インタールード 暗雲立ち込める模範試合
各学年の決勝戦も終わり、エリカはようやくホッとする。
今回の結果で、スタンフォード家に対して否定的な見方をしていた者もまた立場を変えるだろう。
そもそもスタンフォード家の実力を疑問視する風潮が生まれた遠因は自分にあると自覚しているだけに、自らの手でそれを払拭しなければならないという思いがあった。
その重責から解き放たれたエリカは心の底からくつろいでいた。
だが、そんなエリカに予想だにしていないことが起こる。
「皆の者、ご苦労であった」
トレヴァー・マクファーソン第一王子が前に出て話し始める。臣下の礼を取っているエリカ達は、彼がニヤリと笑みを浮かべたことに気付かない。
「さて、そなたらも知っての通り、冒険者ギルドで痛ましい出来事が起きた。だが、王国の勇士達によってその危機は去った。
その中でも、災厄をもたらした者を見事に討ち果たした者がいる。ここで、そなたらに紹介しよう」
トレヴァーの言葉と共に、一人の女性が姿を見せる。
エリカは紹介の最後の言葉からおおよその察しをつけていたが、それでも本人を目にすると様々な思いが内側から溢れ出してくる。
エリカはトレヴァーの隣にいるキャサリンが、まるで別人かのように思えてならなかった。
彼女の両目は暗く落ちくぼんでいる。だが、その全身からは殺気とは異なる、それでいて近寄りがたい剣呑な雰囲気が漂っている
彼女が着ている鎧は一応磨かれているが、返り血によって変色した箇所がそこかしこに目につく。それだけでなく、様々な種類の傷も目立つ。決してこうしたハレの舞台で着てくるべきものではないのは明らかだった。
さりげなく周りを見回すが、彼女の正体を知っていそうな者はいなさそうだ。だが、近衛兵達の顔色は心なしか青いように見える。
国王やエミリーといった王族は見たところ驚いていない様子なので、少なくともトレヴァーの独断ではないだろうとエリカは見当をつける。
「キャサリン・ブラッドリー。冒険者ギルド所属の冒険者だ」
キャサリンは表情を一切変えず、軽く頭を下げるのみだった。
「本来であれば、御前試合は学年毎の決勝戦をもって閉会とするのだが、昨今の王国を取り巻く情勢を鑑みて、今回は模範試合を執り行うこととした。
明日よりブラッドリーが各学年の代表選手と試合をする。それぞれの武を更に高めよ」
だが、トレヴァーの言葉は意外な方向へと進んでいく。
翌日、キャサリンは各学年の代表を情け容赦なく散々に打ちのめした。
模範試合とは名ばかりの実戦に近い形式で、まだまだ成長途上にある学生達を絶望の底に叩き落していく。その様子を見ていた他の出場者達は、自分が代表になれなかったことを初めて喜ぶほどだった。
それ程までに一方的な状況に、王国の将来を見据えた模範試合を計画した張本人であるトレヴァーでさえ思わず顔をしかめる。
「ブラッドリー。これは如何なることか?」
三年生の代表との戦いを終えたキャサリンに、トレヴァーが不満げに声を掛ける。
「殿下。戦場とはこういうものなのです」
だが、キャサリンはそれだけ答えると、後は一切口を開かなかった。
そんな彼女にトレヴァーは苛立ちを隠さなかったが、それ以上は何も言わずに観覧席へと戻るだけだった。
いよいよエリカの番が回ってくる。
幸か不幸か、キャサリンとの戦いの順番が最後だったエリカは、自身のくじ運をどう捉えたら良いのか分からない。
だが、試合の度に運び出されていく代表者達を見送る中で、自分が何とかせねばならないとも思う。
このままでは、キャサリンは再び王国に罰せられてしまう可能性があった。だが、そのことを彼女自身が望んでいるかのように思えてならない。
エリカは、別人のように変わってしまったキャサリンの瞳の奥に悲しさと後悔が入り交じっていることに気が付いている。
それは恐らく、冒険者ギルドの一件で背負った彼女の十字架。
同じ転生者でありながら自分の人生とは真逆の状況に置かれつつ、それでも掴み取った新たな人生。
それすらも無残に変えられたのだろう。だからなのか、彼女はどこか自分の命を無駄に散らそうとしている。
似た思いを抱え、苦しみ、乗り越えられた者として、彼女を取り戻す。
それこそがエリカの想いだった。




