第2話、貴族の嗜み『鬼ごっこ』
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ここは薄暗いダンジョン『宝物庫』。そして奴隷であり若い女性である者たちから、悲鳴がいくつも上がる。それは俺様が手にした剣で、女性たちを追いかけ回しているからだ。
俺様は退屈していた。生まれてから苦労一つした事がない、この土地の領主の跡取りでありながら、七つの魔力回路全てが機能している天才であるから。
ゲームは簡単なダンジョン内での鬼ごっこ。ただし一度捕まった者はすぐに殺さず、脚の腱を切断する。そのため天才であるにも拘わらず慈悲深いときたものだと、奴隷共は泣いて喜ぶ。そして一定時間待ってあげたあとトドメを刺しに、這いつくばるターゲットを探すという簡単なもの。
ちなみに七つの魔力回路が全て機能する事によって発現した俺様の能力は、『一等賞』。対峙する相手が強ければ強いだけ、俺様はその相手より頭一個分強くなるという能力。
そうそう、ダンジョン内は時折強力なモンスターがスポーンする事があるから騎士団を引き連れてこの階を最初に制圧しているが、部下たちはゲームに参加させていない。
それは新記録がかかっているから。二十人の奴隷をどれだけ早く狩る事が出来るのかの。しかし前回は失敗してしまったな。あのリリーと名乗った少女の逃げ姿があまりにも扇情的で、足腰立たなくなるまで可愛がってしまったため記録を塗り替えられるはずだったのに、結果ワースト記録になってしまった。
そこで奴隷の一人を見つける。ショートカットの奴隷の女も俺様に気がつき逃げ始める。
んっ、この感じ、中々に身体が軽くなったぞ。つまりこの奴隷はそこそこ鍛えられているわけだ。
しかも活発そうな俺様好みの顔でもあるな。
うううぐっ、どうしよう?
でもコイツを楽しんでいたら時間が——
……いいか、これだけ興奮する場面は中々出会えないからな。今回は特例、前回の反省も踏まえて他の逃げ回っている女たちは部下たちに任せよう。
「レードルド、あいつ以外はお前たちの好きにして良いぞ」
その俺様の言葉に、部下たちが沸き立つ。そして騎士団のメンバーが獲物を求めて、ダンジョン内に散っていった。
さてと、俺様も楽しむか。それから暫くしてアリアと名乗った女を追い詰めると、ベルトを緩める。そして無理矢理行為を行った俺様は、剣を心臓に刺し込んだ。そのため涙を零して絶命するアリアを見て、気分が高揚する。
とそこで俺様の背後に気配が。振り返ればウェーブのかかった長い髪のそこそこ顔が整った女が立っていた。そして息を飲んでしまう。それは部下たちの胴体から切り離された頭部が、女の周辺にぷかぷか浮かんでいたから。
コイツがやったのか?
それにかなり俺様の身体が軽くなっているのを感じる。……コイツで間違いない。コイツは俺様の敵だ。そして周囲の気配を探るが、敵は一人だけのようだ。
そこで剣の切先を地味子に向ける。
俺様の能力、実は弱点がある。それは複数人の相手をする時だ。それは複数人であっても俺様は一番能力が高い奴より少し強くなるだけであって、複数人分の能力アップはしない。しかし逆に言うなら、一対一では負け知らずの能力。なんたって、相手より俺様は全てにおいて能力が上だからな。
くくくっ、この地味子は手足を切り落としてから尋問するか。誰の差し金で俺様の命を狙ったのかを。
そして駆ける、地味子に向かって。そうして俺様は棒立ちの地味子に突きを出そうとしていると、地味子の周辺の空間が揺らめいたような気がした。
目の錯覚?
いや、これは腕!
地味子の身体の前の空間が八箇所揺らめき、そこから槍を握りしめた腕が、空間から生えるようにして現れた。そのため八本の槍をこの身体に受けてしまった俺様は、勢いそのまま貫かれそのまま上方へ持ち上げるようにした辺りで固定される。
「ぐふっ」
急速に力が抜けていく中、眼下の地味子の左腕がない事に気がつく。まさか、コイツは噂の不死者なのでは?
しかしその疑問が湧いた辺りで、俺様の意識が無へと手放されてしまう。
そこで目が覚める。
なんだ? なにか悪い夢でも見ていたような——いや、俺様は殺された。あの地味な印象の女に。
どういう事だ? それに先程から足が動かない。これは足の腱が切られている。
「多くの者がお前に恨みを持っている。だからこの場を設けた」
その声がする方へ顔を向ければ、あの地味子がいた。そしてもう一人、若い女性、あれは、さっき頂いたアリアなのか?
アリアは手に剣を握りしめている。
「殺してやる、殺してやる! 」
そしてアリアが飛びかかってきた。俺様の腕に沢山の傷が刻まれていき、腕が使い物にならなくなると、顔や腹にも傷が増えていく。
「死ね、死ね、死ね! 」
そこで目が覚める。目の前には地味子と別の女の姿が。俺様は……。それに足は動かないがその他の部分は傷が消えていた。
「順番が閊えているからな、次の魂の番だ」
それから俺様はこのやり取りを、何度も何度も経験する事になる。地味子と憤怒の表情を貼り付かせている俺様が殺した女どもが次々と現れ、そのため萎縮してしまいその場から逃げようとするが——
それから何度も同じ時を繰り返すのだが、——現在、女が追ってくる気配がない。どうしてかと思い振り返るとあの極上の女、リリーが怯えた様に立ち竦んでいた。
◆ ◆ ◆
憎い、憎くてたまらないけど、怖い。私はあの男が怖い。だから復讐なんて出来ません。
冷たく重い剣を手放すと、地面にへたり込みます。
すると男の目が私を殺した時と同じ色に染まります。そして這って地面に転がっている剣を掴もうとするのだけど——
「少女よ、復讐はしなくて良いのか? 」
女の人の声がしました。
「私は、私は……出来ません」
「そうか、お前で最後なのだがな」
男が剣を引き寄せ、私に向かって振り下ろそうとします。そこで目を閉じてしまうのだけど——私に剣が振り下ろされる事はありませんでした。そっと目を開けると、女の人の隣に知らない魔法使い風の男の人が立っていて、男は剣を振り上げた状態で炎に包まれています。男はジタバタもがいていたけど、しばらくすると動かなくなりメラメラとその場で燃え続けました。
「さて、どうするか? このままでは取り込めないし、すぐに崩壊してしまうからな」
女の人が私を見ながら言葉を落としました。
「お前はどうしたい? 」
その問いに私は咄嗟に口から言葉を出していました。
「やり直したい、生きる事をやり直したい」
沈黙、そして女の人は困った表情になり手を顎に当てます。
「……私について来るか? 」
「はい、雑用でもなんでもしますから! 」
そう言わないと殺される気がしたため、私は力強く言いました。
「そうか、そしたら口を大きく開くんだ」
「こっ、こうですか? 」
言われるまま口を開くと、女の人が拾い上げた剣を使って自身の太ももを斬ります。その行動に呆然としていると、太ももから流れる血が空中に浮かび小さな球体となりました。そしてその球体が私の口の中に飛び込んできたため、思わず飲んでしまいました。
「けほけほっ」
「成功して馴染めば、お前は私と同じになる。それとお前が選んだ事、……後になって恨むなよ」
それから全身が焼けるような激痛に襲われるのですけど、四つん這いになって耐えていると次第に痛みが消えていくのでした。
あれっ、私の髪の毛が長くなっている? それに肌の色が茶褐色になっていますし、胸も大きく——
次の話は一週間以内にアップ出来ればと考えていますデス(^^)




