第十一話 朝倉家
雪弥が朝倉家に引き取られてから、
三日が過ぎた。
白河には、
まだ雪が残っている。
朝倉家の囲炉裏では、
小さな火が静かに揺れていた。
雪弥は布に包まれ、
咲の膝の上で眠っている。
咲は、
ずっと雪弥を抱いていた。
朝倉源蔵が低く言う。
「咲。
少し休め」
咲は首を振る。
「平気」
「平気な顔じゃねぇ」
「平気だもん」
声は明るかった。
でも。
雪弥を抱く手だけが、
まだ少し震えていた。
源蔵はそれ以上言わなかった。
久世高志と由美は死んだ。
白河では、
人斬りだの獣だの祟りだの、
好き勝手な噂が流れている。
でも咲は見た。
人ではないものを。
笑いながら、
人を壊すものを。
それでも咲は、
雪弥の前では泣かなかった。
雪弥が小さく身じろぎする。
咲は慌てて顔を近づけた。
「雪弥、起きた?」
雪弥はぼんやり目を開ける。
咲の顔を見る。
それから、
小さな手で咲の袖を掴んだ。
咲は笑った。
「うん。
ここにいるよ」
その声は、
いつもの咲に近かった。
無理やり明るくした声。
でも。
雪弥には、
それが温かかった。
咲の匂いがする。
雪と、
香と、
少しだけ涙の匂い。
雪弥は泣かなかった。
咲の腕の中だけは、
少し安心できた。
夜。
白河の町は静かだった。
静かすぎた。
源蔵は戸締まりを確かめ、
刀を手元へ置いた。
「咲。
今日は早く寝ろ」
「うん」
咲は頷く。
でも。
眠る気はなかった。
雪弥を抱いたまま、
囲炉裏の火を見ている。
あの夜の音が、
耳から離れない。
雪を踏む音。
笑い声。
高志の叫び。
由美の声。
咲はぎゅっと目を閉じた。
泣きそうになる。
でも。
雪弥が小さく動いた。
咲はすぐ笑う。
「大丈夫」
誰に言ったのか、
自分でも分からなかった。
「咲がいるからね」
外では雪が降っている。
白河はまだ壊れていない。
でも。
もう昔の白河ではなかった。




