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第二十一話 雪道

雪の朝だった。


白河は、

静かだった。


朝倉家の前には、

薄く雪が積もっている。


人の気配は無い。


最近は、

朝でも外を歩く者が減った。


遠くで風が鳴っている。


雪弥は、

家の前へ立っていた。


黒髪。


白い肌。


年相応の細い身体。


まだ少年の線が残っている。


でも。


山で育った獣みたいな鋭さがあった。


感情の薄い目だけが、

妙に冷たい。


灰色の着流し。


その上から、

擦り切れた濃紺の羽織を羽織っている。


雪国用の厚い布だけど、

何度も縫い直された跡があった。


首には、

咲が昔編んだ古い布が巻かれている。


腰には山刀。


背には源蔵の猟銃。


そして今。


雪弥は咲を背負っていた。


咲は雪弥の背中へ、

静かに身体を預けている。


長い黒髪。


少し垂れた目元。


柔らかい顔立ち。


でも。


その笑顔は壊れていた。


薄桃色の着物。


元は明るい色だったけれど、

今は煤や血で汚れている。


その上から、

白い羽織を羽織っていた。


左袖だけが、

空っぽのまま風に揺れている。


右足も失っていた。


包帯の巻かれた脚を、

雪弥が支えている。


咲はぼんやり笑った。


「あは……

 ゆき、

 あったかい」


雪弥は答えない。


ただ。


朝倉家を見ていた。


囲炉裏。


薪。


雪。


源蔵。


全部そこに残っている。


でも。


もう戻れない。


雪弥は小さく息を吐く。


それから。


静かに歩き出した。


白河を離れる。


雪を踏む音だけが響く。


きゅっ。

きゅっ。


咲が雪弥の肩へ頬を寄せる。


「ねぇ……

 どこいくの?」


「……京」


「きょう……」


咲は嬉しそうに笑った。


意味は分かっていない。


でも。


雪弥と一緒なら安心だった。


街道には、

旅人が増えていた。


浪人。


商人。


逃げる農民。


皆、

同じ顔をしている。


疲れていた。


怯えていた。


時代が壊れ始めている。


それを誰もが感じていた。


昼頃。


二人は宿場町へ辿り着く。


でも。


空気がおかしかった。


静かすぎる。


雪弥の目が細くなる。


血の匂い。


それも新しい。


雪弥は宿場の奥を見る。


倒れた荷車。


開いたままの店。


そして。


雪の上に、

黒い血が残っていた。


咲が小さく震える。


「……ゆき」


雪弥は咲を背負い直す。


その時。


奥の路地から、

男が転がり出てきた。


浪人だった。


片腕が無い。


顔面蒼白。


男は雪弥を見る。


「に、逃げろ……」


その瞬間。


路地の奥。


黒い影がゆっくり立ち上がった。


界骸。


人の形。


でも。


首が異様に長い。


裂けた口から、

血が垂れている。


咲が震える。


雪弥は静かに山刀を抜いた。


きぃん――。


冷たい音。


界骸が笑う。


くつくつくつ――。


雪が降る。


白い街道。


京への道は、

もう地獄になり始めていた。

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