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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔大戦編
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EP499 ひと時の勝利


 砦の屋上を守護する部隊の内、第十五小隊から第十九小隊は油苔リョゴスを受け取って準備していた。油苔リョゴスとは油を大量に含む苔の生物兵器バイオ・ウェポンだ。

 細長い黄色透明な容器に保存された胞子と、同じく内部に保存された薬品が合わさることで、油苔リョゴスは急激に増殖する。時限式で二つの仕切りが取り除かれる仕組みとなっており、増殖した油苔リョゴスが敵の進軍を阻むのだ。



「第十四小隊が筋弛緩ガス爆弾を撃ち込んだようだな……ここだ! 油苔リョゴスを投げよ!」



 ヒースコート兵装班長は命令を下す。

 魔王軍の小隊は小隊長を含めて五人一組であり、五部隊の全員が油苔リョゴスを手に持っている。総数にして二十五個の油苔リョゴスが投げ込まれた。

 油苔リョゴスの胞子と薬品を隔てる仕切りは五秒で解放されるようセットされている。

 投げられた油苔リョゴスは自由落下して、人族兵の最も密集しているところへ落ちて行く。

 筋弛緩ガスで混乱していた人族兵は上から落ちてくる油苔リョゴスを気にする余裕もなかった。迎撃されることなく、油苔リョゴスは起動した。

 胞子が薬品の刺激を受けて増殖し、大量の苔が地面を覆う。胞子は人族兵にも付着して、あっという間に苔人間を作成していた。



「これは想定以上に効くな……」



 油苔リョゴスは自身の持つ酵素と空気中の窒素と酸素を利用し、栄養を作る。その他に紫外線の刺激が必要なのだが、それは薬品で補っていた。

 そして急に増殖した苔というのは非常に不気味だ。更に油を多く含む油苔リョゴスは、非常に気持ち悪い。ヌメヌメとしている上に、嫌な匂いもあるのだ。

 不運にも《炎魔法》を使ってしまった者は、全身が燃え上がり、周囲にも被害をもたらしていた。

 窒素と酸素で増える油苔リョゴスを止めることは出来ず、混乱は増していく。



「真空チューブが完成!」


「次の筋弛緩ガス爆弾を撃ち込む準備が完了です!」


「カウントスリーで発射だ。三、二、一、発射!」



 根のトンネルに撃ち込まれた二発目の筋弛緩ガス爆弾が弾ける。

 ガスが充満して、次々と人族が痙攣しながら倒れた。











 ◆ ◆ ◆












 思わぬ反撃を受けた人族連合は、調子を崩されていた。



「運べ運べ! 早く治療しろ」


「《回復魔法》を使える奴はいないのか! 誰か!」


「前に進めない。倒れている奴は後ろに下げろ」


「ガスは吸い込むな。倒れちまうぞ」



 彼らは『鬼神』ベルザードを先頭として突撃した冒険者たちだった。対応力で優れている冒険者ですら、ガス攻撃は予想していなかった。

 続いて襲来する油苔リョゴス

 化学兵器ケミカル・ウェポン生物兵器バイオ・ウェポンにより、総崩れとなっていた。まともに喰らって動けたのは、唯一ベルザードだけである。

 彼は生まれながらにして《気纏オーラ》スキルを有していた。

 そして体が頑丈だった。

 防御することなく、あらゆる攻撃を弾くベルザードの強靭な『盾』は極端な攻撃戦術を生む。それが『鬼神』とまで呼ばれるようになった男の正体だった。



「ウオオオオオオオオオオオオオ!」



 獣の如き咆哮。

 気合十分なベルザードは単騎で駆ける。背中に多数の武器を背負い、右手には金属製のこん棒が握られていた。砦を殴り壊すつもりなのである。

 飛来する無数の銃弾は《気纏オーラ》と《硬化》スキルで弾く。這い寄る油苔リョゴスは引きちぎる。毒ガス攻撃はオーラの耐性で無効化する。彼を止めることの出来る者はいない。

