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ヒッチハイカー  作者: 幻田恋人


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第25話「どうしても南へ行きたいんだ…㉓『戦いの舞台は再び”夕霧橋”へ!”電脳世界の魔女”は、怪物を阻止出来るのか!?』」

「ちっ! 厄介な槍を持ち出しやがって! それに、あのお化けムササビも面倒だ……。


 もう、こいつらと戦うのはヤメだ! 俺はシズちゃんと自分の子を取り戻して南を目指す!」


 白虎が新たに繰り出した武器、魔槍(まそう)『妖滅丸(ようめつまる)』。


 その力によって、自らが手に入れた飛行能力に対する新たな脅威が生まれたことを悟ったヒッチハイカーは、白虎や伸田たちとの戦闘を放棄する決断を下した。


 飛行能力を得たとはいえ、進化の代償として、自身の不死身性は確実に弱まっている。


 これ以上、白虎との戦いを続ければ、自らの身を滅ぼしかねない――。


 そう危惧したヒッチハイカーの判断は、この期に及んで極めて合理的なものだった。


 彼はプライドを捨て、皆元 静香(みなもと しずか)と、その胎内に宿る新たな命を奪うことだけに目的を絞ったのだ。


「今回はこれぐらいにしておいてやるぜ! あばよ! 虎野郎!」


 負け惜しみにしか聞こえない捨て台詞(ぜりふ)を吐くと、ヒッチハイカーは空中停止飛行(ホバリング)していた『黒鉄の翼(くろがねのつばさ)』の周辺空域から離脱する。


 そして再び、『木流川(きながしがわ)』上流の『夕霧橋(ゆうぎりばし)』へ向かって飛び去っていった。


「逃がすかよ、トンボ野郎! 野衾(のぶすま)、来い!」


 白虎が命じると、『黒鉄の翼(くろがねのつばさ)』から少し離れた空中に浮かんでいた飛行妖怪『野衾(のぶすま)』が、そのもとへ飛来した。


 白虎は猫族特有のしなやかな身ごなしで、ひらりと『野衾』の背へ飛び移る。


「行け! 急いでヒッチハイカーを追え!」


 白虎が『野衾』に命じた、その時だった。


「待って下さい!」


 振り向いた白虎の視線の先には、『黒鉄の翼』の後部座席から外へ出てきた伸田がいた。


 狭い機体の上で吹雪に身体を大きく揺さぶられながらも、その表情には揺るぎない決意が浮かんでいる。


「バカ野郎! 今はグズグズしてられねえんだ! 一刻も早く後を追わなきゃ、空飛ぶ力を身につけたヒッチハイカーの野郎は『夕霧橋』に戻るつもりだ! そうすりゃ、お前の恋人がまたヤツに……」


 だが、その言葉を最後まで聞かず、伸田が遮(さえぎ)るように叫んだ。


「だから、僕が行くんです! 僕が恋人の静香を護る! 二度と彼女をヤツの手に渡すもんか!」


「だったら、お前は『黒鉄の翼』で来い。」


「駄目です! 『黒鉄の翼』じゃ小回りが利(き)かないし、搭載されてる武装も今のヤツには簡単に躱(かわ)されてしまう。そのムササビ妖怪に僕も乗せて下さい!」


 白虎は険しい表情のまま首を横に振る。


「お前……『式神弾(しきがみだん)』は残り一発なんだろ?


 ヒッチハイカーの野郎は、本物のトンボみたいに自由自在に空を飛ぶ能力を手に入れちまったんだ。残念だが、ハッキリ言って、お前がたった一発の『式神弾』でヤツにとどめを刺すのはもう無理だ。


 ヤツをこの山岳部から外の世界へ解き放つ訳にはいかねえんだ。後は俺に任せろ。」


「嫌です! ヤツのとどめは僕が……」


 伸田は懸命に白虎へ訴えた。


「甘ったれるな! もう、お前の個人的な感情に付き合ってなんかいられねえんだ!


