞いていた。


少し不安そうに。


「物騒ねぇ……」


高志は黙ったまま、

井戸で水を汲んでいる。


昨夜の叫び声。


あれは夢じゃなかった。


でも。


今は由美を怖がらせたくなかった。


雪弥は由美の腕の中で、

きょろきょろ辺りを見ている。


小さな黒い瞳。


雪を見るのは初めてだった。


由美は少し笑う。


「雪、気になるの?」


雪弥へ、

小さな雪の塊を見せる。


白い。


冷たい。


雪弥はじっと見ていた。


それから。


小さな指で触れる。


ひやり。


冷たさに少し驚いたのか、

目を丸くする。


由美が笑った。


「ふふ」


高志もそれを見て、

少しだけ肩の力を抜く。


その時だった。


「わっ、赤ちゃんだ!」


元気な声。


振り向くと、

小さな女の子が立っていた。


朝倉咲。


近所の娘だ。


雪弥より少し年上。


明るくて、

じっとしていられない子だった。


咲は興味津々で雪弥を覗き込む。


「かわいー!」


距離が近い。


由美が苦笑する。


「こらこら、

 そんな近づいたら雪弥びっくりするでしょ」


でも。


雪弥は泣かなかった。


じっと咲を見ている。


咲の髪から、

甘い匂いがした。


雪の日の匂い。


陽だまり。


それに少しだけ、

花みたいな香り。


雪弥はその匂いを覚えた。


なんだか落ち着く。


咲は雪弥の頬をつつく。


「むにむにしてる!」


高志が呆れる。


「お前なぁ……」


咲はけらけら笑った。


その笑い声は、

妙に明るかった。


白河の重たい空気を、

少しだけ忘れさせるくらいに。


でも。


その時。


町の奥から、

怒鳴り声が響く。


「医者呼べ!!」


空気が変わる。


町人たちの顔から笑みが消えた。


由美が雪弥を抱き直す。


高志はそちらを見る。


遠く。


人だかり。


雪の上へ、

赤黒い色が滲んでいた。


高志の胸がざわつく。


理由は分からない。


でも。


“何かが始まった”。


そんな感覚だけが、

妙に強く残っていた。

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