EP473 降臨の日
新章スタートしますよ!
人間族の国【ルメリオス王国】の王都では、突然の大災害で混乱の最中だった。
「被害の状況は?」
「各地で建造物の倒壊が。王都以外の街は冒険者ギルドと連携して情報収集にあたっています。そして残念な知らせですが、西の港町が……」
「西の港町……と言えば運命迷宮のある【ソリア】か」
「ええ、その【ソリア】が津波で壊滅的被害を受けたそうです」
王城の執務室で報告を聞くのは国王ルクセントだった。そして大臣であるアトラスは、部下に収集を命じた情報を王に奏上していた。
「死者や負傷者は?」
「教会が《光魔法》や《回復魔法》の使い手を招集し、なんとか」
「こういう時は使い手の少なさを恨んでしまうな」
「パトリック大司教も奮闘してくださっているのですが……」
大地震、そして地割れ、津波、竜巻など、【ルメリオス王国】を大災害が襲った。それからまだ一日と経っていない。各地では世界の終わりだとか、神の裁きだとか、魔族の侵略だとか、様々な憶測が流れている。
まだルクセントも正確な情報を察知できていないのだ。
本当は【ユグドラシル】の女王ユーリスとも連絡を取りたいのだが、魔力通信に乱れが生じて、遠距離の通信が繋がりにくい。
言葉通り、大変な状況にあった。
「それに魔物増加の件も片付いてはいません」
「勇者も力を失ったと聞く。いや、勇者セイジのみは人外の力を得たのだったか?」
「ええ、その力で各地の強力な魔物を倒してくださっています。リコ殿やエリカ殿、そして力を失ったレン殿とアヤト殿も手伝いをしているようですね」
「魔物の問題は彼らに任せるとしよう。情けないことだがな」
勇者セイジ、レン、アヤトは魔族砦へと遠征に行った結果、その力の大半を失った。聖装を奪われ、セイジに関しては全ての【通常能力】を失った。
だが、その代わりに勇者セイジはさらなる力を手に入れた。
聖剣エクシスタの力によって超越という力を手に入れたのだ。今はその力、権能【破邪覇王】を練習していると聞いている。
「そう言えば、レン殿とアヤト殿はあまり積極的ではなくなったと聞いたが……どうなのだアトラス」
「ええ。本当に魔族は敵なのだろうか。などと話し合っている姿をメイドが確認しています。あとは王城の書庫に出入りし、魔族の資料を幾つも探して読んでいるようです。一体、何があったのか……」
「あの召喚者、クウ・アカツキとユナ・アカツキのように裏切らなければ良いのだが……」
「セイジ殿はそのクウ・アカツキに敗北したそうですね。確か、今は魔獣を街に呼び寄せた罪で指名手配されていたと思います」
「だが良い。セイジ殿は今度こそ魔王を撃ち滅ぼせる力を手に入れたのだろう?」
ルクセントは執務机の引き出しから、一枚の資料を取り出した。
そこには巨大な台地の写真が……いや、真横に切断されて平らになった山の写真が載せられていた。
「これが今のセイジ殿の持つ力だ。彼は勇者だよ。幾度もの敗北を味わいつつも、決してあきらめずに私たちを助けてくれている。勇気ある者。勇猛な者。故に勇者だ」
溜息を吐きつつ、今も魔物を倒しているであろうセイジに思いを馳せる。勇者たちが安心して魔物と魔王を倒せるように、この大災害は自分たちで対応しなければならない。
ルクセントは奮起した。
だがその時、再び大きな揺れが起こった。
「王!」
「問題ない!」
凄まじい揺れで二人とも床に倒れ、資料が散らばる。城が軋み、今にも崩れそうになった。大陸では地震などほとんど起こったことがなく、起こったとしてもごく小さなものだ。故に、このような大規模地震に対応する建造物は全くない。
今回の地震で城の塔が崩れ、大きな音を立てた。
ガラガラと轟音が響き、ルクセントは叫ぶ。
「どうなっている!」
「わかりません。ですがこれでは確認もできません!」
しばらく耐えていると、すぐに揺れは収まった。
