第26話「どうしても南へ行きたいんだ…㉔『”夕霧谷”上空に展開する疑似結界!! 敵か味方か!? ライラ&バリー襲来!』」
「だが風祭さん。『疑似結界』でヒッチハイカーを閉じ込められるのはありがたいが、本当にそんなことが可能なんだろうか?」
風祭聖子の説明を聞き、誰もが胸に抱いていた疑問を代表して、鳳成治が口にした。
『ええ。ヒッチハイカー相手にも有効なはずよ』
聖子は迷いなく言い切る。
『そう断言できるのは、この技術が”人外”に対して有効だと、すでに実証済みだから』
その声音には、揺るぎない自信があった。
「その実証というのは……まさか」
『ええ。そのまさかよ、鳳さん』
聞こえてくる聖子の声はどこか楽しそうだった。
『この”疑似結界”は、うちの所長を相手に実験したの』
「……無茶苦茶する人だな、あなたって」
呆れたように鳳が言うと、聖子は鼻を鳴らした。
『そうかしら? 失敗しても、うちの所長はちょっとやそっとじゃ死なないもの。つくづく不死身って便利だと思ったわ』
さらりと言ってのけるその楽しげな声に、その場の全員が同じことを思った。
――この女性のほうが、不死身の獣人探偵・千寿理より、よほど恐ろしいのではないか。
『あら、所長も笑いながら協力してくれたわよ』
「それって……千寿さん、苦笑いしてただけじゃ……」
『黒鉄の翼』で話を聞いていた伸田伸也が、ぽつりと漏らす。
その一言に、一同は思わず吹き出した。
聖子自身も声を立てて笑う。
『オホン! ともかく結果として、千寿所長は”疑似結界”を通り抜けられなかったわ。人間の私は平気だったけどね』
「おお……!」
今度は感嘆の声が上がる。
『ロシナンテ』後部座席の県警SIT(Special Investigation Team・特殊事件捜査班)所属の島警部補などは思わず拍手まで始めたが、隣の皆元静香と目が合い、慌てて手を止めた。
探偵事務所の所長と秘書自らが人体実験(?)を行い、その当事者が平然と結果を語っている。
これほど説得力のある実証もない。
「……無茶苦茶する人たちだ」
島が誰にも聞こえないほど小さく呟く。
しかし、その声だけは隣の静香に届いてしまい、彼女は吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
『それじゃあ、今から”ロシナンテ”へアプリをアップロードするわ。このアプリを使えば、搭載されている携帯型電磁波発生装置――携帯型と言ってもかなり大きいけど――から特殊な電磁波を発生できるようになるの。
有効範囲は半径約五百メートル。制限時間は五分。それ以上は大出力バッテリーがもたないわ』
聖子は一呼吸置き、続ける。
『そして”黒鉄の翼”からは、”疑似結界”を形成するための超音波を上空から照射する。”ロシナンテ”の電磁波と黒鉄の翼の超音波が干渉し合うことで、一定範囲に”エネルギーフィールド”が発生するの。
その力場は、魔族や妖怪のような”人外”には通り抜けられない壁となる。それが”疑似結界”よ』
説明を終えた聖子は全員を見回した。
「……わかった?」
返事はなかった。
難解な技術説明を、一度聞いただけで理解できた者はいなかった。
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同じ頃――。
ヒッチハイカーを追う飛妖『野衾』と白虎、そして伸田を乗せた『黒鉄の翼』とは別方向から、一機のヘリコプターが『夕霧橋』へ向かっていた。
機体は雪山用迷彩で全身を覆われ、レーダー波吸収塗装まで施されている。
『黒鉄の翼』と同じステルス化されたヘリだった。
機体は特殊作戦仕様の『UH-60 ブラックホーク』。
その機内では、英語によるやり取りが交わされていた。
「ミズ・ライラ。まもなく祖土牟山と醐模羅山に挟まれた『夕霧谷』へ到着します。
我が機関の秘密偵察衛星『イーヴィルアイ』は、この地域で複数回の爆発炎を確認しています。
現在、国道は風雪災害を理由に封鎖されていますが、本部によれば、実際には日本警察と特務機関による合同作戦が展開中とのことです」
「分かった」
女は短く頷く。
「今回の作戦の目標――コードネーム『ヒッチハイカー』は、その地域にいるようね。
このままサイレントモードで接近しなさい」
「ラジャー!」
ライラと呼ばれたその女は、息をのむほど妖艶な美女だった。
身体のラインを際立たせる黒いレザージャケット。
大胆に開いた胸元からは豊かな谷間が覗き、黒いレザーパンツに包まれた長い脚は、まるでモデルのような均整を誇っている。