 あっという間に砦の外壁へと辿り着いた。



「ァァアラアアアアアアアアッ!」



 《身体強化》と《気纏オーラ》スキルで向上した身体能力が、激しい衝撃を生み出す。一撃で砦は揺れた。

 この砦はリグレットが作成したものであり、素材となっている金属は非常に頑丈だ。しかし、衝撃がから生み出される揺れまでは対処していない。



「ウラァッ! ハアァッ! ガアアアアアアアアアッ!」



 鬼を思わせる気迫のベルザード。

 彼の攻撃は何度も何度も砦を揺らし、砦屋上にいた部隊は動きを制限された。一時的に銃弾の雨が止み、筋弛緩ガス爆弾も油苔リョゴスも止まる。

 チャンスだった。



「進め! ベルザードさんが隙を作ってくれた! 弓使いの冒険者はマテリアルブレイカーを撃ち込め!」



 エルフを中心として、弓を得意とする冒険者がザっと並ぶ。彼らは五十メートル先の獲物を射ることができる凄腕の者たちばかりだ。

 使用する弓は光神シンから配布された魔法弓であり、飛距離に魔法的アシストがかかっている。

 当然、放つ矢も光神シンが配布したものだ。その名もマテリアルブレイカーである。突き刺さった対象を腐食させるという効果を有しており、砦を壊すために用意されていた。

 魔法アシストのかかった矢は、遠距離にある砦へ向かって一直線に飛ぶ。そして次々と砦表面に突き刺さった。



「見ろ!」



 誰かが叫ぶ。

 マテリアルブレイカーが突き刺さった部分から砦は崩れ始めた。腐蝕の概念により、リグレット謹製の素材マテリアル破壊ブレイクされたのだ。

 ベルザードは砦に出来た穴へと飛び込んでいく。

 腐食し続けている部分へと飛び込むとは中々の猛者であるが、SSランク冒険者にまでなった『鬼神』に不可能はない。棍棒を背中に仕舞い、続けて剣を持つ。室内ならば、巨大な金属製のこん棒よりも剣の方が扱いやすい。



「続け! 俺たちも侵入するぞ!」


『おおおおおおおおおおおおおおおっ!』



 先鋒である冒険者が雪崩れ込む。

 しかし、流石に砦を揺らすベルザードの攻撃が無くなったこともあり、銃撃が再開された。弾丸に貫かれ、幾人かが倒れていく。

 そこを救ったのは勇者にしてSSランク冒険者『要塞姫』エリカだった。



「私の《結界魔法》で傘を作ります。皆さん進んでください!」



 更には『爆撃姫』リコも魔法を発動する。



「屋上から銃を撃ってくるなんて卑怯よ! 戦争のために閲覧させて貰った禁呪を喰らいなさい!」



 彼女は長い詠唱を始めた。

 この戦争に当たって、倫理的に使うべきでないと封印されていた禁呪の魔導書が解禁された。勿論、一般レベルにおける禁呪である。

 広域に渡って被害を与えるような、大魔法だ。

 セイジと共にSSSランクの魔物を倒したこともあるリコは、ある程度の死線を潜り抜けている。当然ながらレベルも上がり、それに応じてMP量も増大していた。大魔法もリコ一人で発動できる。



「『《煉炉焼煌イリーガル・ソル》』」



 これは特定の物質を対象にした魔法である。

 リコは砦の屋上部にある、小さな明かりの魔道具を対象にした。まだ昼であるため、明かりの魔道具は起動していない。それにもかかわらず、魔道具は眩いばかりの光を発した。

 質量を熱エネルギーへ変換する魔法。

 それが《煉炉焼煌イリーガル・ソル》である。

 この禁呪と呼ばれる魔法は、リグレットが遥か昔に人族領を探索していた際、作成して売ったものである。人族領調査中のリグレットは、錬金術師として魔道具などを売りながら金を稼いでいた。その際に世界最高の錬金術師として歴史に刻まれてしまったのだが、彼の成した偉業は他にもあった。