二人は立ちあがり、互いに顔を見合わせる。そして声もなく頷き、執務室を飛び出した。向かう先は城のバルコニーである。そこから王都全体の被害を見ることにしたのだ。
途中で使用人に驚かれつつ、二人はバルコニーに到着した。
そこで驚愕のものを目にする。
「なんだ……あれは……」
「お、お下がりください王!」
目を向けるだけで畏怖を感じるような、圧倒的な存在。超越化したセイジの姿を一度見たことのあるルクセントは、その時も同じような悪寒を覚えた。本能から存在を恐れるような、根源的恐怖である。
しかし、今見えている存在はそんなレベルではない。
今にも膝を折って平伏してしまいそうな、そんな畏怖があった。
光り輝き、六つの光輪を背負って王都の教会の真上にいる。
「あ、あれは……」
神。
なぜか心の底からそんな感情が沸き上がってきた。
そんなはずはないと思いつつ、あれこそが神であると心が疑わない。
見渡せば、王都中の国民がその存在に向かって平伏していた。
『人族よ。聞け』
王都全体に声が響き渡る。
一体だれの声なのか。疑う余地はなかった。
『俺こそが光神シン。悪神を抑え込み、遂に降臨することが出来た』
伝承の存在。
千年前に光神シンの天使が魔王を打ち払ったとされている。だが、本人が降臨したなど歴史上、初のことだろう。今、【ルメリオス王国】は歴史的瞬間に立ち会っていたのだ。
ルクセントは感動に身を包まれつつ、跪いて耳を傾ける。
アトラスも慌てて後に続いた。
『決戦の時は来た。今こそ、魔族を滅ぼし、魔の脅威から人族が救われるだろう。災いは全て、この光神シンの栄光が現れるためにあったのだ!』
光神シンは左手に神書・海淵現を取り出す。
それはパラパラと自動的に捲られ、とあるページで輝いた。自動的に因子を組み合わせ、特定の術式を発現する。それは時間遡行であった。
王国全土の時間を巻き戻し、全ての災害で受けた被害を再生させるのである。
修復されていく王都を見て、ルクセントは呟いた。
「あ……あれこそが神。神か!」
「父上! これは一体!」
そこにルクセントの子であるアーサーとアリスもやってくる。
二人は迷宮都市【アルガッド】にいたのだが、今は王都に戻っていた。
ルクセントは嬉々とした表情で二人に話しかける。
「見てみよ。光神シン様が降臨された。神の御業だ!」
「なんですって?」
「本当なのですか父上」
アーサーとアリスもバルコニーから身を乗り出し、王都の様子を眺める。
すると、崩れた家が逆再生されて元の状態に戻り、破壊された道も元通りに舗装されている。散ってしまった花すら咲いていた。
これこそが神の力。
時すらも制御する人外の力。
【ルメリオス王国】はこの一瞬を以て、光神シンが支配することになった。
◆ ◆ ◆
世界の狭間。
それは時間や距離と言った概念の存在しない空間だ。それは空間と定義して良いのかも謎だが、世界と世界にはそのような場所が存在している。この場所で存在を保つことが出来るのは超越者のみである。
(くそ……どこだ)
クウはそんな場所を漂ってた。
宇宙空間を思わせる漆黒の空間。そこに星のような輝きもある。魔眼を使って解析すると、その一つ一つが世界なのだと理解できた。しかし、エヴァンに戻ることが出来ない。
何故なら世界の狭間には情報次元が存在しないのだ。
このよく分からない空間は、何も概念が存在しない。超越者という個にして世界に匹敵する存在でなければ意識を保つことすらできないのは当然だった。
(どうやって戻ればいい?)
光神シンの言霊によって、この世界の狭間へと引きずり込まれたことは覚えている。自分の権能を使えば、亜空間程度の脱出は容易いと考えていた。しかし、甘かった。
全く情報次元が存在しないため、解析が出来ないのである。
そして解析できなければ、対処の仕方も分からない。
(この無数に散らばる世界から……エヴァンを探すのか!?)