国籍は不明。
だが、南米系と思われる褐色の美貌は、一度見た者の記憶から決して消えないだろう。
まとめ上げた黒髪が、その妖しい色香をさらに引き立てていた。
彼女の姿を見れば、男なら思わず振り返ってしまう。
ヘリの搭乗員たちも、その妖艶な美貌から目を逸らすようにしていた。
「さあ、バリー。いよいよアタシたちの出番よ」
ライラは妖しく笑う。
「日本側は『ヒッチハイカー捕獲作戦』を進めているらしいわ。しかも裏では内調の『特務零課』まで動いている。
ボスの鳳成治本人も現場入りしたそうよ」
赤い唇が、ゆっくりと吊り上がる。
「でも、誰が相手でも同じこと。
邪魔をするなら――皆殺しよ。」
ヘリ後部。
乗員席三つ分を埋めるほどの巨大な男が座っていた。
照明を落とした機内では、その姿は闇に溶け込んでいる。
しかしライラも、その巨漢も、暗闇をまるで昼間のように見通していた。
「ブモォォッ!」
牛のような唸り声が返る。
影の奥で、巨漢は嬉しそうに笑っていた。
「そんなに嬉しい?」
ライラはくすりと笑う。
「でも忘れるんじゃないわよ。
今回の目的はコードネーム『ヒッチハイカー』の回収。
生死は問わないけど”殺す”ことじゃない。」
「……ブモゥ」
二メートルを優に超える巨体とは裏腹に、その返事は妙に素直だった。
人語を話さないのか、それとも話せないのか。
どちらなのかは分からない。
「それでいいわ」
ライラは妖艶な笑みを浮かべる。
「ただし、任務を目撃した者は例外よ。
全員――元の形も分からないくらいバラバラにして構わないわよ」
悪魔のような微笑みとともに、彼女は片目を閉じた。
「ブモォォォッ!」
歓喜の雄叫びが吹雪の中へ吸い込まれていく。
照明を落とし、雪山迷彩をまとった特殊作戦仕様の『UH-60 ブラックホーク』は、ローター音すらほとんど響かせぬまま、吹雪に溶け込むように『夕霧橋』へ接近していった。
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「む……?」
飛妖『野衾』の背に乗った白虎が耳をぴくりと動かした。
「今、どこかで聞き覚えのある嫌な叫び声が聞こえた気がしたが……吹雪の音か?」
鼻先をひくつかせ、周囲の気配を探る。
「……いや、違う。嫌な予感がどんどん強くなりやがる。全身の毛が逆立つような気配だ。
野衾、急げ!」
「ぎぃやあああっ――!」
野衾は鋭く鳴くと、背に白虎を乗せたまま四肢間の飛膜を大きく震わせ、限界まで速度を上げた。
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「いた、いた、いた~っ!
あの車にシズちゃんが乗ってるんだな!」
『夕霧橋』上空へ到達したトンボ型の怪物・ヒッチハイカーは、地上の『ロシナンテ』を見つけるや否や、一直線に急降下を始めた。
「俺の大事なヨメさんと、腹の子どもを取り返すぞ!」
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『ヒッチハイカーが”ロシナンテ”上空に到達! 急降下してきます!』
AI『ロシーナ』の鋭い警告が車内に響く。
『今よ! 鳳さん、打ち合わせどおりに!』
「了解!」
鳳成治はカーナビ画面に表示されたアイコンへ指を走らせた。
「電磁波放射!
EMFF(Electromagnetic Force Field:電磁力場)、展開開始!」
次の瞬間――。
『ロシナンテ』の車体脇に設置された電磁波発生装置が唸りを上げ、目には見えない高出力電磁波を真上へ放射した。
「きゃっ!」
車体が細かく震え始め、静香が思わず悲鳴を漏らす。
車内の誰もが息をのみ、緊張したまま事態を見守った。
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「うおっ!? 何だ!」
急降下していたヒッチハイカーは、本能的な危険察知によって、下方から放たれた電磁波を間一髪でかわした。
直撃しても死にはしない。
だが、その巨体は吹き飛ばされていたはずだ。
ヒッチハイカーは降下を中断し、四枚翅を震わせながら空中で静止する。
眼下を警戒するように見下ろした。
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『いいわ、そのまま包み込む!』
風祭聖子が指示を飛ばす。
『電磁波発生器を中心に半径二百メートルへ出力調整!
