第十六話 残り火
朝倉源蔵の葬儀は、
静かに終わった。
白河では、
人が死ぬことに慣れ始めていた。
戦。
辻斬り。
行方不明。
最近は、
誰も長く騒がない。
雪だけが、
静かに降っていた。
朝倉家。
囲炉裏の火は小さい。
家が広く感じる。
咲は黙ったまま、
味噌汁をよそっていた。
昔なら、
もっと喋っていた。
でも今は、
言葉が少ない。
雪弥は向かいに座っている。
無表情。
静か。
でも。
時々、
咲を見ていた。
「……食べないの」
雪弥が言う。
咲は少し遅れて顔を上げた。
「あ、ごめん」
笑う。
いつもの笑顔。
でも。
少し無理しているのが分かった。
雪弥は何も言わない。
味噌汁を飲む。
囲炉裏の火が揺れる。
静かだった。
夜。
雪が降っている。
雪弥は薪を割っていた。
ざんっ。
乾いた音。
昔より身体が大きくなった。
腕も伸びた。
子供っぽさが少し消え始めている。
咲は縁側から、
その姿を見ていた。
源蔵が死んでから。
雪弥は急に変わった。
何も言わない。
でも。
家のことを全部やる。
薪。
水汲み。
山仕事。
咲より先に動く。
まるで。
“自分が守る側だ”
と決めたみたいに。
ざんっ。
また薪が割れる。
咲はぼんやり見つめる。
肩幅。
手。
腕。
前よりずっと、
男っぽくなっていた。
その時。
雪弥が振り向く。
「……なに」
咲が変な声を出す。
「えっ!?
いや別に!」
雪弥は少しだけ首を傾げる。
それから。
また薪へ視線を戻した。
咲は胸を押さえる。
どくどくうるさい。
意味が分からなかった。
ずっと一緒だった。
子供の頃から。
なのに。
急に距離が変わった気がする。
雪弥が薪を置く。
そして縁側へ来た。
咲の隣へ座る。
近い。
咲の肩が跳ねる。
雪弥は気づかない。
雪を見ながら、
ぽつりと言う。
「……静か」
「そうだね」
咲はなるべく普通に返す。
雪弥は少し黙った。
それから。
咲へ顔を向ける。
距離が近い。
咲の呼吸が止まる。
雪弥は無表情のまま、
小さく呟いた。
「……咲の匂い、
落ち着く」
咲の顔が一気に熱くなる。
「は!?」
雪弥は不思議そうだった。
「……変?」
「変とかそういう問題じゃ……」
咲は言葉に詰まる。
雪弥は少し考える。
それから。
「……昔から好き」
悪気ゼロだった。
咲は顔を覆う。
雪弥は首を傾げる。
意味が分かっていない。
外では雪が降っている。
白河は静かだった。
でも。
時代は確実に、
壊れ始めていた。