 それが禁呪の作成である。

 現在は国家が厳重に保管している禁忌魔導書も、嘗てリグレットが作成したものだった。

 故に、魔法の威力は保障されている。

 炎属性だけで質量エネルギーの熱変換を実行している以上、エネルギーロスは存在する。しかし、砦屋上に被害をもたらすには充分すぎる威力だった。



「私のMPを全部使いきったわ……吹っ飛んで!」



 殺さなければ殺される。

 そんな危機感に背中を押され、リコは禁呪を放ってしまった。今は興奮状態にあり、後悔も罪悪感も感じない。魔族を斃すという目的だけが彼女を支配していた。

 大量虐殺の魔法を躊躇いなく放てるほどである。

 しかし、使われた魔族の方は堪ったものではない。照明魔道具は質量を熱エネルギーへ変換され、周囲を破壊し尽くそうとした。

 ヒースコート兵装班長も焦る。

 この魔法が屋上の部隊を全滅させる威力だと見抜いたからだ。



「やった!」


「吹っ飛ばせ!」


「侵入するぞ!」


「魔族を殺せ」


「俺が一番乗りだ。どけっ!」


「戦争が終わったら報奨金で飲み放題だ! やるぜ!」


「『爆撃姫』や『鬼神』に続けええええっ!」



 人族連合兵……その中でも先に突撃した冒険者たちは士気を高める。

 輝く星にも似た《煉炉焼煌イリーガル・ソル》の光は、彼らを鼓舞したのである。爆発は起こらない。ただ、球状に膨れ上がる熱の領域が、全てを蒸発させるのだ。

 リグレットが概念で作り上げた砦は壊れないだろう。

 しかし、屋上にいる魔族は全滅必至だ―――。



「流石に介入させて貰うよ」



 ――リグレットの助けがなければ。



「熱エネルギーを十万分の一ほどにしてっと……うん、これで良し」



 書き込む力、権能【理創具象ヘルメス】が発動する。情報次元における熱量の記述へと減衰式を書き加え、エネルギー量を十万分の一にしてしまった。

 百万度にも達しかけていた質量エネルギーの熱変換は強制停止させられる。

 リコやエリカ、そして人族連合兵は三対六枚の翼を広げた天使リグレットを見た。











 ◆ ◆ ◆










 リグレットにとって、砦がここまで攻められるのは想定外だった。数で優れている人族連合軍を虐殺することなく止めるために、砦の防御を強固にしたまでは良かった。しかし、固めた・・・地面を掘り進んで侵入してくるというのは、予想はしていても可能性が低いとして切り捨てていた作戦である。

 そもそも、リグレットは地中を進んで砦を回避するというものを考えていたのだ。

 こうなった場合は、魔族領という地の利に加え、砦と要塞化した旧【アドラー】による挟み撃ちが出来たので問題ない。リグレットからすれば、地中を進んでまで敵の懐である砦の結界内部に侵入するメリットを考えることが出来なかったので、切り捨てていたのである。



「さて、どうしたものかな」



 一旦、砦の危機を救ったリグレットは考える。

 【レム・クリフィト】の守護を一時的に放棄してまで砦を救ったのは、クウたちが光神シンを退け、アリアがセイジを抑え込んでいると分かっているからだ。しかし、あまり長時間【レム・クリフィト】を離れたくはない。光神シンが何をしてくる変わらないので、警戒は常にしておきたい。

 リグレットは状況を整理した。



(既に砦内部まで侵入されているとなると……少し面倒だね)



