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不死者のダンジョン  作者: 立花 黒


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第1話、これは呪い

 長い年月生きてきた私であるが、霧がかかったように思い出せる記憶は少ない。その中で最古の記憶は、街を無邪気に駆ける少年の身体であった。しかしあの蓄積された闇が弾けた強烈な瞬間、ダンジョンが生まれた瞬間、私は左腕を失った。

 それからはまるで枯渇した樹木の根が水分を吸い取るように、それがこの世に生まれてきた目的であるかのように、ダンジョン内でDP(ダンジョンポイント)を欲して生きてきた。頭をフル稼働させ、この手を汚し、多くの命を喰らいながらも。


 そして現在は昔と全く変わらない、子供や女性がもののように扱われ、ゴミのように散っていく時代——


 黒髪の成人男性である今の私は、このダンジョン『宝物庫(ほうもつこ)』で多くの者の命を刈り取り、また刈り取った命を召喚する存在で有り続けている。巷では『片腕のネクロマンサー』と恐れられている。そして私は刈り取った命と同等に、多くの者から命を狙われていた。

 それは復讐に燃える者や私が生み出した財宝を狙う者。


 そして私の目の前で対峙する、グルグル眼鏡をかけ長い髪にパーマのかかった地味な印象の女も、私の命を狙う者たちの一人だろう。


 しかし私にとって命のやり取りとは、実につまらない行為であった。それは必ず勝つのは私であって、敗者という言葉は相手のためにある言葉だからだ。勝負の決まったゲームほどつまらないものはない。

 だから私はいつもの台詞を相手に向けて述べる。


「……命のやり取りをしない事は出来ないか? 」


 すると女の眼鏡の奥の瞳が狂気の色に染まる。


「ふふふはっ、君は獲物を前にして、お預けをされても、聖職者のように自身を律する事が、出来るのかな? 」


 話は通じないみたいだ。まぁ、か弱そうに見える女だが、私を探してわざわざこの階層まで降りて来たほどの人間。私を殺す動機の強さと戦闘面の強さは申し分なしといったところだろう。

 ……仕方ない。


「では、始めようか」


 私は次々と頭の中で呪文を構築しては解き放っていく。すると地面に大小様々で多くの魔法陣が浮かび上がり、地面から私の眷属たちが姿を現し始める。数百年も前に西方の剣聖と謳われた騎士に、勇者を名乗っていた者を含む四人組の冒険者パーティー。そして人間の子供が大好物だった魔竜ナイトメア。その他にも数の暴力で圧倒するため、百程度の歴戦の猛者である不死の兵士たちをこの場に召喚していく。

 対する女は無手のまま無防備に佇んでいた。かに思えたが、右腕をさっと私に向けて伸ばした。瞬間私の頭が勢いよく横回転して前後が真逆になる。そのため首を捻じ折られた私の視界が自身の背中を見つめている状態に。

 ……これは念動力。

 そこで女の嬉々とした声が聞こえてくる。


「召喚士は、大元の召喚者を倒せば、済む話」


 私はその言葉を聞き流しながら、呪いが発動した事を確認する。その呪いによって首が元あった形に戻り、頭も女を見据える位置へ移動する。


「……不死者というのは、本当だったか」


 目を丸くして言葉を零す女に向けて、私は言葉を落とす。


「すぐに終わらせてやる」


 私が右腕を上へ上げると、それを合図に怒号を上げながら全ての兵士が女を蹂躙するために我先にと突撃を開始する。

 そこで女が手を真横に振るった。するとその直線上にいた多くの兵士たちが首をへし折られてその場に崩れて落ちていく。

 しかしその攻撃の一瞬をつき、煌めいていた。剣を振り切った形で既に女の後方に移動している、剣聖の剣筋が。だが捉え頭を跳ね飛ばしたと思っわれた攻撃は、完全に防がれていた。見えない防御壁。あれも恐らく女の念動力によって作られた物か。


 女、かなり強いな。しかし今ので本気にさせた我が眷属たちの、怒涛の攻撃は防げるかな?

