第3話、リリーは行動する
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ここはダンジョンの最下層の一つ上の階層にある、マスターの埃っぽい屋敷内です。そして私はここで働いていますが、一日の始まりは朝食作りからなのです。と言っても不死者であるマスターと眷属になった私は食事をしなくても死なないのです。でもお腹は減るので私はご飯を作ります。
「はい、マスター、席について下さい」
「やれやれ」
長い髪にパーマのかかった美しい女性、マスターが嫌々ながらも席についてくれます。
ちなみにここに来た当初、お腹の限界がきた私はマスターに頼んで食事を作る許可を頂きました。そしてマスターに貴重だというDPを消費して食材を出して貰い、カレーライスを作ったのですけど——
匂いに誘われて顔を覗かせるマスター。一緒に食べましょうと誘い共に食事をする私たち。それからというもの、マスターは嫌々ながらも朝と夕、ご飯を作れば一緒に食べてくれるようになりました。
そうそう、マスターのお名前を聞いた事があったのですけど、たとえ眷属でも本当の名前は他人には教える事が出来ないそうで、そのためなんとお呼びしてよいのかわからなくて困っていると『マスター』と呼ぶように言われました。
朝食の後は洗濯です。服の洗濯も当初、マスターが我々は汗をかかないから必要ないと言われていたのですけど、結構埃が付着していました。そこで洗う事になったのですけど、なんでもマスターはお風呂に入った事がないというではないですか! そのため身体も埃っぽくなっていたため一緒にお風呂に入る事に。やっぱりお風呂は、気分がリフレッシュして良いですよね。
そして洗濯が終わると屋敷の掃除です。雑巾がすぐ真っ黒になりますけど、何度も何度も水洗いをして拭いていきます。
そんな毎日が続いたある日、最初に出して頂いた食材が無くなりかけていたため、ダリアの街に買い出しに行く事になりました。なんでもダンジョンの範囲はダリアの街全体まで伸びているらしくて、マスターがゲートを開けば一瞬で街に移動出来るそうです。そこで街の路地裏に出入り口を作って貰った私は、出入り口でマスターが待ってくれる中、一人でゲートを潜ります。
そして買い物をしていくのですけど——
なぜかはわからないですけど、すれ違う人たちがたまに振り返って見てきます。
そう言えばマスターから街で目立つ事はするなと言われていました。
どどど、どうしよう? ……そうだ!
そこで私は、フードを深く被り近づかないと顔が見えないようにしました。でも買い物は楽しいですね。オマケなんかして貰ったし、気がつけばスキップなんかしちゃっていたりします。
そうして買い物が終わった私は、ゲートがある付近を目指して路地裏をテクテク歩いていると——
「よお姉ちゃん、ちょっと俺らと楽しいことでもしないかい? 」
知らない大きな身体の男の人が二人、私に話しかけてきました。そして私を挟み込むように移動すると、突然後ろの男の人が両手で私の口を塞いできました。
「んんんっ! 」
私がジタバタ抵抗していると、フードで隠していた顔が出てしまいました。すると目が合った正面の男の人が声を漏らします。
「……こいつは上玉だな」
そして目の前の男の人が乱暴に私の服を上から下に引き裂きます。
「ひゅー」
「たまんねぇ」
外気に曝された私の胸を見て、男の人たちが声を上げました。そのため涙が溢れてくるのですけど、男の人たちはそれから私に何もしてきませんでした。いえ、正確には何も手出しが出来なくなったのです。
「私が眷属に手を出されるのを、ただジッと見ているとでも思ったのか? 」
やったのは、いつの間にか私の隣に佇んでいた、マスターです。そして私の服を破った男の人の右腕が、関節部分でグルグルに捻れていきます。それから腕は捻じ切れて地面にボトッと落ちました。上がる悲痛な叫び。でも悲鳴もすぐに聞こえなくなりました。それは男の人の両目が潰れた後、頭が爆散したからです。私やもう一人の男の人、そして周囲の壁に血肉を撒き散らして。
また残りの男の人は、突然蹲ります。そして身体中から生えるようにして剣の切先が飛び出してきたためもがき苦しんだ後、そのまま五体がバラバラに千切れて絶命しました。
そこでマスターが私に視線を送ってきます。そしてその手にはフード付きの服が握られていました。
「これを着るがいい」
「あっ、ありがとうございます! そっ、それと助けて頂いて、ありがとうございました! 」
マスターはお礼を言う私に背を向けると、男の人たちの死体に向けて手を翳しました。すると死体だけでなくて血痕まで綺麗さっぱりなくなりました。
そして私の方へ向いたマスターは、どこか不機嫌そうです。
「……我が眷属で弱いのは、どうにかしないとだな」
「すすっ、すみません」
腕組みをしたマスターが、目を細めて私を見据えます。
「魔力回路を起動させないとだが……取り敢えず屋敷に戻るか」
「はい! 」
そうしてマスターがこの場にゲートを開いてくれたので、私たちは屋敷に戻りました。
「リリー、今からお前の魔力回路を起動させるから、その椅子に座るのだ」
えっ、なぜ私の名前をマスターが? 聞かれた事がないのに。
そんな疑問を抱いていると、その様子を見たマスターが口を開きます。
「……鑑定の魔法を使った時にだな」
「そそっ、そうなんですね」
そして用意された椅子に座ると、マスターが私の後ろに移動します。
というか、これからどんな事をするのでしょうか? ちょっと怖くてドキドキしてきました。
「お前の主になる魔力回路は、五番目の叡智の覚醒だという事はわかっている」
「……アジリティセンス」
「魔法使いのための魔力回路だが、これが起動し出すと様々な魔法が使えるようになるだろう」
「えっ、私が魔法を、ですか? 」
「そうだ」
「少し嬉しいかもです」
「……では始めるぞ」
背後に立つマスターが私の背中に手をかざします。すると背中が暖かくなってきました。そしてその暖かさは身体全体に広がっていきます。暖かい、でもそれよりなんだか不思議な感覚になります。なんだろう、この感覚。
「少し出力をあげるぞ」
「あっ」
思わず出てしまった自分でもビックリする艶めかしい声に、顔が赤くなってしまいます。でもこれって、なんだか身体が気持ち良くて、声が漏れてしまいそうです。
「んっ、んんっ、うくっ」
そしてその感覚が快楽であると気づき、また快楽という名の電流が身体中を駆け巡る中、マスターの声が聞こえました。
「終わりだ」
「あの、ありがとうございました」
「あとは魔法を学ぶだけだが……お前に魔法の先生をつけてやろう」
その言葉の後、床に魔法陣が浮かび上がると、男性の魔法使いと女性の僧侶が跪く形で現れました。
「これから毎日、この二人から好きな魔法を学ぶと良いだろう」
「わかりました! 」
それからというもの、私は精霊魔法と神聖魔法を勉強するようになります。そして十年経った頃には、魔法のアレンジで様々な固有魔法を作り出すまでになりました。そうして屋敷の隣の敷地に街で購入した食材の種を植えると、魔法で成長させ自給自足するようになるのでした。




