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九十億年のカナタ/新世界系少女ふたり旅  作者: 朝野神棲
第二話 予定調和のアーキタイプス
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第二話 予定調和のアーキタイプス ②

 二人と一羽が通されたのは、外壁裏に設けられた応接広場だった。地面には美しい白タイルが敷き詰められており、ベンチや噴水なども設けられている。陽当たりがよく、頭上に広がる青空には、遠くに見えるビル群がよく映えた。四方は壁に囲まれ、まだコロニー内に入れたわけではないことが窺える。オシラサマを相手に無礼がないようにしつつ、かつ完全に警戒を解こうとはしない、そんな相手方の配慮が見え隠れするようだった。

 彼女たちを出迎えたフェリブリージュ人たちは、官邸や各関係機関に連絡を入れるためにと奔走を始めた。曰く、オシラサマが入場した、入植以来初めてことだ、地球外殻からの貴賓としてもてなさければならない、などなど。そんな彼らの姿を見遣りつつ、このコロニーの指導者が到着するのを待つあいだ、天海が言った。

「カナタっていう名前だったんだ、オシラサマ」

『そうですよー、あなたと同い年です』

 先ほど雲野カナタと名乗ったオシラサマは、えっへんと胸を張った。

 そんなロボットを見上げながら、天海は無邪気に続けた。

「とはいえ流石だね。いかにも神様ーって感じの威厳たっぷりだったよ、さっきの」

『ならいいんだけど……』

「? なにか嫌な思い出でもあるのかい?」

『最初に受けた実習教導のカリキュラムに、いかに神様らしく振る舞うかという項目があった』

「へえ、成績は?」

『わたしは、落第点をくらった――ちょっと笑わないで下さいよ、もう』

「そういうの苦手そうだもんね、カナタ(丶丶丶)。すぐに感情が表に出るんだもの」

『ええっ? 能面のロボットなのに? こんな顔してるのに?』

 オシラサマ改めカナタは、意外そうな声で訊き返した。

 ロボットだから無表情ではあるが、仕草と口調は確かに可愛らしかった。

 天海はしたり顔をして、そのことをカナタに指摘する。

「ほら、わかりやすい反応」

 カナタは『むー』とむくれたように言ってみせたが、気を取り直して話題を戻した。

『何はともあれ、幸いにも或る教官がわたしの発想性を評価してくれたおかげで、わたしは総合企画部に引き抜かれることが決まりました。胡乱な話ではありますが、アリストートルが自動で進める地球再建事業を人間の判断で管理・修正する、いわば司令部のようなものです』

 それを聞いた天海は、感心したように目を見開いた。

「大抜擢じゃないか。つまり事実上のエリートコースってことだろう」

『まあそうなんですけど、わたしの場合、他の実技成績が壊滅的な数字でしたから……』

「でも、戦争のときのカナタを思い出すと、戦闘技量も充分に高い気がしたんだけど……」

 カナタは答えようか否かしばし逡巡してから、口を開いた。

『戦闘評価は……教官によって評価がまちまちでした。最低評価をつける人もいました』

『皆殺しにしてしまうから』

「ん?」

『皆殺しにしてしまうから。わたしが、みんなを』

 思わず二度訊きしてしまった天海に対して、カナタは丁寧に説明する。

『戦場でハイになってしまう人間は多いですけど、わたしの場合、前後不覚に陥ったすえに敵味方の区別なく次々と撃墜していってしまうそうで、最終的には戦略上の価値無し、武器を持つ責任能力無しと判断されたんです。非常にフクザツな気分でしたけど、今となってはあなたたち現生人類を殺すような立場にならなくてよかったと、心の底から思っています』

「うーん……まあ、そのとおりではあるね。――ね、カナタ。約束、覚えてるかい?」

『ちゃんと覚えてますよ。わたしは、あなたをあなたの故郷まで連れて行く』

「うん。だから僕は、君が君のお兄さんを捜す手掛かりくらいは――おや」

 発言の途中で、天海が驚いたような声を洩らす。

 カナタの肩に停まっていた白い鳩が、突然飛んでいってしまったのだ。

 乾いたばかりの羽を大きく羽ばたかせて、上空に浮かぶ別のコロニーへと飛び去っていく。

 旅を共にした仲間としては、あまりにも唐突な別れだった。

 呆気にとられたように見送るしかできなかった二人だったが、しばらくして事態を受け止めることができたのか、天海が感傷深げに口を開いた。

「……ここの住人だったのかな」

 伸ばしっぱなしの前髪と長い睫毛の奥で、澄んだような空色をした切れ長の瞳が、少なからぬ憂いと哀切を帯びた。その瞳の揺らぎと唇の動きには、無駄なくらいの色気があった。少女的な落胆の裏に、年老いた老婆のような諦念がけぶっていた。

 カナタも鳩の消えていった空を見上げながら、寂しそうな声音で同意した。

『そうかもしれませんね。彼もまた迷子だったのでしょう』

「ちょっと寂しくなるね」

『そうですね。でもそれが彼のしあわせなら、わたしたちに止める権利は無い』

「冷たいね、カナタ」

『そうかもしれません。――使節が来たようです、行きましょうか』

 カナタと天海は腰を上げた。

 二人の元へ、七人の男と一機のレシーバーが向かってくる。

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