 時間をかければ、少しずつ人族連合軍を排除できるだろう。砦を守護する魔王軍第三部隊の犠牲を厭わなければ、短時間での収束も出来るかもしれない。

 魔王軍の犠牲は最小限である必要がある。そして短時間で事態を収束させなければならない。



「こんなことに世界侵食イクセーザを使うのは忍びないけど……少しだけ本気を見せるとしようか」



 リグレットは意思力を世界へと侵食させた。それに伴い、息も出来ないような重圧が周辺を支配する。これは人族も魔族も無差別であり、一時的に戦いが止まった。

 権能【理創具象ヘルメス】の力が世界を侵す。



「発動、《消失鏡界ロスト・ミラー・ワールド》」



 リグレットが敵と認識した対象を鏡の回廊へと取り込む。それが《消失鏡界ロスト・ミラー・ワールド》である。つまり、選択的に人族連合軍を捕獲することが出来るのだ。

 砦を守る結界の外、結界の内側、そして砦に侵入した人族に至るまで、全員が取り込まれた。リグレットの意思力が世界を侵食したお蔭で、世界がリグレットの味方をする。思い通りにすることなど容易い。

 残ったのは、破壊された砦と屋上で唖然とする魔族たちだけだった。










 ◆ ◆ ◆










 リグレットが世界侵食イクセーザ消失鏡界ロスト・ミラー・ワールド》を発動する少し前。

 魔法矢マテリアルブレイカーで砦を破壊し、そこから侵入したSSランク冒険者『鬼神』ベルザードは力の限り暴れていた。



「ウオオオオオオオオラアアアアアッ!」



 振り回すのは光神シンから与えられた魔法武器マジック・ウェポンの一つ、魔剣を装備していた。これは特に銘のない剣であるが、強力な効果が乗っている。

 それは対象を切断しない代わりに、破砕する効果だ。

 この剣で斬られると、傷口は鋭利な切り口となるのではなく、破砕効果で砕かれる。壁を切り裂けば瓦礫と化し、人を切り裂けば肉片となって飛び散る。非常に強力な剣だった。



「なんだコイツ!? 魔法が効かない!」


「《看破》が完了した。見た目通り、オーラで防いでいるみたいだな。相当なオーラと見受ける。あと、武術スキルを大量に持っている。油断するな」


「あの剣の破壊力は……危険だな。防御するなよ!」



 流石は精鋭部隊だけあって、ベルザードの猛威に死者を出すことなく対処する。しかし、戦線を少しずつ後退させながらの消極的な戦いであり、いつかは詰まる時が来ると分かっていた。

 魔族たちが慎重に戦いを進めているのを見て、ベルザードは戦い方を変える。

 腰に付けているアイテム袋から投げ斧を取り出し、投げた。

 慌てた魔王軍の兵士は、防御態勢と回避動作を取る。一人の魔族が《魔障壁》を張った。これで安心かと思われたが、《看破》持ちの魔族が叫ぶ。



「だめだ! そいつには貫通の効果が込められている! 防御するな!」



 ベルザードはSSランク冒険者であり、戦力として期待されている。彼の持つ複数の武器は、全て光神シン製の魔法武器マジック・ウェポンに置換されていた。

 《看破》持ちが言った通り、投げ斧は《魔障壁》を貫いて魔族の一人に迫る。隣にいた別の魔族兵が咄嗟に押し倒し、事なきを得た。



「すまん」


「気にするな。それよりも拙いな。魔法は効かないし、簡単に近づける奴じゃねぇ」


「ああ」



 砦に侵入している人族はベルザードだけではない。多くの人族が砦に侵入しているのだ。砦に配属されている魔王軍第三部隊の数は、それほど多くない。下っ端の彼らは正確な数こそ把握していないものの、五百名程度だと知っていた。

 とてもではないが、第三部隊だけで抑えられない。



「ウラアアアアアアアッ!」



 無敵にも思えるベルザードは、あらゆる攻撃を弾く肉体を存分に利用する。突きの構えで剣を持ち、膝のばねを使って勢いよく飛び出したのだ。

 直線的でカウンター攻撃を受けやすいという欠点も、ベルザードの肉体とオーラが弾く。

 魔剣の力であらゆる障害をぶち壊す。

 これはダメだと思いつつ、魔王軍の兵士たちは防御スキルを使った。魔法や障壁のスキルが幾つも並び、ベルザードを阻む。しかし、ベルザードはそれらを一瞬で砕き、魔族兵たちに迫った。

