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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編
472/566

EP471 神器


 光神シンは首に下げた小さな鏡を左手で触れる。持っていた神書・海淵現ミフチノウツツは自動的に浮遊していた。

 そして得意げに鏡について説明を始める。



「これは鏡の持つ反射の因子を概念化し、神器となるまで霊力と意思力を注ぎ込んだものだ。その名を神器・八咫鏡ヤタノカガミという。そっちの異世界転移してきた二人なら分かるだろ?」


「三種の神器か。残りの天叢雲剣アマノムラクモノツルギ八尺瓊勾玉ヤサカニノマガタマもあるということか?」


「うーん。どうだろう……な!」



 光神シンは右手首を見せつけるようにしてクウに向ける。クウの眼には深紅の光を放つ大きな勾玉が見える。どうやらブレスレットとして身に着けているらしい。

 そして言霊を口にした。



「その天使を縛れ」



 神器・八尺瓊勾玉は一層強く輝き、クウの右手首に勾玉の紋様が現れる。慌てて魔眼を発動し、何をされたのか解析しようと試みた。

 だが、クウの両目に黄金の六芒星は浮かび上がらない。

 つまり魔眼が発動しなかった。



「なんでだ!」


「当たり前だよ天使君。この八尺瓊勾玉は情報次元を縛る。天使如きの矮小な潜在力では、神の霊力による呪縛を解くことは出来ないってことさ」



 これにはクウも頭が真っ白になった。

 神の絶対的な力に対抗するためには、クウのトリッキーな権能が必須である。それがたった一つの神器で封じられてしまったのだから動揺しないはずがない。

 得意気な表情を浮かべた光神シンは、次に新たな剣を取り出した。こちらは柄と刃が一体化しているように見える両刃の剣であり、亜麻色の布で装飾されていた。



「そしてこれが神器・天叢雲剣アマノムラクモノツルギだ! 嵐に沈め!」



 光神シンは天叢雲剣を振り下ろす。

 すると、一瞬にして天空を雷雲が覆い尽くし、海を裂くほどの暴風が吹き荒れた。リアは慌てて周囲を空間隔絶し、世界への影響力を極限まで抑える。

 だが遅い。



「これが神の力だ!」



 振り下ろされた天叢雲剣が再び天に向かって掲げられる。その途端、クウは巨大な竜巻に巻き込まれた。更に落雷が周囲を焼き尽くし、ユナ、リア、ミレイナ、アリア、リグレットにも襲いかかる。

 雷を扱うユナは慌てて権能【聖装潔陽光アポロン】を使った。



「晴れ渡って!」



 雷を防ぎつつ、陽属性で大空を快晴に変えようとする。

 だが、霊力で光神シンに勝てるはずもなく、陽属性の力は天叢雲剣で打ち消された。



「きゃあああああああああああ!」



 光神シンが巻き起こした大嵐でユナは吹き飛ばされ、荒れる海原へと投げ込まれる。



「お姉さま!」


「次はお前だ」



 一瞬でリアの前へと移動した光神シンが、天叢雲剣を振り下ろす。クウの《月界眼》で破壊の運命は免れるが、その衝撃が無くなるわけではない。リアは咄嗟に神魔杖・白魔鏡で防ぎ、ベクトル変換で衝撃を逆方向へと反転させる。

 しかし、光神シンは力で押し切り、リアを吹き飛ばした。リアは遥か遠くまで飛ばされていく。遠くで水飛沫が上がった。

 そして瞬間移動を思わせる速さでリグレットを背後から突き刺す。



「ん? あの天使の権能を封じたお陰かな? 破壊が可能になったようだ」



 単純に破壊不能の運命が『世界の意思プログラム』によって修正されたに過ぎない。しかし、それを知らない光神シンはクウの権能を封印したことが功を奏したのだと勘違いした。

 どちらにせよ、既に破壊は可能となっている。

 光神シンの猛威がさらに大きく振るわれるわけだ。



「ぐ……」


「リグレット!」


「来るなアリア!」



 リグレットは自身が突き刺されていることを利用し、大量の札を召喚し、自分ごと光神シンに張り付ける。それは爆破札であり、リグレットは自爆して光神シンを攻撃するつもりだった。

