幕間ⅱ 相互不干渉のダーザイン ②
その空域では、百機以上にも及ぶトーテムたちが飛び交っていた。
戦況は、一言で言っても阿鼻叫喚だった。
三次元的に空を移動する小さな影たちに、次々と急所を貫かれては墜落していく。
ほとんど瞬間移動のように空を駆ける敵たちの姿を、カナタはすぐには把握できなかった。
「! 接近警報!」
ぼうっとしていたカナタは表情を変えると、武器である実体剣を引き抜いた。
危ないところで、敵の斬撃を防ぐことに成功する。
ぎりぎりと鍔を競り合うことで、ようやくカナタは自分と切り結ぶ相手の姿を認識した。
そして武器を振り下ろす敵の姿は――自分と大差のない同い年くらいの美少女だった。
「ヒト……!」
驚愕したカナタは、外部スピーカーに切り替えるとエスペラント語で叫んだ。
『あなたが、ホモ=ヌーメノン?』
「だとしたら、なんだ!」という声が返ってくる。
『わたしの知ったことじゃありません! Noeランタイム適用! 人工単子顕現!』
内骨格に自分の身体の表象を浮かび上がらせたカナタは、左脚で少女を蹴り上げた。
少女はぬるりとそれを避けると、カナタの背後にまわった。
『――ッ!』
カナタは反射的にスラスターを吹かして少女から距離をとった。間一髪で刺突を免れる。
カナタは武器を構え直しながら、少女へと再接近していった。
わたしは、こんなわけのわからないことにこれ以上付き合うつもりは無い!
こんな世界、さっさとおさらばして、元通りの明日に帰るんだ!
決して交わることのない二人の宇宙が、剣を切り結ぶ。
すると二人の上空が、真っ白に染まり上がる。
トーテムかヌーメノンかは分からないが、誰かが戦略兵器を投入し始めたのだ。
少女はカナタと格闘しながら、非難するように声を張り上げた。
「あんたたちは、あんなものまで使うのか!」
『こんなの知りません! 彼らが勝手に――ッ!』
そこまで言ったところで、バーチャルコクピット内に新しい警告が表示される。
『偏重力警報! 重力鋲が崩されたのッ?』
すぐに二人は、見えない力によって大きく姿勢を崩した。
「なんだよっ、これ……ッ!」
『あなたたちの無思慮のせいでッ!』
同時にたけりながら、懐に入りあった二人が最後の攻撃に出る。
結果は相討ちだった。
カナタは少女の身体を組み伏せ、少女はカナタの推進器を破壊していた。
それと同じ瞬間、二人のいる空域を支えていた重力鋲が完全に破損した。
異常な強重力が発生し、周辺の構造物やヌーメノン、トーテムたちを潰し崩していく。
『この大バカ! もういいからしっかり掴まってなさい!』
「バカはそっちだ! トーテムのあんたが、新人類を助けようだなんて――」
『うるさい! 大人しくしてて! 別にわたしは、殺し合うつもりなんてないんです!』
二人は組み合ったまま、外殻と地上とを結ぶ宇宙塔の外壁へと急降下していった。
鼓膜を破るようなけたたましい衝突音ののち、世界は再び静寂に還った。




