第二話 予定調和のアーキタイプス ⑲
しばらくして、ソラは遮光ゴーグルを外して首にかけた。
遥か遠くの空域にかかる爆煙と靄が晴れると、そこには何も残っていなかった。
二人が一日と少しを過ごした空中都市は、跡形もなく崩落していた。
『全員が全員、責任をとった結果がこれって……』と項垂れるカナタに、彼女は言った。
「さしずめ、予定調和の範型と言ったところだろうか。歴史は繰り返せば繰り返すほど、同じ結論が強調されるだけなのかもしれないね。人間の努力や意識、環境のちょっとした差異だなんて、しょせん誤差の範疇みたいなものさ。永劫回帰の潮流から抜け出す方法なんて、探すだけ無為なのかもしれない」
カナタは黙り込んでしまった。
しばらく煩悶としたのち、静かに腰を上げて言った。
『行きましょうか。アリストートルの圏内で、しかもオンラインのレシーバーたちが飛んでこれたということは、プルトンさんの言うとおり、この先に本物のホモ=ヌーメノンたちが住んでいるということです。地球再建事業やわたしたちトーテムに対しても理解を示してくれるようなヒトたちの棲み処が、ね』
二人は、二日を過ごした空中都市に背を向けた。ゆっくりと連絡橋を歩き始める。
地上と外殻を繋ぐ空の柱の狭間に、静かな虚空の世界が広がる。
するとどこからか白い鳩が飛んできて、ソラの右腕に停まった。
いつかの、二人と旅を共にしていた白い鳩だった。
ソラは一瞬驚きで眼を見開いたが、たちまち嬉しそうに目を細めて鳩に話しかけた。
「おや、また会ったね。キミも露頭に迷ってしまったのかい?」
『友達が増えるのは、良いことですね』
「そうだね。理屈なく寄り添える相手っていうのは、やっぱり気分が良いよ。ねえ?」
ソラが柔らかく微笑みかけると、鳩はくるっぽーと一鳴きした。
ソラとカナタは「『鳴いた……」』と顔を見合わせて、同時に噴き出した。
『あはは。結局、名前は決まったんですか?』
「決まったけど、やっぱりつけないままでいよう」
『そうですね。そのほうが素敵だと思います』
ソラは肩に鳩を乗せると腰を上げ、目的地へと向けて歩き始めた。
カナタもそれに続いたが、最後にもう一度だけ足を止め、後方を振り返った。
『音、全然届きませんでしたね……』
「おや、気づいてなかったのかい? カナタ」
ソラは振り返りもせず、肩を竦めてカナタに教えてやった。
「この空域は、完全に真空だよ」




