第二十三話 ぬくもり
その日の雪は、
弱かった。
白河を離れて数日。
雪弥と咲は、
小さな宿場町へ辿り着いていた。
古い木造の宿。
軋む廊下。
囲炉裏の匂い。
宿をやっていたのは、
年老いた夫婦だった。
「……こんな時代に、
子供だけで旅かい」
老婆が心配そうに言う。
雪弥は黙って頭を下げた。
咲は雪弥の背中で、
ぼんやり笑っている。
「あは……
ゆきぃ」
老婆の顔が曇る。
でも。
それ以上は聞かなかった。
夜。
部屋には小さな火鉢だけがあった。
外では雪が降っている。
雪弥は咲へ布を掛けていた。
咲はじっと雪弥を見ている。
「……なに」
咲がふにゃっと笑う。
「ゆき、
いいにおい」
雪弥は少し黙る。
それから。
「……薪臭いだけ」
「あはは……」
咲は嬉しそうだった。
雪弥が離れようとすると、
咲が着物の袖を掴む。
「……いかないで」
小さい声。
雪弥はそのまま座り直した。
咲は安心したみたいに、
雪弥へ身体を寄せる。
温かい。
昔は逆だった。
泣く雪弥を、
咲が抱いていた。
今は。
雪弥が咲を支えている。
火鉢の火が揺れる。
咲がぼんやり呟く。
「……雪弥、
大きくなったね」
雪弥の動きが止まる。
久しぶりだった。
ちゃんとした咲の声。
昔みたいな。
優しい声。
雪弥は小さく答える。
「……咲が小さいだけ」
咲が笑った。
少しだけ。
昔みたいに。
でも。
次の瞬間。
咲の目が揺れる。
「あ……
あれ……?」
不安そうな顔。
壊れた笑顔。
咲は雪弥へしがみついた。
「ゆき……
どこ……?」
雪弥は何も言わない。
ただ。
そっと咲の頭へ手を置く。
咲は安心したみたいに、
ゆっくり目を閉じた。
静かな寝息。
雪弥はその顔を見る。
左腕は無い。
右足も無い。
包帯の下では、
呪いがまだ蠢いている。
雪弥は目を伏せた。
火鉢の火が、
小さく揺れる。
外では雪が降っていた。
静かな夜だった。