全周囲へドーム状に展開しなさい!』
『ラジャー!』
ロシーナが即座に応じる。
目には見えない電磁波が、『ロシナンテ』を中心に巨大な半球を描くように広がっていく。
上空約百メートルで様子をうかがっていたヒッチハイカーも、その内部へ完全に閉じ込められた。
だが、そのドームは風も雪も遮らない。
猛吹雪は変わらず渓谷を吹き荒れ、雪は舞い続ける。
『ロシナンテ』のフロントガラスにも雪が次々と張り付き、ワイパーだけでは追いつかない。
「……何だ?」
ヒッチハイカーが顔をしかめた。
「この押さえつけられるような気持ち悪さは……」
見えない圧力が全身を包み込み、この極寒にもかかわらず額にはうっすら汗が浮かんでいた。
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『”ロシナンテ”上空に到着したわ、伸田君。みんなも聞いて』
黒鉄の翼から、風祭聖子の声が響く。
『ヒッチハイカーは、地上から展開した電磁波ドームの中にいる。
ここへ”黒鉄の翼”から特殊な超音波を照射する。
電磁波と超音波が重なった領域こそ、”疑似結界”。
その中に閉じ込められた人外は、決して外へ逃げられない』
聖子は一度言葉を切った。
『ただし制限時間は五分。
電磁波発生器のバッテリーが限界を迎える前に決着をつけるわ。
――超音波放射!』
目には見えない超音波が『黒鉄の翼』から放たれる。
操縦席の伸田は、機体を伝わる微かな振動で、その発射を感じ取った。
地上から放射された電磁波。
上空から照射された超音波。
二つの力が完全に同期した瞬間――。
『ロシナンテ』を中心とする半径二百メートルに、巨大な『疑似結界』が完成した。
『超力場――”疑似結界”完成!』
AI『ロシーナ』とAI『スペードエース』が、地上と上空から同時に宣言する。
その場にいた全員が息をのんだ。
本来、電磁波も超音波も目には見えない。
しかし、重なり合った二つの力は、淡いエメラルドグリーンの光をまとい、巨大なドームとなって姿を現したのである。
「……綺麗」
静香が思わず呟く。
「オーロラみたい……」
「本当だ……」
隣の島も、思わず見入っていた。
「疑似結界って……目に見えるんだ……」
夜明け前の『夕霧谷』。
祖土牟山と醐模羅山に挟まれた『夕霧谷』へ、自然界には決して存在しないエメラルドグリーンの巨大なドームが静かに広がっていく。
その幻想的な光景に、その場の誰もが一瞬だけ戦いを忘れ、ただ静かに見入っていた。
********
「ぐえ……? な、何だ、この綺麗な緑色の……オーロラみたいなのは?」
肉体はすでに完全な魔界の怪物へと変貌していたヒッチハイカー。
だが、その知性だけは人間だった頃のまま残っていた。
だからこそ、自分を閉じ込める牢獄を、美しいと感じてしまった。
それは何とも皮肉な感傷だった。
「あ……あのオーロラみたいなの……触れるのかな?」
愚かなことに、ヒッチハイカーは目の前に広がる幻想的な光景へ、子どものような好奇心を抱いてしまう。
静香を奪い返すという本来の目的さえ忘れたかのように四枚の翅を羽ばたかせ、頭上を覆うエメラルドグリーンのドームへ近づいていった。
その姿は、誘蛾灯へ引き寄せられる羽虫そのものだった。
ジジジジジ……
結界へ近づくにつれ、その表面が細かく波打っているのが見えてきた。
壁というより、半透明に輝く一枚の膜。
絶えず震えながら、高周波にも似た音を発している。
それを見つめるうちに、ヒッチハイカーは本能的な嫌悪感を覚え始めた。
――気持ち悪い。
それでも恐る恐る、人間の形をした右手を伸ばす。
指先が、光の膜へ触れようとした瞬間――。
ビシッ!