 札の術式に、リグレット自身の霊力を直接込める。それによって通常の爆破をはるかに上回る爆破力を得ることが出来るのだ。

 しかもこれはただの爆発札ではない。

 爆破と同時に亜空間を生成し、衝撃によって亜空間に接続する。そして敵を亜空間に閉じ込めることが出来るという特殊札なのだ。



「コイツは僕ごと閉じ込める!」



 札が青白く輝き、一気に爆発した。



「リグレット! リグレット! 勝手に自爆するなリグレット!」



 アリアは泣きそうになりながら叫ぶ。

 しかしもう爆発は終えてしまった。嵐で吹き飛んだ煙の跡には、罅割れた空間が残っていた。そしてリグレットも光神シンの姿もない。更には空間に残る亀裂も修復されていく。

 二人とも亜空間に封じられてしまったのだ。

 しかし、徐々に修復されていた亜空間と世界との間にある亀裂が急激に広がった。残ったアリアとミレイナが驚く暇もなく、空間が破壊される。

 そして中から神剣・天霧鳴アメノキリナリを持った光神シンが現れた。



「馬鹿な奴。俺がこの神剣を持っている限り、どんな封印術も効かないってのにな」



 光神シンは出てきたが、一緒に亜空間へと封印されたリグレットの姿がない。神剣・天霧鳴アメノキリナリで因子へと分解されたのだ。その状態で亜空間を漂っているため、復活には時間が掛かるだろう。

 アリアは無言で神槍インフェリクス突き刺そうとする。



「おっと」


「く……くぅぅ……はああああああああああああああ!」



 当然ながら光神シンは神剣・天霧鳴アメノキリナリで防ぎ、力は拮抗した。

 神聖粒子を纏わせ、重力へと現象変換して力を加えた。これによって槍は光神シンの心臓部へと迫る。

 だが、三叉の穂先は光神シンの胸に触れた瞬間、弾かれた。

 霊力の差があり過ぎて、刃が立たなかったのである。

 例え神に勝る意思力があったとしても、圧倒的な潜在力の差を埋めることは出来ない。どれだけ意思力を振り絞っても、力の差は覆られないのである。



「ああああああああああああああ!」



 アリアは何度も何度も槍を突き立てる。だが、その全てが弾かれてしまう。

 いい加減鬱陶しくなったのか、光神シンは神剣・天霧鳴アメノキリナリで神槍インフェリクスを弾き飛ばした。力の差があり過ぎる故に、アリアも思わず槍から手を離してしまう。

 そのまま神剣・天霧鳴アメノキリナリをアリアの胸に突き立てた。



「ぐっ!」


「塵となれ」



 因子分解が発動し、アリアの霊力体が吹き飛んだ。



「よくもアリアをやってくれたな!」



 殆ど反射でミレイナが《深蝕アビス》を発動し、破壊の波動が竜の顎となって光神シンを噛み砕こうとする。

 だがしかし、光神シンは左手で胸元のペンダントに触れ、呟いた。



「八咫鏡よ」


「な―――ッ!」



 破壊の波動が反射され、ミレイナの霊力体も消滅したのだった。

 そして神器・天叢雲剣を軽く振り、嵐を鎮める。



「ふぅ……世界を破壊しないようにするのは難しいな」



 衝撃的な事実だが、光神シンは手加減していた。

 この表世界エヴァンを破壊してしまわないように、手を抜いていた。それでも尚、クウたち天使は全く歯が立たなかったのだった。













 ◆ ◆ ◆















(う……)



 海底に沈んでいたクウはゆっくりと意識を取り戻した。超越者であるゆえに、呼吸や水圧による害を受けないのは幸いだった。海底であっても自在に動くことが出来る。

 そして自分が竜巻による攻撃を受け、海の底へと引きずり込まれたことを思い出した。



(そうだ……ユナ……リア!)



 慌てて権能【魔幻朧月夜アルテミス】を発動し、海を割ろうとする。だが、それは発動しない。何故なら神器・八尺瓊勾玉による封印が施されているからだ。

 これは強い霊力が込められた封印である。そのため、クウの意思力でも突破できない。そもそも権能を封じられているため、こういった封印は直接的に意思力と潜在力で解除するしかないのだ。

 そして圧倒的な霊力を持った神の封印を解くのは困難を極める。



(俺にはこれを解除する霊力が足りない。どれだけ霊力を引き出しても、俺の扱える潜在力の限界が圧倒的に低い。どうする……)



 そもそも、光神シンが使う多彩な能力も不思議だ。

 権能【伊弉諾イザナギ】の力は過去の映像で少しだけ見た。しかし、嵐を引き起こしたり、能力を反射する能力ではなかった。恐らくは魔道具……いや、神器が持つ固有の力だと推察できる。



(あいつは精霊王や魔族を創造したんだっけ。ものづくりに長けた能力ということか?)



