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第五話 夜鳴き

雪弥は、

よく泣く子だった。


夜になると特にひどい。


「うぁぁぁぁんっ!!」


由美が慌てて抱き上げる。


「よしよし、どうしたの〜」


でも泣き止まない。


高志は寝不足だった。


「またか……」


慶応三年。


白河の冬は寒い。


しかも赤子は容赦なく泣く。


由美は目の下に薄く隈を作っていた。


「ごめんね、

 高志も仕事あるのに」


「いや……」


高志は首を振る。


雪弥を見る。


小さい。


弱そうだ。


なのに。


紫苑の言葉が頭から離れない。


『今回の中心』


『白河は燃える』


意味が分からない。


でも。


嫌な予感だけが残っていた。


雪弥は由美の腕の中で、

まだ泣いている。


高志は困ったように頭を掻いた。


「貸してみろ」


由美が少し驚く。


高志は不器用に雪弥を抱いた。


慣れていない。


ぎこちない。


でも。


雪弥はぴたりと泣き止んだ。


由美が目を丸くする。


「え」


高志も固まる。


雪弥はじっと高志を見ていた。


それから。


小さな手で、

高志の服を掴む。


「……なんだお前」


高志は少し笑った。


初めてだった。


雪弥を見て、

怖いより先に可愛いと思ったのは。


由美もほっとしたように笑う。


「高志の匂い、

 好きなのかもね」


その言葉に。


高志の胸が少しだけ温かくなる。


外では雪が降っていた。


静かな夜。


白河は平和だった。


少なくとも今は。


その頃。


町外れ。


雪の積もる道を、

一人の男が歩いていた。


浪人風の男。


蓑を被り、

酒瓶を片手にふらふら歩いている。


酔っているのか、

鼻歌まで歌っていた。


「さみぃなぁ……」


その時。


男の足が止まる。


道の真ん中。


何かが立っていた。


黒い。


細長い。


人みたいな影。


男が目を細める。


「……なんだぁ?」


影は動かなかった。


でも。


次の瞬間。


ぐちゃり。


男の肩が、

消えた。


「――ぁ?」


血が舞う。


男は何が起きたか理解できない。


遅れて。


激痛。


「ぎゃああああああっ!!」


絶叫が、

雪の夜へ響いた。


白河の静かな冬が。


少しずつ壊れ始めていた。

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