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九十億年のカナタ/新世界系少女ふたり旅  作者: 朝野神棲
第三話 現世人類のアタラクシア
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幕間ⅱ 相互不干渉のダーザイン ①

『お目覚めでしょうか、雲野佳奈多さん』

「ここ、は?」

『ここはPHB‐NAS上に再現された、トーテムのバーチャルコクピットです』

「コクピット……トーテム……」

『いまご覧になって頂いているのは、バルドの遷移をまとめたタイムラプスになります』

「バルド……お兄ちゃんが言ってた、地球再建事業……?」

『はい。現在は西暦換算で三一二九四八二〇二八年にあたります』

「わたしはこれから、どうなるんですか?」

『長くなります。これよりトーテムからのログオフ作業に移りますので――』


 今から五万年後に地球は消滅する――。そんな事実を前にした人類は、高度な宇宙開発技術を有しながらも、ついには地球を諦めることができなかった。持てる技術の全てを尽くして地球をデータ保存し、太陽の膨張・収縮後に第二の地球を創り上げることを決意。全人類がデータ冬眠し、九十億年を隔てた明日への旅路が始まった。

 雲野カナタは、地球再建事業開始から三十億年後に目覚めた。既に地球は消滅しており、重力鋲と呼ばれる機関を宇宙空間に無数に打ち込むことで、原初的な大地と大気を築いていた。空は外殻と呼ばれる球体によって包み込まれており、外殻と地上とを結ぶ無数の宇宙塔と空中都市が張り巡らされていた。

 惑星型人工知能〈アリストートル〉と、その手足となる自律端末〈レシーバー〉によって全自動で推し進められる再建事業。それらを監視・修正するために、ときおり人間がロボット〈トーテム〉を使って再建途上の地球〈バルド〉を見聞する。そんな役職に選ばれたカナタが召喚されたのは、地球外殻に広がる内壁都市だった。そこでは広大なホログラムによる人工単子の半実体化環境が構築されており、自由に行動できた。

 外殻に包まれた再建中の地球を見上げながら、まるで幽霊の国のようにすべてが半透明なホログラムの都市で、カナタは他の幽霊たちとともに、地球再建事業に協力するための実習教導に励むことになった。バルドの歴史と今後の事業計画についての座学から、トーテムへの憑依・操縦方法などを学ぶ。

 なかでもカナタにとって興味深かったのは、霊素を用いた科学分野への言及の多さだった。それらはカナタたちが暮らしていた時代の霊子技術を、遥かに凌駕していた。霊子や単子の翻訳だなんて、こんなのまるでファンタジーの魔法みたいだ。しかもバルドには、機械無しでこれらを制御するイキモノが棲んでいるらしい……。

 バルドにヒトが棲んでいることをカナタが知ったのは、皮肉にも実習を終え、ようやく勤務先が決まった矢先でのことだった。カナタは実習での成績を認められ、地球再建事業の中枢へ引き抜かれることが決まっていた。カナタは事業にあまり興味がなく、楽な仕事を早いうちに終わらせて、さっさとデータ冬眠に戻ることを望んでいたので、この決定を快く受け入れた。

 しかしそんな目論見が儚くも崩れ去る転機がすぐに訪れた。地球再建事業の本部がある拠点への移動中、ホログラムで出来た外殻上の都市の一つが、霊素翻訳による攻撃を受けたのだ。ちょうどカナタたちのいる場所でのことだった。圧倒的な翻訳によって世界が侵食され、上書きされようとしていた。

 このままでは地球外殻の一部――ひいてはそこに安置されたPHB−NASすらもがごっそりと消されかねない。そう考えたアリストートルによって、攻撃を受けている都市にいる人工単子たちに、トーテムによる出撃命令が下った。実質上の退避命令でもあった。

 悪態をつきながらもトーテムに搭乗するための施設へと急ぐと、すぐに或る噂がカナタの耳にも届いた。曰く、ホモ=ヌーメノンたちが攻撃を仕掛けてきた、とうとう現生人類と幽体人類との間で戦争が始まったのだ、そういう内容だった。それまで何も知らなかった一卒のカナタは、噂について話す一人の男性職員を捕まえると啖呵を切った。

「戦争って――戦争ってなんですか! 人類は皆人工単子に変換されて、データ冬眠したはずじゃなかったんですか!」

「見に行けばわかる。それ以上は、僕にも言いようがないよ」

「馬鹿! これだから男のヒトって!」

 カナタは吐き捨てると、躯体の待つカタパルトデッキへと急いだ。

 ただのデータ情報でしかない幽体人類たちが再建中の地球に直接干渉するための機械仕掛けの器。デッキに着いたカナタは幽霊のための憑依媒体〈トーテム〉に乗り込むと、メカニックから最後の確認を受けた。

「フライトユニットは分かるね、タキオン減速炉を燈したのちに前進翼を展開するんだ」

「シミュレーションはやりました。いざとなれば人工単子を顕現させます」

「言うだけならタダだが、あまりそういうことは考えないでおいてほしいな」

「出します。機から離れてください」

 カナタは短く会話を切ると、躯体内のバーチャルコクピットに移動した。全天周の立体モニターとリニアシート、そして操作用のアームレイカーやフットペダル、計器を兼ねた複数枚のホログラムウィンドウなどに包まれる。それらを入念に確認しながら、カナタは躯体の立ち上げを進めた。

 今いるデッキや躯体たちは、コンピュータ上に再現されたバーチャルでしかない。デッキから出た瞬間にアリストートルからログオフして、本物の世界と躯体に切り替わるのだ。バーチャルコクピットに一度だけノイズが走り、カナタは自分のデータの実行元の場所がアリストートルのサーバーからトーテム内のオフラインストレージに切り替わったことを知った。

 まもなくバーチャルコクピットに映る景色が切り替わる。カナタの憑依するトーテムは、一瞬にして外殻と地上とを結ぶ宇宙塔の一つに移動していた。瞬間移動のようにも見えるが、正確にはそこに用意されていた躯体に接続しただけのことだった。

 カナタは視界に映った壮大な虚空を見下ろして、思わず息を呑んだ。

「これが……新しい地球……?」

 柄にもなく、美しいと思った。

 外殻と地上の間に横たわる、どこまでも青い空の世界。

 そしてそんな世界を貫く無数の柱たちと、空中都市。

 雲に霞み、大気に揺らぐ、巨大な空間。

 これが再建中の地球、バルド――。

 バーチャルコクピットに座ったソラに、管制官からの通信が入る。

『ログオン完了、座標移転確認、人工単子の移植良好。雲野佳奈多さん、発進申告どうぞ』

「はい! トーテム=マヌ、雲野カナタ=アダプト、出撃します!」

 カナタはフットペダルを目一杯に踏み込むと、爆発的な推力でトーテムを離陸させた。

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