 ダンジョン内と言う狭い空間という事もあって空を羽ばたけないが、ナイトメアがその場で鼻から膨大な空気を取り込んだ後、大きな顎を開け灼熱の熱線を女に向けて発射した。無差別に直線上の兵士たちを火だるまにするその攻撃を、最初は躱さずにいた女であったが次第に高まる熱量に女が初めてその場から大きく真横へステップを踏んだ。そしてその後も女は、私に向かってステップを踏んでいく。しかも私と女の間に立ちはだかる兵士たちを、きっちり蹴散らしながら。しかしナイトメアも角度を変えて、逃げる女に向けて執拗に熱線を浴びせようとする。そのため辺りは火の海となり、多くの兵士たちが巻き添えになるが——


 剣聖の準備が完了した。七つの魔力回路をフル稼働させ闇の闘気を身体に浸透させたのだ。そして勇者パーティーの僧侶が、勇者と戦士に雷属性の加護を付与させる。また魔法使いが二人に極太の雷魔法を放つ事により、多くの雷を二人に纏わせる荒技をやってのける。

 そしてナイトメアの熱線をかいくぐり、剣聖と勇者と戦士の三人が動く。スピードに乗った戦士の重い斧の振り下ろし攻撃により、防御壁を展開するもそのまま女は片膝をつく。そこへ勇者が纏っていた雷を纏わせた状態で雷魔法を放つ。その指一本分までに圧縮された雷撃が女の防御壁を突き破り女の左腹部を捉えた。

 傷を負った腹部を押さえる女。

 そこで剣聖が女の懐に潜り込んでいた。繰り出される突き攻撃。それも防御壁の先、女の腹部を捉えていた。


 あいつら、すぐに命を取らないところから、また遊んでるな。少しでも長く戦闘を楽しむため。


「ふっ、ふざけるな! 」


 そこで女が吠えた。間近で剣を引き抜きもう一度突き攻撃を出そうとする剣聖を無視して。遠くで成り行きを見ていた私を見据えて、腕を突き出した。その鼻から血を垂れ流しながら。


 瞬間耳鳴りがする。歪む景色。そしてどろりと血の涙が流れ、吐き気を催した後の、全身の激痛。そうして私は四方八方へ血肉を撒き散らすようにして爆散していた。

 これは今までにない強力な念動力。恐らく自身の寿命を多く削る、連発は出来ない、女の奥の手、最終奥義。


 そして私という召喚者を失った事で、強制的に無へと溶けるように還っていく眷属たち。


「ふふふはっ、いくら不死者でも跡形もなくなれば生きていられまい」


 腹部を押さえながら、その場で尻餅をつき高笑いをあげる女。

 しかしこの私をここまで追い詰めるとは、女、中々の腕前であった。しかし追い詰めただけの行為である。

 そう、身体を失った私はそれがトリガーとなり、呪いが発動していた。私の魂は拠り所を失うと、近くにいる人間の身体を強制的に奪い取る、強力な呪いが施されている。死ぬ事が許されない、呪い。超常なる者の想い。


 高笑いを上げていた女が、苦しそうに声を漏らし始める。


「ぐっ、ぐがっ、っっっこの、出ていけ! 」


 空間に溶け込んだ私が、女の身体に侵入を開始していた。

 そしてしばらく苦しんでいた女は、私に乗っ取られる事により静かになり、魂がこの世から消えた。そして私が女になった際、女の左腕がひび割れた後に崩れ落ちる事により、元の身体と同じように片腕を失った。

 しかしこの念動力があれば、片腕が無くても今までのように不自由はしなくても良さそうだな。そしてこの眼鏡は鑑定の魔道具であったか。それならば私に眼鏡は必要ない。

 そうして私はグルグル眼鏡を投げ捨てた。

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