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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔大戦編

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501/566

EP500 振出しに戻る


 リグレットの世界侵食イクセーザ消失鏡界ロスト・ミラー・ワールド》は人族の連合兵を全て取り込んだ。迷宮を参考に作られた世界侵食であり、ステータスに縛られた存在でしかない人族は脱出の手段を持たない。



「あれ……? ここは?」


「理子ちゃん! 気付いたんですね!」


「絵梨香? それに――」



 目を覚ましたリコが周囲を見渡す。すると、見知った顔が沢山あった。禁呪を発動するためにリコを守ってくれていた【ルメリオス王国】の騎士たちである。

 同時に、異常事態に気付いた。



「なななななっ!? 何よここは!」



 真っ白な空間に無数の鏡。そして大理石のような浮島。

 不思議な世界で自分自身も浮遊していたのだ。

 驚かないはずがない。



「落ち着いてくださいリコさん。どうやら私たちは魔法で閉じ込められてしまったようです」



 リコやエリカをよく知る騎士の一人が落ち着くように言う。謎の世界は不思議に満ちており、まだ混乱が続いている。地位ある勇者のリコが取り乱せば、余計に混乱が広がってしまうのだ。故に、彼の行動は理に適っていた。

 そして魔法で閉じ込められてしまった以上、魔法に詳しいリコの意見を聞くのが正道だ。



「リコさん。どう見ますか、この空間について」


「そうね……」



 リコは自分に何があったのか思い出す。

 禁呪《煉炉焼煌イリーガル・ソル》を発動したところまでは覚えている。そして、《煉炉焼煌イリーガル・ソル》は何故か急速にエネルギーを失い、消失した。凄まじい重圧と共に見えた最後の光景は、純白の翼を広げた人型である。

 そして気づけば、ここにいた。



「恐らくは《時空間魔法》ね」


「あの、伝説の魔法ですか?」


「前にスタンピードの対処で《時空間魔法》を使うリッチと戦ったの。いきなり変な空間に飛ばされたから、間違いないと思うわ!」



 特殊な空間に閉じ込められたことは分かっても、対処方法はない。何故なら《時空間魔法》という特殊なスキルを持っている者など一人としていないからだ。

 しかし、それでも何とかしようと試みる冒険者がいた。

 『鳳の羽』というAランク冒険者パーティである。

 リーダーであるエミルは大理石のような浮島に降り立ち、その材質を《鑑定》で調べていたのである。



「こいつは……」


「何か分かったのかいリーダー?」


「いや、全く分かんねーわ」



 《鑑定》しても浮島の詳細は何一つ分からなかった。

 当然である。

 そもそも、《鑑定》スキルとは『世界の情報レコード』に組み込まれたシステムであり、世界エヴァンの情報次元しか調べることが出来ない。この空間《消失鏡界ロスト・ミラー・ワールド》はリグレットの世界であり、《鑑定》は適応されない。

 何も分からなくて当たり前である。



「あの鏡は?」


「それも《鑑定》できねーな」


「それは弾かれるってことかい?」


「いや、そもそも《鑑定》が発動しねーんだ」



 『鳳の羽』はリーダーであるエミルの他に、雷魔法使いのウィズ、剣士のフォード、珍しい付与魔法使いのバラムがいる。その中でウィズがエミルと相談し、フォードとバラムは浮島の素材を回収しようと試みていた。

 フォードは採取用のハンマーで浮島を叩く。

 すると鈍い音がした。



「ダメだな。硬すぎる」


「なら、僕が付与魔法で君を強化してみようか」



 バラムがフォードに強化の魔法をかける。

 《付与魔法》を極めれば、味方を何倍も強化したり、敵を弱体化させることも出来る。約二倍の力となったフォードは、再びハンマーで地面を叩いた。

 しかし、強過ぎる力で逆にハンマーが壊れてしまう。勿論、浮島には傷一つなかった。



「痛っ……」


「大丈夫かいフォード?」


「く~……コイツは壊せないな」



 Aランクパーティだけあって、彼らは慎重だった。迂闊に攻撃魔法は使わず、そのお蔭で致命的なミスをしなくて済んだ。

 逆に荒くれ者のCランク冒険者が、何も考えずに魔法を発動してしまった。



「へっ! 俺がぶっ壊してやるよ!

『この手に炎を

 焦がす一撃は敵を貫き、破裂する

 尽く捉えよ

 《炎槍撃フレイム・ランス》』」



 一人前であるCランクを冠するだけあって、それなりの魔法を発動できるようだ。熱気を内包した炎の槍が鏡の一枚に殺到する。《炎槍撃フレイム・ランス》によって鏡が壊されたと誰もが思った。

 だが、《炎槍撃フレイム・ランス》はスルリと鏡の中に吸収されてしまう。

 鏡面に波紋が浮かび、《炎槍撃フレイム・ランス》は消えてしまった。

 そして声をあげる暇もなく、《炎槍撃フレイム・ランス》が十本に増えて鏡から射出される。炎の槍は魔法を発動したCランク冒険者に直撃する。



「ぎゃあああああああああっ!」



 訳も分からず彼は叫んだ。服は焼け焦げ、肉の焼ける嫌な匂いがする。服や髪に炎が燃え移り、呻きながら暴れる。彼の仲間は慌てて服で叩きながら炎を消し、《水魔法》を使える者は詠唱する。

 これにより、迂闊な攻撃は自滅を招くと皆が理解した。

 眺めていたエルフの女王ユーリスもそれを見ていた。



「私の《森羅万象》で解析できないですって……?」



 ユーリスはハイエルフに進化したとき、情報系最上位スキル《森羅万象》を獲得した。このスキルは情報次元にアクセスし、あらゆる情報を開示させることが出来る。逆に隠蔽することも可能だが、今回は情報開示能力を使った。

