第二話 予定調和のアーキタイプス ⑨
饐えた臭いが立ち込めている。天海は顔をしかめて鼻を抑えた。
巨大彫刻の内部は大きな空洞になっていた。照明は少なく、非常に暗い。人は居ない。
工場のような生産ラインと、その脇を流れる紅い流体。
それらを見下ろす見学用の一本通路で、天海は大きな声でリュシストラテに問うた。
「あれはなんですか?」
彼女の指差す先には、どろどろとした赤黒い液体が流れている。
リュシストラテが事務的な口調で答える。
『工程中に生じた原形質培養液の余剰物です。工業廃棄物として処理されます』
「食べるんですか?」
『ムセイオンにおける貴重な栄養分であることは否定しません』
それを聞いた天海は唇を噛み、そっと目を伏せた。
正規の生産ラインに並んだ存在を、これ以上見ないように。
ベルトコンベアには、血まみれの生きた仔牛たちがパッケージングされて載っていたのだ。
そのどれもが、版で押されたように同じ姿をしている。
ラインの先で何かの箱に吸い込まれていき、出てきたときには綺麗に洗浄されていた。
皆一様に、生きているのに、死んでいるように見動き一つしなかった。
カナタたちは、工場の最深部に辿り着いた。
『有機プリンター……』とカナタが、そこにあった巨大機構を見上げて呟いた。
天海も重々しい面持ちでそれに同意した。
「……話には聞いたことがある。地球再建事業を発動した頃の人類には、細胞を積層して肉体を印刷する技術、そして出来上がった肉体に思惟をインストールする技術があったって。霊子による思考魔法科学が発達するまでの間、人々は人間の本質がマインドではなく物質にあると考えていて、心身の異常を機械的な手法で解決していたとか……カナタ?」
自らの発言を途中で切り上げて、天海は心配そうにカナタの顔を窺った。薄い翠巒色のフェイスカバーに覆われたロボットの頭部は、何も語らない。カナタは、鉄とアンモニアの混じったような悪臭を発する有機プリンターを睨みつけたまま、じっとしていた。
それから、苦々しげに声を絞り出す。
『……これは、いよいよかもしれませんね』