 もうだめだ、と彼らが目を閉じる。

 しかし、死の衝撃は訪れなかった。



「悪ぃが、手加減はしねぇぜ」



 現れた頼れる隊長、ユージーン・ベルク。

 彼の持つ光魔銃ラグナロクが超高出力で放たれた。光魔銃ラグナロクは光エネルギーを収束して放つレーザー光線であり、魔力を込めることで無制限に威力が増大する。ユージーンは相当なMPを消費して、超高威力のレーザー光線を放った。

 それは回避不能な光速でベルザードに直撃する。

 流石の光圧にベルザードの突進は拮抗する。魔剣の切先を放たれ続けるレーザー光線に合わせ、光を切り裂きながらベルザードは走りつつ迫った。



「こいつっ! めんどくせぇ奴だなぁおいっ!」



 ユージーンのMPはガリガリ削られていく一方、ベルザードは光を切り裂いて着実に進んでいる。光魔銃ラグナロクのお蔭で迫るペースは下がっているが、魔族側はジリ貧状態だった。

 ユージーンの部下たちも必死で魔法を使う。

 付与属性でベルザードの耐性を下げる、闇属性で足元を腐食させる、土属性の砲弾でのけぞらせる、風属性で向かい風を作る、そんな風に工夫してベルザードを足止めしていた。

 何とか反撃の機会はないかと、時間を稼ぐのである。



「無駄無駄無駄ダアアアアアアアアアアアアアッ!」



 ベルザードを無敵にするオーラの源は意思力だ。彼はステータスに縛られた身でありながら、凄まじい意思力を持っている。自信、自負、あるいは傲慢とも言うべき彼の意思力がオーラとなって具現化し、強力な盾となっていたのである。

 強力な武器と強靭な盾。

 ベルザードを止められる者はいない。

 魔王軍隊長の中でも遠距離攻撃を得意とするユージーンでは不利だった。



(クソが……)



 ユージーンは自身の不甲斐なさに悪態をつく。

 もうベルザードはすぐ側まで迫っており、時間がない。

 やはり無理なのかという空気が出来上がりつつあった。

 しかし、そこで助け手が現れる。



「ユージーン隊長! 魔力砲を持ってきましたよ!」


「皆伏せてくれ!」



 砦を守護するための魔力砲。これは《魔弾》スキルを応用したものだが、リグレットから供給される霊力をエネルギー源としているため、最大でビルを吹き飛ばすほどの威力が出る。

 それを取り外し、ここまで持ってきたのだ。

 魔力砲の力を知っている魔王軍の兵士たちは、一斉に身を伏せた。当然、ユージーンも光魔銃ラグナロクを止めて伏せる。

 同時に強烈な魔力砲弾が放たれた。

 室内であるため威力は抑えてあるが、家屋を倒壊させるほどの威力となっている。



「ガッ!?」



 光魔銃ラグナロクの光線が消えたことでたたらを踏んだベルザードに、魔力の砲弾が突き刺さる。オーラですら吸収しきれないほどの衝撃に、流石のベルザードも吹き飛ばされた。

 しかし流石のSSランク冒険者であり、ベルザードは倒れることなく着地する。そのままに膝を曲げ、再びバネのように飛び出した。

 同時にユージーンは光魔銃ラグナロクによる攻撃をする。



(ギリギリか!)



 光魔銃ラグナロクの充填チャージが早いか、ベルザードの突撃チャージが早いか。

 勝負は刹那の一瞬で決まると思われた。

 しかし、ここでベルザードの姿がフッと消える。彼だけでなく、他の人族も全て姿を消した。リグレットの世界侵食《消失鏡界ロスト・ミラー・ワールド》が発動したのである。



「ふっ……助かったってことかよ。情けねぇ」



 ひと時の勝利を知り、ユージーンは懐から煙草を取り出したのだった。












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