第四話 消えた女
雪は静かに降っていた。
夜。
白河。
久世家の庭には、
薄く雪が積もっている。
ざんっ。
薪が綺麗に割れた。
高志は縁側に立ったまま、
その光景を見ていた。
紫苑。
黒い着物。
長い黒髪。
雪みたいに白い肌。
細い身体なのに、
胸元だけやけに存在感がある。
しかも本人は全く気にしていない。
袖をまくり、
面倒そうな顔で薪を割っている。
ざんっ。
また綺麗に割れる。
高志は眉を寄せた。
「……なんでそんな慣れてる」
紫苑は振り向きもせず言う。
「何回もやったから」
「今回って言葉、
さっきからなんなんだ」
紫苑は少し黙った。
雪だけが降っている。
やがて。
小さく笑った。
「気になる?」
「当たり前だ」
高志の声は低い。
紫苑は薪を置いた。
それから、
紫の瞳で高志を見る。
眠そうな目。
でも。
奥だけ妙に冷たい。
「もしさ。
大事な人が目の前で何回も死んだら、
覚えてたい?」
高志の背筋が凍る。
頭が痛む。
赤い雪。
泣き声。
炎。
断片が流れ込む。
高志が額を押さえた。
「っ……」
紫苑はそれを見て、
少しだけ目を細めた。
「ほらね」
「……お前、
何を知ってる」
紫苑は空を見る。
白い雪。
静かな夜。
その横顔だけ、
少し大人びて見えた。
「君たち、
前に死んでるよ」
高志の呼吸が止まる。
紫苑は続けた。
「由美も。
君も」
軽い声だった。
でも。
冗談には聞こえない。
高志が睨む。
「……ふざけるな」
「ふざけてないよ」
紫苑は笑わなかった。
それが逆に怖かった。
「だから記憶消したの」
高志の心臓が大きく鳴る。
「誰が」
紫苑は少し考えるふりをした。
それから。
自分を指差す。
「たぶんあたし?」
悪びれない。
まるで。
今日の天気でも話すみたいに。
高志は拳を握った。
「……雪弥は」
紫苑の目が少し細くなる。
「今回の中心」
雪が降る。
静かな白河。
でも。
空気だけが冷たかった。
高志が低く聞く。
「禍津ってなんだ」
紫苑は小さくため息を吐いた。
「性格の悪い災害」
「なんだそれは」
「ほんとにそうなんだもん」
紫苑は縁側へ腰掛けた。
白い足がちらりと見える。
高志は思わず視線を逸らした。
紫苑がにやっと笑う。
「また見た」
「見てねぇ」
「今回の君むっつりだねぇ」
「うるせぇ」
少しだけ。
空気が緩む。
でも次の瞬間。
紫苑の笑みが消えた。
雪の向こうを見る。
「……今回の禍津、
前より性格悪いよ」
その声だけ、
妙に静かだった。
高志の背筋へ、
嫌な寒気が走る。
「白河――」
紫苑は雪を見上げる。
そして。
小さく呟いた。
「今回も燃えるかな」
高志が息を呑む。
次の瞬間。
風が吹いた。
雪が舞う。
視界が白く染まる。
そして。
紫苑の姿が消えていた。
最初から誰もいなかったみたいに。
静かな雪だけが残る。
高志はしばらく、
その場を動けなかった。
遠く。
家の中から、
雪弥の小さな泣き声が聞こえた。