気の遠くなるような話だ。
そんなことは出来るのだろうかと考えてしまう。いや、無理だろう。世界は無限に広がっている。見つかるのはいつになることか。
(ユナとリアも助けないといけないってのに……)
こんな歯がゆい思いは久しぶりだ。超越者になってまで無力を感じることになるとは思わなかった。情報次元のないこの狭間では、空間を切り裂くという概念がない。そして移動という概念もない。
無様に漂うことしか出来ないのだ。
(《月界眼》で運命を作るか? それで世界を見つけることは出来るのか……)
情報次元がなくても、意思力の侵食は出来る。世界侵食を使おうかと悩み始めた時、不意にクウの背後で空間が割れた。
そしてそこから人の手が伸びて来て、クウの背中を掴む。
クウは驚く暇もなく、背後の空間へと引きずり込まれた。
「うおっ……!?」
思わず声を上げる。
そして気づいた。世界の狭間では声を出すことが出来なかったのにもかかわらず、今は声を出すことが出来る。周囲を見渡すと、真っ白な空間が広がっていた。クウが転がっている場所は大理石のように真っ白な地面であり、白い謎の廃墟のようなものもある。
驚くべきことに、周囲には数百枚の鏡が浮いていた。
「ようやく見つけたよクウ君」
「っ! リグレット!」
「世界の狭間から君を見つけるのは苦労した。僕の鏡属性で境界を操り、君をここへ呼んだんだ。もう君で最後だよ。アリア、ミレイナ君、ユナ君、リア君は既に見つけている。ちなみに、ここは僕の世界侵食《消失鏡界》。ここなら光神シンにも見つからないよ」
周囲を見渡そうとしたクウの背中に衝撃が走った。
「くーちゃん! よかった!」
「ユナ?」
「見つからなかったらどうしようかと思ったよ……」
泣きそうな声のユナに対し、クウは振り向いて抱き留める。すると、リアも安堵した顔で立っていた。
「心配かけた。それにごめん。俺じゃ、結局何もできなくて」
「ううん。くーちゃんが無事だっただけで私は良いの」
「私も兄様が無事で安心しました。本当に良かったです。私こそ、空間操作に長けているにもかかわらず、役に立てなかったのが悔しいです」
今回はリグレットが鏡属性の境界操作があったおかげで、早期に天使を発見できたのだ。本来なら、世界の狭間に放り込まれた存在は滅多なことで元の世界に戻ることは出来ない。
神ですら、世界の狭間は無計画に立ち入る場所ではないのだから。
「よし、これで全員が救出されたな。それに光神シンから逃れることも出来た」
アリアが宣言する。
光神シンと少しだけ戦った六人だが、まず間違いなく勝てないと察した。あれでも光神シンは手加減をしている。世界が壊れない範囲でしか戦っていなかった。
逃げることが出来ただけで勝利と言って過言ではない。
リグレットは消し飛ばされたふりをして、自身の世界侵食空間へと逃れ、そこで全員を助け出す機会を狙っていた。流石に世界の狭間へと引きずり込まれた時は焦ったが、鏡属性を利用してどうにか助けることが出来た。
ある意味、運が良かったと言える。
「次は光神シンが仕掛けてくる。人族と魔族の戦争を始めようとしてくるぞ」
「そうだねアリア。僕たちは【レム・クリフィト】に戻るべきだと思うかい? それとも、身を潜めて機会を待つべきだと思うかい?」
「身を潜める? そんなわけないだろう」
「ま、君ならそう言うと思ったよ」
隠れて機を待つことも出来る。
しかし、魔王であるアリアはそれを良しとしなかった。このままでは、光神シンが率いる人族軍によって【レム・クリフィト】も蹂躙されることだろう。
「私は【レム・クリフィト】の王だ。まずは情報を集め、勝利するために全力を尽くす」
アリアの決意は固かった。
「ならば役割を決めるべきだな」
そこにクウは口を挟む。
「役割だと?」
「ああ、魔族と言っても魔人族、獣人族、竜人族、ヴァンパイア族がある。アリアは【レム・クリフィト】に戻れ。リグレットは【ナイトメア】でレミリア女王を助けろ。で、ミレイナが復興中の【砂漠の帝国】を担当する。こんな感じで各国に超越者を一人付けよう」
「なるほど」
アリアも納得する。
神の力を見た以上、戦力分散は愚策であるように感じられる。しかし、相手はまだこちらが世界の狭間から抜け出していることに気付いていないだろう。
つまり、今が散らばるチャンスなのだ。
いつまでも隠れているわけにはいかない。光神シンが降臨してしまった以上、もはや戦いは避けられないのだから。
「クウ君の意見には賛成だよ。これから戦争になる。その準備はしなければならない。特に【砂漠の帝国】はね」
「リグレットも賛成か。お前がそう言ってくれるなら安心だ。で、俺とユナとリアが暇になる。そこで俺たちは光神シンを倒すための特別な術式を開発する」
クウは驚くアリアとリグレットに構わず、宣言した。
「ヒントは光神シンから貰った。奴は俺の力を碌に解析することなく、力のヒントを与えたんだ。その報いは奴に返っていく。必ず、倒せる」





