終幕 天地創造のアポカタスタシス -AmorFati- ②
その日、お父さんは仕事で出張していた。
家にはわたしとお兄ちゃんの二人きりになった。
夜になっても、わたしは上手く寝付けなかった。何か、変な胸騒ぎがしていた。
わたしはパジャマ姿のまま、お兄ちゃんの部屋をノックすることになった。
お兄ちゃんは一瞬だけ驚いたような顔をしたけれど、わたしを部屋に入れてくれた。
勉強机の上には、春から通う高校の課題が開かれていた。邪魔しちゃったのかな。
けれどお兄ちゃんはそんな様子はおくびにも出そうとはしなかった。
「眠れないのかい、カナ?」
「うん。なんでだろうね。ただ眠るだけなのに」
「これだけのことを前にして、寝付きが良くなるわけがないさ」
お兄ちゃんの言葉を聞いて、そこでわたしはようやく思い出した。そっか、地球再建事業って今夜だったんだ。すっかり忘れてた。
わたしが生まれる前から少しずつ準備が進められてきたという再建事業。ニュースや新聞で色々言っているのは見てきたけれど、わたしは最後の最後までこの事業に現実感を抱くことができなかった。たぶん、みんな同じ気分だと思う。事業の準備はほとんど機械が進めていたし、わたしたちといえば、事業に必要だというナノマシンを身体に注射した以外にはまったく接点の無いことだった。
そのうえ、九十億年にもわたる大事業は眠っている一夜のうちに終わるという。おおよそ、実際問題として捉えるには曖昧すぎる話だった。国の偉い人たちも、そんな事業のことよりも経済や戦争の話しかしない。地球の再建事業だなんて、真夜中に行われる道路整備と大差のない感覚だった。
ただ、ちょっとだけ不安になったのも本音だった。なにせ九十億年だもの。
だから、「本当に地球は寿命を迎えるの? 世界は終わるの?」と訊いてみた。
するとお兄ちゃんは、地球再建事業について懇切丁寧と説明してくれた。
今年の春から高校一年生になるお兄ちゃんは、本当に物知りだ。
本当ならわたしだっていっぱい勉強を頑張らなければいけないのだけれど、テレビとか漫画とか、そういう楽しいことをやめることができない。わたしには努力する才能がないのだと思う。まあだからといって『じゃあ他に秀でたものがあるのか』って問われたら、それはそれで答えられないけれど……。
お兄ちゃんはあの手この手の知識を持ち出して、わたしを寝かしつけてくれた。
しまいには、一緒のベッドで寝かせてもらうことになった。
「安心しておやすみなさい、カナ」
「うん、おやすみ。お兄ちゃん」
わたしは、静かに目を閉じた。
お兄ちゃんの体温や息遣いを、布団越しに感じながら。
※Intermission




