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12/12

第12話 100kgの壁を越えて 

 ボスを倒してから数日後。

 俺たちは今日、以前にも訪れた区の施設にあるトレーニング室へ来ていた。

 目的は一つ。


 ベンチプレス100kgへの再挑戦だ。


 受付を済ませようとカウンターへ向かうと、係の女性は備え付けのテレビに目を向けていた。


『速報です! この世界で初めて、ダンジョンをクリアしたというニュースが入ってきました!』


 女性キャスターが興奮した様子で伝えている。


『ただし、ダンジョン踏破者の正体は不明! 既存のルートを通った形跡もないとのことです!』


「すみません。トレーニング室を利用したいんですが」


「あっ、はい! 利用券はこちらです」


 受付係はテレビから目を離さないまま、利用券を渡してきた。

 どうやら、ニュースが気になって仕方ないらしい。

 俺たちは利用券を受け取り、トレーニング室へ向かった。


「大樹さん、いよいよですね」


「ああ。今日こそ100kgを上げてみせる!」


 俺はベンチプレス台に横になった。

 これまで何度も挑戦してきた重量だ。

 ダンジョンでのトレーニングを始める前、俺のベンチプレスの最高記録は95kgだった。

 その後、麗華と出会い、毎日のようにトレーニングを重ねてきた。

 97.5kgを上げられたときも嬉しかったが、やはり100kgは別格だ。

 俺にとって、ずっと目標にしてきた数字だった。


「大樹さん、頑張ってください!」


「ああ!」


 麗華の声を背に受け、俺はバーベルを握った。

 まずはラックからバーベルを外し、胸の真上で静止させる。


 重い。


 だが、以前挑戦したときほどの不安はなかった。

 ゆっくりと胸まで下ろす。


 そして――。


「んんっ……!」


 全身に力を込め、バーベルを押し上げた。

 止まるな。

 ここで負けるな。

 積み重ねてきたトレーニングを思い出せ。


「おおおおおっ!」


 腕が震える。

 それでも、バーベルは少しずつ上がっていく。


 そして――。


 ガシャン!


 バーベルがラックに戻った。


「……上がった」


 俺はしばらく天井を見つめていた。


 100kg。


 ついに、100kgを上げた。


「やったああああっ! 100kg上がったぞ!」


「おめでとうございます、大樹さん!」


 麗華が満面の笑みで駆け寄ってくる。


「ああ! 麗華のおかげだ!」


 俺は彼女の背中に腕を回し、力強く抱き寄せた。

 ベンチプレス100kgに到達した胸筋と、麗華の100点の胸が重なり合う。

 柔らかな麗華の胸。その感触に、100kgを達成した喜びがさらに込み上げてきた。


「ついに、ついに目標達成だ!」


「本当に凄いです! ずっと、ずっと頑張ってきましたもんね!」


「ありがとう、麗華!」


 俺たちは顔を見合わせ、笑い合った。


『そして、ダンジョン最奥部では、壁に打ち付けられたボスの姿が発見されたとのことです! これまで誰も到達できなかった最奥部に、いったい誰が……!』


 何やら大きなニュースになっているようだ。

 だが、俺にとっては、長年の目標だったベンチプレス100kgを達成した今日のほうが、ずっと重要だった。


「大樹さん、次は何を目指すんですか?」


「そうだな……まずは105kgだ!」


「ふふっ。もう次の目標ですか?」


「ああ! 筋トレに終わりはないからな!」


 世界は変わった。

 ダンジョンが現れ、モンスターが現れ、人々の暮らしも俺のジムも変わった。

 けれど、俺にとっては悪い変化ではなかった。ダンジョンがジムになり、隣には麗華がいる。


「大樹さん、明日は何をするんですか?」


「もちろん筋トレだ!」


「ふふっ。明日は何を鍛えましょうか?」


「そうだな。明日は脚だ! スクワットをやろう!」


 世界には、まだ誰も踏破していないダンジョンがある。

 未知の魔獣も、財宝も、きっと待ち受けているだろう。

 だが、そんなことで俺たちの明日の予定は変わらない。


 筋トレだ。


 俺たちの筋トレは、まだまだ終わらない!


 ――ダンジョンで没落令嬢と筋トレをしていたら最強になっていました。でもベンチプレスの重量はなかなか伸びません。 完。


閲覧頂きありがとうございます!

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