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第二話 紫苑

雪は降り続いていた。


久世家の囲炉裏では、

高志が険しい顔をしていた。


向かい側。


知らない少女が、

当然みたいな顔でみかんを食べている。


「誰なんだよ、お前」


少女はもぐもぐしながら、

面倒そうに目を向けた。


「さっきも聞かれた」


「答えてねぇだろ」


「紫苑」


「そういう意味じゃねぇ」


少女――紫苑は、

けらけら笑った。


雪みたいに白い肌。


長い黒髪。


紫水晶みたいな瞳。


年は十六、七ほど。


黒い着物は着崩れていて、

肩が少し見えている。


しかも胸が大きい。


本人は全く気にしていない。


囲炉裏へ頬杖をつくたび、

柔らかな胸元がちらりと覗く。


高志は妙に視線に困った。


紫苑はそんな高志を見て、

にやっと笑う。


「今見た?」


「見てねぇ」


「見た顔だったけど」


「うるせぇ」


由美は赤子の雪弥を抱きながら、

不思議そうに高志を見る。


「さっきから誰と話してるの?」


見えていない。


やはり。


高志だけ。


そして。


雪弥だけが、

紫苑を見ていた。


紫苑が気づく。


「あー、やっぱ君も見えてる」


雪弥は黙っていた。


ただ。


紫苑の匂いだけは妙に印象に残った。


甘い花みたいな匂い。


でも。


少し焦げたみたいな、

変な匂いも混ざっている。


落ち着かない。


紫苑は囲炉裏へ頬杖をついた。


「今回は静かだねぇ」


高志の眉が動く。


「……今回?」


紫苑は「あ」と口を開けた。


でも。


すぐ笑う。


「気にしないで」


高志の頭が痛む。


赤い雪。


燃える町。


白い炎。


知らない景色。


最近、

夢に出る。


紫苑はそんな高志を見て、

ほんの少しだけ笑みを消した。


「まだ思い出さない方がいいよ」


その声だけ、

少し静かだった。


高志が睨む。


「何を知ってる」


紫苑は少し黙った。


囲炉裏の火が、

ぱちりと鳴る。


さっきまで軽薄だった空気が、

ほんの少しだけ冷える。


紫苑は雪弥を見た。


じっと。


まるで、

何かを確かめるみたいに。


その紫の瞳だけが、

妙に冷たかった。


そして。


小さく笑う。


「今回こそ、

 壊れないといいね」


高志の背筋へ、

ぞくりと寒気が走る。


「……今回?」


紫苑はすぐ、

いつもの笑顔へ戻った。


「あ、気にしないで」


軽い声。


でも。


今の一瞬だけ。


確かに。


人間じゃない何かが、

そこにいた。


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