 そう仮定した場合、未知の神装を持っている可能性は大いにある。

 現時点で確認したのは、神剣・天霧鳴アメノキリナリ、神書・海淵現ミフチノウツツ、神器・八咫鏡ヤタノカガミ、神器・八尺瓊勾玉ヤサカニノマガタマ、神器・天叢雲剣アマノムラクモノツルギの五つだ。

 厄介な神装がまだあると考えておくのが妥当だろう。



(まずは……)



 自分の権能にかけられた封印を解くのが先である。

 そしてクウにはその心当たりがある。



(俺の力で封印が解けないなら……俺のご主人様の力を借りるとしよう)



 手に持った神刀・虚月を一瞥し、それで右手首にある勾玉の紋様を突き刺す。霊力を流しているため、完全に突き刺さることなくすり抜けた。

 そして、クウは刀を鞘に戻す。

 霊力を流して切った対象を絶対切断する。それが神刀・虚月の能力である。絶対切断の条件は切ってから鞘へと納刀すること。これによって情報次元を完全に切り裂く。

 神の力には神の力を。

 虚空神ゼノネイアの権能から作られた神刀・虚月ならば、神器・八尺瓊勾玉による封印を切り裂くことも出来る。



「ぐっ……」



 小さな呻きと共に、クウの口元から空気の泡が漏れる。

 痛みが一瞬だけ感じられたが、右手首にあった勾玉の紋章が切り裂かれ、剥がれ落ちた。そして幻術を使い、右手首に先程と同じ勾玉の紋様を浮かべる。



(これでまだ能力が使えないと勘違いしてくれたらいいけど……)



 それは希望的観測を含む期待だ。



(ここからは―――)



 一気に仕掛ける。

 クウはそう思うと同時に天使翼を広げ、海底から飛び出していった。











 ◆ ◆ ◆












 嵐を鎮めた光神シンは次の行動をどうするか思考していた。



(アルファ計画が失敗したということは、人族と魔族との戦争計画も上手くいっていないのか? オメガ計画で情報を知る奴が全員滅びたから、何もわからないな。時間を遡る神器で過去を監視するか。裏世界じゃ無理だったけど、こっちならこの世界の過去も見えるはず)



 裏世界から情報次元攻撃を仕掛けていた光神シンも、表世界の情報を知っているわけではない。知られないように虚空神ゼノネイアを含む六神がブロックしていたのだから当然である。

 勿論、それを想定して精霊王フローリアや魔王オメガ、魔王妃アルファに策を授けた。

 一応、アルファ計画が失敗してオメガ計画による光神シンの降臨が成ったとしても、フローリアから事情を知ることが出来ると踏んでいた。

 残念ながらその目論見は外れてしまったのだが。



「ふぅ……」



 光神シンは権能【伊弉諾イザナギ】を発動し、「錬成」によって懐中時計を作り出す。無駄に装飾が施されているのは、権能に対する慣れがあるからだろう。そして「理干渉」を行い、時計という概念に対して「因子操作」を実行する。

 時を遡り、過去を見せる時計に早変わりした。

 瞬時に神装を作成することが出来る。それが光神シンの最も驚異的な能力と言えるだろう。



「あとは情報圧縮と俺の記憶への自動アクセス、ダウンロード機能を付ければ完了か」



 この世界で起こった過去を観測し、それを記憶情報として光神シンに流し込む。そんな即席神装である。光神シンは即座に発動し、これまでの経緯を観察した。

 瞬時に膨大な記憶が流れ込む。

 しかし、肉体という制約から外れた存在である超越者にとっては些細なものだ。

 苦労することなく記憶を受け止め、整理して記憶管理領域へと納めた。



(なるほどな。オメガもアルファ計画が破綻してから頑張ってたみたいだが……やはり失敗に終わってしまったか。因果の反動は強いから、仕方ないな)



 そう言った光神シンは作成した時計型神装をギュッと握り潰す。「錬成」の応用で壊したのだ。本来は破壊不能な神装も、作成者本人ならば不可能ではない。



「さーてと。まずは【ユグドラシル】……いや、先に【ルメリオス王国】の教会か? そこに降臨でもして戦争に誘導すると―――」


「させるか」



 背後でクウが囁き、同時に居合切りを放った。















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