「うわっ!」
火花が散った。
オレンジ色の電光が指先を走り、ヒッチハイカーは慌てて手を引っ込める。
「何じゃ、こりゃあ!?」
驚愕に目を見開く。
二度と素手では触れまいと判断した彼は、別の方法を試した。
「これで、どうだ!」
トンボのような細長い胴体の先端を持ち上げる。
次の瞬間、猛毒の溶解液を弾丸のように四発撃ち放った。
ドドドドッ!
ジジッ! ジジジッ! ジュッ!
四発の溶解液は結界を貫くどころか、光の膜に触れた瞬間、ことごとく弾き返された。
さらに高熱にさらされた水滴のように、一瞬で蒸発して消えてしまう。
「お、俺は……」
ヒッチハイカーの顔から血の気が引いた。
「このオーロラみたいな光の壁に……閉じ込められたのか……?」
ようやく、自分が置かれた状況を理解する。
その瞬間、胸の奥から込み上げてきたのは怒りではない。
恐怖だった。
「ひっ……ひぃっ!
ど、どうなってんだあああぁぁっ!!」
********
『成功しました! ”疑似結界”はヒッチハイカーに有効です!』
AI『ロシーナ』とAI『スペードエース』が、弾んだ声でそれぞれの乗員へ報告した。
隠密偵察型ステルスドローン『ハミングバード』は、結界の外からヒッチハイカーを撮影し続けている。
その映像はリアルタイムで『ロシナンテ』と『黒鉄の翼』へ送られ、誰もが結界の中で狼狽するヒッチハイカーの姿を確認できた。
「やった!」
「やりましたね!」
『ロシナンテ』内では島が、『黒鉄の翼』内では伸田が、ほぼ同時に歓声を上げる。
「これでヒッチハイカーは、もう『疑似結界』から逃げられない!」
島は思わず隣に座る静香の右手を両手で握った。
静香も微笑みながら、その手をぎゅっと握り返す。
だが――。
「だから、どうした?」
冷ややかな声が車内へ響いた。
運転席に座った鳳成治だった。
「え……?」
喜びに水を差された島が戸惑う。
『そのとおりよ』
通信越しに風祭聖子が続ける。
『疑似結界は、あくまでヒッチハイカーを閉じ込めただけ。何一つ解決していないわ。
しかも電磁波発生装置の制限時間は五分。残り時間は、もう四分しかない』
その一言に、車内の空気が一変した。
誰もが思い出す。
疑似結界は武器ではない。
人外を閉じ込めるための檻に過ぎないのだ。
鳳がさらに言葉を重ねる。
「そして唯一、進化したヒッチハイカーを倒せる白虎は、今どこにいる?
白虎も野衾も『人外』だ。
結界の外から中へ入ることはできない」
歓喜は、一瞬で消え去った。
車内にも機内にも重苦しい沈黙が落ちる。
『そうなの……』
聖子も苦い声で続けた。
『うちの千寿所長ですら結界を通れなかったのよ。
純粋な妖怪である野衾なら、なおさら無理ね』
鳳は静かに問いかける。
「風祭さん。この疑似結界は、陰陽師が張る本物の結界のように、人外の妖力までは封じられないんだね?」
『ええ』
聖子は小さく息をつく。
『これは、人外を通さない壁や檻を人工的に再現しただけ。
妖力を封じるほどの力はないわ。
本物の結界には遠く及ばない……それが今の私の限界よ』
「いや」
鳳は首を横に振った。
「そこまで卑下する必要はない。
ヒッチハイカーを足止めできる。
それだけでも十分、大きな成果だ」
慰めのつもりなのだろう。
しかし、その場にいた誰もが「それでは慰めになっていない」と思っていた。
『……とにかく』
聖子は気持ちを切り替える。
『白虎には期待できない。
となると、ヒッチハイカーを倒せる戦力は限られるわね』
「ああ」
鳳が頷く。
「『黒鉄の翼』は結界維持のため、その場を動けない。
『ロシナンテ』は戦えるが、空を自在に飛ぶヒッチハイカーには到底追いつけない」
再び沈黙が流れる。
その静寂を破ったのは、聖子だった。
『……一つだけ方法があるわ』
全員が息をのむ。
『ただし、それには伸田君――あなたが文字どおり命を懸ける覚悟を決めなければならない』
「え……?」
操縦席で俯いていた伸田は、自分の名を呼ばれ、思わず顔を上げた。
「ぼ、僕ですか?」
『そうよ。
白虎が動けない以上、ヒッチハイカーを倒せる可能性があるのは、あなたが持つ”ヒヒイロカネの剣”と”式神弾”だけ』
「でも……」
伸田の顔から血の気が引いていく。
「『式神弾』は、あと一発しかありません……」
『だからこそよ』
聖子は迷いなく言った。
『その一発に賭けるしかない。
あなたの百発百中の腕前を信じるしか方法はないの』
「無理ですよ!」
伸田が声を荒らげる。
「あんな化け物が相手なんですよ!?
