第6話、弓矢の脅威
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薄暗いダンジョンを、五十名もの部隊で隊列を組んで進んでいく。
片腕のネクロマンサーか。多額の懸賞金がかけられているにも拘わらず、誰も討伐が出来ていない者。そして相手は逃げ回っていて遭遇できないとかではなくて、討伐隊を差し向ければ高確率で会えるという話。しかもダンジョンが出来たとされる千五百年前からずっと存在しているという。だから不死者と呼ばれているがここまでくると、もはやドラゴンなどのモンスターと同じだな。
『ブモォォォォ! 』
そこで筋骨隆々の牛の頭を持つ化け物、ミノタウルスが現れた。その太い腕にはバトルアックスが握られている。
ミノタウロス、俺の敵ではないな。
部隊の先頭に位置する俺は、手にしたグレートソードを身体に引き寄せて駆け、間合いを詰める。そして振り下ろされるバトルアックスを半身になり躱すと、振り下ろす剣でミノタウルスのバトルアックスを持つ腕を斬り落とし、返す刃で身体に深く斬りつけ仕留める。
そういえばダンジョン宝物庫、褐色の美しい魔女の伝説もあったな。こちらはダンジョンで死にそうになった時に、助けられたという話が多い。
どうせ会うならこっちの方が断然良いよな。
まぁ、しがない傭兵である俺には命令を忠実に守るしかないのだが。そしてダンジョンで大広間のような所に出てきたのだが——
「……命のやり取りをしない事は出来ないか? 」
後方で女の声がした。みんなが振り返る中、地味な印象の女が遠くに佇んでいた。その女は左腕がないように見えるが。
「お前は片腕のネクロマンサーか? 」
部隊長の問いに、女は冷静に声を放つ。
「そうだが」
こいつが片腕のネクロマンサー。本当なのか? こんな弱そうな女が。
「お前の溜め込んだ財宝を頂きにきた。我々は先遣隊で、この後に本隊が控えている。いかにお前でもこの大人数を相手に出来はしないだろう。大人しく財宝を渡すなら命までは奪わないでやるが、どうだ? 」
「力ずくで奪ってみてはどうだ? 」
その嘲笑うかのような言葉に、俺たちは剣を握りしめて戦闘態勢にはいる。
すると片腕のネクロマンサーの前の地面に、二つの魔法陣が浮かび上がり、地面から二人の女性が姿を現した。
召喚魔法か! しかしあの装備は、二人とも弓使いなのか。左に陣取るボサボサ頭の少女は、朱色の長弓を手にしており、右に陣取るショートカットのバンダナを巻いた少女は、竜でも撃ち落とそうと考えているのではと思われるほどの馬鹿でかい弓を装備していた。
というか片腕のネクロマンサー、この大人数相手にたったの三人で迎え討つ気なのでは?
舐めるなよ、後悔させてやる!
「では、始めようか」
その片腕のネクロマンサーの言葉で、俺たちは殺到するようにして三人へ向かって駆け出した。
◆ ◆ ◆
朱色の長弓を構える『魔弾のムクロ』が一射放つ度に、四人の敵兵が崩れ落ちる。それは瞬時に作り出した魔力で出来た矢を、各指に挟み込んで放っているから。変幻自在に軌道を変えるその矢は、まるで手品を見ているかのように敵兵の急所に吸い込まれるようにして命中していく。
また魔竜大弓から鎧通しを放つ『蒼穹のトロ』により、矢の直線上の敵兵が纏めて致命傷を負って倒れていく。
そうしてこの二人の怒涛の弓矢攻撃で、敵兵たちは近づく事もままならずその数を減らしていく。そして瞬く間に敵兵で動ける者はいなくなり、辺りは静寂に包まれる事となった。
生きている者はいるかな?
鑑定魔法で辺りを見れば、一人だけ生命反応が残っていた。どうやらこの者、魔弾を何箇所も食らっているが致命傷だけは逃れたようである。
◆ ◆ ◆
くっ、やられてしまった。俺以外に生きている奴はいないのか? しかしこんなに圧倒的な力を持っているとは。しかも片腕のネクロマンサーは自ら動いていない、たった二人にやられてしまった始末。
とそこで気配がした。見上げれば片腕のネクロマンサーがすぐ近くに立っていた。剣を手にしようにも手が痺れて握れない。
くそっ、煮るなり焼くなり好きにしやがれ。
と思っていたのだが、片腕のネクロマンサーは何もせずに踵を返すとスタスタと離れていく。
「おっ、おい、命は取らないのか? 」
すると足を止めて振り返った。
「お前は伝令役だ。私の財宝を狙うなど無駄だという事を知らせるのだ」
「……俺たちは所詮捨て駒だ。伝えても諦めないだろうが」
「それならそれで良い。その時はお前たちを喰らうまでだ」
「……わかった」
そしてなんとか本隊に合流した俺は、手当てされ同行する事に。そして弓矢対策に金属の大楯部隊と弓矢部隊を再編成して、数日後再度片腕のネクロマンサーと対峙するのだが。
片腕のネクロマンサーが手をこちらへ突き出すと、空間を埋め尽くす程の大量の火矢が片腕のネクロマンサーの周辺の空間から突如現れたかのようにして放たれる。それを前線で大楯を構えていた兵士たちが防いでいくが——そこからは乱戦であった。片腕のネクロマンサーから召喚された大量の兵士たちとの交戦。しかもその一人一人が強者で——
そしてまた俺だけが生き残ってしまうのだが、片腕のネクロマンサーは何故か俺だけを生かした。そのため逃げ帰った俺は、この圧倒的な戦力を持つ片腕のネクロマンサーの歌を作り吟遊詩人として世界を旅して回った。




