第四話 最善の世界 -Only_Sensitive_Existence- ⑪
佳奈多はソラをコクピット内に引き寄せると、すぐにハッチを閉じた。ソラをメインシート脇の補助席に座らせて操縦に戻ると、ホログラムモニターに指を走らせてハッチを閉じた。すぐにコクピットの立体モニターが復帰し、コンピューターグラフィックスによって補正された周囲の状況を映し出した。
佳奈多がアームレイカーを握り締めると、コクピット内にシステムの合成音声が鳴り響く。
(フィジカルコクピット内に新たな単子を検出しました。.mndファイルの作成を開始します)
(天海ソラリア.mndの保存完了)
(人体保護用ジェルカプセルの注入開始)
(加重・損傷からの人体保護のため、バーチャルコクピットへ移動します)
二人の座るコクピット内に、ジェル状の液体が注入されていく。五秒とたたずにコクピット内が液体で充たされると、今度は彼女たちの周囲で激しいブロックノイズが一瞬だけ奔った。意識と肉体のリンクが断たれ、意識が躯体上の人工単子データに切り替わったのだ。
有人式憑依媒体であるデシーバーが、躯体制御時の激しい加重から生身のパイロットを守るためのシステム。搭乗者の身体は機能を停止し、安全なジェルカプセルに保護される。電子化されたパイロットたちはバーチャルコクピットに移され、肉体や時間といった制約の無い状態から躯体を駆ることになる。
(バーチャルコクピットの構築完了。操縦者保護安全装置ロック、躯体管制をオープンにします)
(ようこそ、デシーバー=ブリハスパティへ)
電子情報と化した自らの身体を、ソラは興味深げに眺めた。
すると彼女は、シートの肩に停まる一羽の白い鳩と目が合った。
「キミは……」と思わず声を洩らす。
「えへへ、連れてきちゃった。やっぱり三人で揃ってないと、さびしくて」
操縦桿を握りしめた佳奈多が、まっすぐ前を向きながらはにかんだ。