あれだけ自由に飛び回る相手に、一発で命中させろなんて……そんなの無茶です!」
その叫びは悲鳴にも近かった。
「ノビタさん……」
『ロシナンテ』では静香が胸の前で両手を組み、祈るように恋人を案じていた。
『そう……』
聖子の声が静かになる。
『そんな弱音を吐くあなたには無理かもしれないわね。
なら静香さんはヒッチハイカーに渡すしかない。
残念だけど、諦めなさい。
鳳さん、別の方法を考えましょう』
「待て!」
伸田が叫ぶ。
「ふざけるな!
誰がシズちゃんを諦めるなんて言った!」
喉が裂けそうな勢いで叫ぶ。
「彼女は……僕が何としても守る!」
その言葉を聞いた静香の瞳に涙が浮かぶ。
震える唇を押さえながら、モニター上に映る恋人を見つめていた。
『……分かった』
聖子の声が少しだけ柔らかくなった。
『その覚悟があるなら、これから話す作戦に、あなたの命を賭けなさい』
それは試練だったのか。
それとも、伸田の覚悟を確かめるための問いだったのか。
少なくとも聖子の声には、わずかな安堵がにじんでいた。
そして彼女は、対ヒッチハイカー最終作戦を語り始める。
その内容は、誰もが息をのむほど大胆で、あまりにも危険なものだった。
********
「む……?」
『野衾』の背に乗り、『夕霧橋』へ急ぐ白虎が目を細めた。
「……あの緑色に輝くドームは、『疑似結界』か」
鋭い牙を覗かせ、不敵に笑う。
「さては聖子君だな。俺を待たず、独断で動き出したか」
白虎は楽しげに鼻を鳴らした。
「あれでは俺も中へ入れん。だが、そのぶん時間は稼げる。
さて……聖子君は、この状況をどう切り抜けるつもりだ?」
その声音には焦りよりも期待があった。
最も信頼している風祭聖子なら、必ず何かをやってのける。
そう信じているからだ。
「急げ、野衾!」
「ぎゃあああっ!」
野衾は一声鳴くと、吹雪を切り裂きながらさらに速度を上げた。
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「あれは何……?」
『夕霧谷』へ接近する特殊作戦仕様『UH-60 ブラックホーク』の機内。
窓の外に広がる巨大なエメラルドグリーンのドームを見つめ、ライラが目を細める。
「見て、バリー。
オーロラみたいに綺麗なドーム……」
「ブモゥ?」
巨漢のバリーは首を傾げるだけだった。
「ふふっ。いいのよ」
ライラは楽しそうに笑う。
「あんたに答えを期待したわけじゃないもの」
双子の兄でもあり相棒でもあるバリーの反応を見て、小さく肩をすくめた。
やがて、その視線が鋭くなる。
「あの方角が目標地点ね……気になるわ」
そして操縦席へ向かって命じた。
「急ぎなさい」
「ラジャー!」
ブラックホークは吹雪の中を音もなく進み続ける。
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役者は、揃いつつあった。
『疑似結界』に閉じ込められたヒッチハイカー。
決死の覚悟を固めた伸田。
間に合うかどうかも分からない白虎。
そして、新たに姿を現した謎の二人――ライラとバリー。
風祭聖子が託そうとしている最終作戦とは何なのか。
はたして――。
白虎の力を借りることなく、人間だけでヒッチハイカーを討つことはできるのか。
さらに、敵か味方かも分からないライラ&バリーは、この戦いにどのような波乱をもたらすのか。
物語は、いよいよ最終決戦へ。
すべての運命は、『夕霧谷』で決する――。
【次回に続く……】




