インタールード 冒険者ギルドでの一幕
少し短いですが、ある視点での裏側を。
「これはどういうことですか!?」
キャサリンは怒りもあらわにローレンスへ詰め寄るが、それとなく間に立ったゾーイがやんわりとたしなめる。
「あなただって同じことをしたはずよ」
それを言われると言い返せないが、それでも納得しきれないものがある。せめてもの抵抗で、キャサリンはローレンスとゾーイをにらみつけた。
その少し奥では女性が肩を震わせて縮こまっていた。その周りを特殊戦術部隊が包囲している。
「さて。誤解させたくないのだけれど、これはあくまで必要な措置なの。私達だけでなくあなた自身も保護する為にね。理解してもらえる?」
アシュリー・レーガン特別捜査官が普通に話し掛けるが、それも予め女性が受けてきた仕打ちを耳にしていたからだ。もしローレンスから説明を受けていなかったら、新種の魔物と誤解して攻撃に移っていただろう。それ程までに彼女の容姿は想像の範疇を超えていた。
女性はまだ震えていたが、アシュリーの誠実さとキャサリンの力強い眼差しに勇気付けられて、ようやく頷くことができた。
「では、今からあなたを安全な場所へと護送するわ。良いわね?」
「ググガ……ハ…………イ……」
女性は何とか答えると、ゆっくりと立ち上がる。
「あなたの名前を教えてくれる?」
「ギギギ……ワタ…シ……ハ……ガガ…………メ…アリー…………」
「メアリーね。私はアシュリー」
アシュリーは優しく接すると、特殊戦術部隊と共にメアリーを王都まで護送する。
転移魔法陣の向こうへと消えていくメアリー達の後を追いかけようとするキャサリンだったが、残っている特殊戦術部隊員達に制止を受けた。
「ちょっと、そこをどいてよ」
「それはできない。あなたが服従の呪文をかけられていないという保証が得られるまでは」
ゾーイが冷たく言い放つ。その時には、キャサリンは隊員達の手によって魔法のロープで拘束されている。
「……そんなに信用がないの?ゾーイ」
ほんの一瞬、ゾーイは辛そうな表情を浮かべる。だが、すぐに冷徹な表情に戻るとキャサリンを見据えた。
「状況を鑑みると、信用したくても信用できないでしょう。私情は挟めないの」
「……」
苦々し気にゾーイをにらみつけるが、キャサリンはそれ以上何も言わなかった。
「彼女をお願い」
「かしこまりました」
隊員達に囲まれながらキャサリンも王都まで護送されていく。
「……対応に感謝します。スペンサー本部長」
「いえ、職務を果たしただけですから」
ローレンスは一歩前に出ると、自分を護衛する冒険者達やギルドマスターに警戒を解除するよう伝える。
彼らが速やかに部屋を退出すると、部屋の中にはローレンスとゾーイだけが残った。
「……殿下。如何思われますか?」
「恐らくメアリーは真実を述べていると。ただ、少し偶然ができすぎているような気もしますね」
「やはり服従の呪文の影響下に?」
「いや、キャサリンは問題ないでしょう。これが帝国側の罠だとするなら、私達がこのように対処するのは容易に想像がつくでしょうし」
「ではメアリーが?」
「私が帝国側の人間ならそうするでしょう。本人も気付かない内に計画を進められますから」
「……どういう計画かはこれからじっくりと突き詰めることにしましょう」
ゾーイはゆっくりと息を吐くと、肩のコリをほぐすように腕をぐるぐると回す。
「……はあ」
「緊張がほぐれたかい?」
「……ええ、まあ」
ローレンスも腕を伸ばしてコリをほぐす。キャサリンへの密命だけでも心労が祟ったのに、思いがけない成果まで得られたことでかえってドッと疲れが溢れ出てくる。
「とりあえずお茶を用意します。今更ですがそこに掛けてください」
「いえ、殿下。お気持ちは有難いのですが、二人の尋問を見届けねば」
「それもそうですね。進捗があればその時は教えてください」
「はい、殿下」
