第三話 現世人類のアタラクシア ③
連絡橋はようやく終わりに差し掛かっていた。
外殻と地上とを結ぶ九本の巨大な塔を目前にした二人は、思わず絶句した。
もちろん、重力鋲を用いた宇宙塔や空中都市に関しては、二人も嫌というほど見知っている。驚いたのは、その規模と発展具合だった。不均等にそびえる九つの柱と、それらの間に蜘蛛の巣のように張り巡らされている連絡橋。そしてタキオン減速炉による浮遊岩礁たちは、大陸と見紛うほどの広大すぎる面積を誇っている。
八枚以上にものぼる広大な陸地が空に折り重なって浮かぶさまは、ムセイオンのそれとは比べ物にならない壮麗さだった。草原や林といった自然に充ちており、河川に至ってはコロニーからコロニーに向けて流れ落ちている有り様。海にしか見えない場所もある。
都市も複数にわたって非常に発展しているが、おしなべて煉瓦や大理石といった古風な造りをしていた。建築技術に真っ向から対抗するような無茶苦茶な積み方で、宇宙塔の外壁までもが煉瓦で覆われ、独特の巨大建築群を築き上げている。カナタがトーテムのカメラを霊学望遠に切り替えると、多くの建材に重力鋲と同じ効果が焼き込まれていることに気づいた。
カナタは、西暦の画家が描いた有名な神話の絵画を想起した。
「わあ……広い……」
『すごい……これがすべてホモ=ヌーメノンたちの国……?』
歩みを止めて息を呑む二人の足下から、そよ風が吹きあげていく。
カナタに抱きかかえられたままのソラは、空色の澄んだ瞳を見開いていた。
そんな二人の間に割って入るように、『その通りです』と新しい人物の声が届く。
『そして、バルドにおける地球再建事業〈アリストートル〉の拠点の一つでもあります』
横合いから投ぜられたカナタのものではないスピーカー越しの声に、二人は顔を上げた。
「あなたは――」とソラ。
二人の視線の先に立っていたのは、一機の機械人形だった。
通常のレシーバーと区別するために、外装は着物模様になっている。
つまりカナタと同じ、データ冬眠中の人工単子が憑依した幽霊――トーテム。
深紅の艶やかな着物模様に身を包んだトーテムは、柔らかな女性の声で言った。
『よくぞここまで辿り着いてくださいました、雲野佳奈多さま、天海ソラさま』
そうして腰を折ると、右腕を開いて眼下の都市を指し示した。
『――ようこそ、上霊帝国連邦第三上層都市〈ブリューゲルのバベル〉へ』
それだ、とカナタは合点した。
ここは、ブリューゲルの描いたバベルの油絵にそっくりだ。