 しかし、それでも白い空間は解析できない。

 白い大理石のような浮島も、大量に浮かんでいる鏡も、何一つ分からなかった。



「女王陛下、どうやら脱出の目途は立たないようです」


「そのようね。フローリアがいれば何とかなったかもしれないわね」



 精霊王フローリア。

 自然の力を扱う彼女は、空間操作をすることも出来た。フローリアがいれば、この空間から脱出できる唯一の手段となったことだろう。しかし、精霊王はいない。虚空の天使クウ・アカツキによって消滅してしまったからだ。

 ユーリスが手に入れた【魂源能力】《樹木魔法》も今は無力である。



「ブルーコスモス、何か案はあるかしら?」


「陛下、兵器ベヒモスをここから操ることが出来ますか?」


「そう言えば試していなかったわね」



 ユーリスは呪符を取り出し、兵器ベヒモスに命令を与える。しかし、手ごたえがなかった。リグレットの世界侵食イクセーザが阻んでいるので、当然である。

 何度か命令を飛ばすが、やはり反応がない。

 六度目の命令にも反応を感じ取れず、ユーリスは諦めた。



「無理ね。ベヒモスには食料とか武器とか、色々と積み込んであったのだけど」


「それは拙いですね」


「ええ。分かっているわ」



 詳細不明なこの空間。

 いつ脱出できるのかもわからない。そんな場所に人族連合軍一万五千人がいるのだ。当然、時間が経てば腹も減る。つまり食料が必要となる。

 冒険者は個々人で食料を携帯していることもあるが、【ルメリオス王国】の騎士や【ユグドラシル】の精霊部隊は持ち合わせていない。餓死という想像もしたくない未来が、ユーリスとブルーコスモスの頭に浮かんでいた。



「私の《樹木魔法》で木の実を作ることは出来るわ。でも、一万五千人分も作れるかしらねぇ」



 それともう一つ、ユーリスには気がかりなことがあった。



「セイジの姿が見えないわね」



 勇者にして超越者セイジ。その強大な気配を見逃すはずない。魔王アリアと戦って、足止めをしてくれていた。だが、ここにきて逸れてしまった。

 頼れる勇者がいない以上、人族を纏め上げるのはユーリスの役目だ。

 逆にユーリスが何もできず、ただ戸惑うだけでは連合の結束も低下する。

 しかし、ユーリスの心配は無用なモノだった。



「おい! なんだあの光!」



 ユーリスの近くにいた精霊部隊の一人が叫んだ。それに釣られてユーリスもそちらを見る。

 すると、白い光の渦が見えた。

 光の渦は皆に見えているのか、徐々に注目が集まっていた。



(魔力を感じないわ……でも、嫌な感じがするわね)



 魔力を感じないのは、この現象がリグレットによるものだからだ。超越者は魔力を介することなく、魂から湧き出る霊力を直接利用することが出来る。だから魔力は感じず、それでいて大きな力を感じたのだ。

 抵抗する暇もない。

 光の渦は徐々に膨らんでいき、近くの人族から順に呑み込んでいく。



「今度は何!?」


「陛下! どうかお逃げください」


「いえ、もう―――」



 渦の膨張は一瞬であり、一万五千の人族連合兵は一瞬で呑み込まれる。ユーリスも例外ではなく、成す術なしだった。

 二秒後、《消失鏡界ロスト・ミラー・ワールド》の内部には誰一人いなかった。






…………………………

……………………

……………

……









「―――ここは?」



 目を開けたユーリスは周囲を見渡した。

 頭の中に霧がかかったようであり、ボーっとする。しかし、段々と意識がハッキリしてきた。そして自分がどこにいるのかを悟る。



「【ルーガード】? どういうこと?」



 魔族征伐の前線拠点として建てられた城塞都市【ルーガード】。

 ユーリスたちも魔族砦を攻略するため、ここを経由した。何百キロという距離を一瞬で越えたのだ。転移など経験したことのない彼らは、まだ夢を見ているかのような気分である。



「なぜ……」



 涙が流れそうになるのを、ユーリスは全力で止めた。女王たる彼女は無様を見せる訳にはいかない。あれほどの戦力を投入し、神の力すら借りて進めた魔族征伐。全てゼロに戻った。

 砦まで進んだ道のりだけではない。

 兵器ベヒモスに載せていた大量の資材も失われたのである。



「ユーリス様、ご無事ですか?」


「ええ。でも大変なことになったわ」


「どうされますか? 勝手と思いましたが、まずは【ルーガード】に使いを出しました」


「助かるわ。まずは報告をしなければならないわね」



 砦を攻める作戦は失敗だ。

 しかし、失敗したからと言って黙っているわけにはいかない。【ルメリオス王国】のルクセント王の他、ドワーフ代表のオルガングは報告を心待ちにしているハズだ。

 それに、海から進軍した部隊のことも気になる。



「そう言えばセイジはどこかしら?」



 人族連合の中で最も失ってはならない存在を探し、ユーリスは見つけられないでいた。

 目視で探し、魔力を探るが見つからない。

 同じ勇者であるリコとエリカは見つかるのだが、セイジだけはいなかった。これだけの異常事態が起これば、あのセイジは必ずリコとエリカの元に向かハズである。

 しかし、セイジの姿は一向に見えなかった。

 よく見ると、リコとエリカは慌てているように見えた。



「……魔王。これほどなんて……」



 精霊王を滅ぼした指名手配犯クウ・アカツキ、そして少しだけ戦った魔王アリア。ユーリスにとって、予想も出来ない強者たちばかりだった。

 光神シンという存在が後ろにいても、敗北する程の強者だ。

 その上でセイジが失われたとなれば……。

 その日、人族連合軍は悲壮な空気に包まれていた。












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