王都へ戻ろうとするゾーイだったが、ふとローレンスが呼び止める。その手には赤い糸できつく縛られた例の羊皮紙が握られていた。
「ああ、忘れていました。これをお返しします。もう必要ないでしょうし」
だがゾーイは受け取らず、ボソッとつぶやくように言う。
「いえ、メアリーの証言内容の裏付けが取れるまでは殿下の手に収めておいてください。そうするしかないのです」
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先程まで続いていたギルド封鎖態勢はローレンス自らの手によって解除され、多くの困惑を残しながらも冒険者ギルドは通常運転を取り戻しつつある。
表向きは訓練の一環とされているが、ローレンスを守るように取り囲んだ冒険者達の動きや職員達の慌ただしさを見るに、何かがあったのは誰の目にも明らかだった。
だが、魔物領という予測できない危険に日々さらされている冒険者ギルドでは何事にも不用意に近付かず、好奇心を強めないことが不文律とされている。
そういった場所に好んでやって来る者は、大体が切り捨てたい過去や後ろ暗い秘密を抱えているので、自ら何かに首を突っ込みたがるような者はいなかった。
だが、ジェイ達のようにローレンスを古くから知っている者は、どうしても関心を寄せてしまう。
リズは付き合いが長いパーティーリーダーに話し掛ける。
「なあ、ジェイ」
「んあ?」
「アンタはどう思うんだね?」
「さあてね。何事もなく終わったんならそれで良いんじゃねえか?」
つまらなさそうに答えるジェイにリズは顔をしかめる。
「はっ。面白くない男だね。アンタのそのブサイクな顔にでかでかと気になるって書いてあるって言うのに」
「興味がないと言えば嘘になる。でもよ、こういうことには触れない方が良いんだ」
そう言うとジェイは、話は終わったと言わんばかりに依頼ボードの方へと向かう。
その後ろ姿にふくれっ面を向けるリズの頬を、カーラは人差し指でむにゅっと押し込む。
「ってえ。おい、てめえ。どういう了見だ?」
「まあまあ、落ち着いて。アイツも色々とあったんだから」
「え?そうなのかい?」
カーラの陰のある笑みを見てリズは表情を改める。パーティーメンバーのことには余り踏み込まないようにしているだけに、その思わぬ言葉にリズは動揺を隠せなかった。
「まあ、適当に言っただけどね」
「……ちょっとツラ貸しな。シメテやるから」
「もう、ちょっとした冗談じゃないの。そう怒らないで」
いつものようにじゃれ合う二人を尻目に、ザッカリーは思案気な表情を浮かべる。それに気付いたカーラが視線を向ける。
「どうしたの?」
「いや、カーラの言うことも一理あるかもなってさ」
「へ?」
驚いた表情を仲良く向ける二人を微笑ましく思いながらも、ザッカリーは肩をすくめるだけだった。
「待たせたな」
ジェイが戻ってくる。
「今回はちょいと長丁場になりそうな依頼だ」
「え?どんな内容なの?」
「未確認の魔物が出たらしい。そいつの調査だな」
「未確認?どんな奴なんだい?」
「蛇だ。デビルスネークよりも大きく、素早いらしい」
「見間違いなんじゃねえか?デビルスネークも結構な大きさだ。それ以上になると逆に生きていけなくなるって話だったはずだが?」
「俺もそう思う。だが、魔物領だからな。何が起きてもおかしくないだろう?」
「それで?調査って言うけれど結局は討伐になるんでしょう?」
「勿論だ、カーラ。と言っても偵察が中心だからな。実在したとして、向こうさんから手出しして来ない限りはそっとしておく方針とのことだ」
それを聞いたカーラは目をくるりと回す。そんな依頼が出されたことは今までになかったし、そんな依頼をジェイが受けたこともなかった。
「ふーん。まあ、分かったよ。明日から?」
「いや、準備に時間をかけたいからな。早くて明後日だ。それまでは皆、ゆっくり静養に努めてくれ」
その言葉に三人は視線を交わし合う。ジェイの言葉の裏に隠された意味に気付いたからだった。