 野衾、急げ!」


「ぎゃあああー!」


 白虎の命令を受けた飛行妖怪『野衾』は、雄叫(おたけ)びを上げながら『黒鉄の翼』を離れ、ヒッチハイカーの飛び去った方向へ向けて飛行を開始した。


 伸田は『黒鉄の翼』の機体上に取り残される。


 吹き荒れる吹雪に晒(さら)されながら、ただ一人、その場に佇(たたず)むしかなかった。


「僕が甘ったれか……。きつい言い方だよな……」


 白虎から投げつけられた言葉は、伸田の胸に深く突き刺さっていた。


 その時だった。


 伸田の背後から、AI『スペードエース』とは違う女性の声が響いた。


『そうじゃないんだったら、早く”黒鉄の翼(アイアンウイング)”の中にお入りなさい。そんなところに、いつまでも立っていたら凍(こご)え死んでしまうわよ。さあ、早く!』


 突然、『黒鉄の翼』の操縦席内部から聞こえてきた声に、伸田は振り返る。


 見ると、彼が座っていた後部座席側ではなく、白虎こと風俗探偵・千寿 理(せんじゅ おさむ)が座っていた操縦席側の前部キャノピーが開いていた。


 伸田は女性の声に導かれるように操縦席へ乗り込み、シートへ身を沈める。


『千寿所長は、これ以上あなたを危険な目に遭(あ)わせたくなかったのよ。だから、あんなきつい言い方をしたのね。

 彼の気持ちを分かってあげて』


 伸田が腰を下ろすと同時に、その女性は再び語りかけてきた。


 だが、その声は『黒鉄の翼』の完全自立思考型AI『スペードエース』のものではなかった。


「この声って、スペードエースの声じゃない……」


 首を傾(かし)げながら、伸田は操縦席でつぶやいた。


『そう、私は”スペードエース”でもAIでもないわ。風祭(かざまつり)聖子(せいこ)という生身(なまみ)の人間女性よ。今、私のいる事務所からの通信で、あなたに話しかけているの。


 私の職業は、新宿カブキ町の”千寿 理・探偵事務所”で働く秘書よ。そう、あなたもよく知っている、白虎こと風俗探偵・千寿 理の秘書をやっているの。


 今は詳しく自己紹介をしている暇はないけれど、その”黒鉄の翼(アイアンウイング)”も、人工知能(AI)”スペードエース”も、私と父が作ったものよ。”ロシナンテ”の人工知能(AI)”ロシーナ”もね。


 ふふふ。驚かなくてもいいわ。私は博士号を持つ科学者でもあるの。


 今夜、あなたが”黒鉄の翼”に出会ってからの出来事は、”スペードエース”を通じて、映像も音声もすべて私のいる探偵事務所へ送られてきているわ。


 それに悪いけど……伸田伸也(のびや)君、あなたのことも調べさせてもらった。だから、私はあなたのことを全部知っているのよ。


 さあ、”黒鉄の翼(アイアンウイング)”でヒッチハイカーと白虎たちを追うわよ。あなたは、そのつもりなんでしょ?』


 伸田は、風祭聖子と名乗った女性の話を、ただ口をぽかんと開けて聞いているだけだった。


 しかし、彼女の「追う」という言葉を耳にした途端、思考が一気に現実へ引き戻される。


「ええ、お願いします! ええっと、風祭……聖子さん……」


『ふふふ。聖子でいいわ、ノビタ君。


 じゃあ、飛ばすわよ! アイアンウイング(黒鉄の翼)、GO!』


 聖子の掛け声とともに『黒鉄の翼』が飛行を開始した。


 正直に言って、伸田は自分が置かれている状況を理解できたような、できていないような複雑な気持ちだった。


 だが、声だけとはいえ、この突然現れた風祭聖子という女性は、今の彼にとって救世主のような存在だった。


 白虎に置いていかれた自分を、『黒鉄の翼』と『スペードエース』の創造者だと名乗る女性が、理由は分からないまま追跡に協力してくれるという。


 今の伸田にとって、その申し出は、まさに渡りに船だった。


 彼は一も二もなく、彼女の申し出に飛びついた。


「はい!」


 操縦席に座ったとはいえ、初めて乗る伸田に『黒鉄の翼』を操縦できるはずがない。


 だが、彼の乗る機体は自動的にヒッチハイカーと白虎たちが飛び去った方向へ機首を向けると、ツインティルトローターの角度と回転数を調整し、徐々に速度を上げ始めた。


『安心していいわよ、ノビタ君。アイアンウイングは私が事務所から遠隔操縦してるの。加速するから、Gに注意して!』


(このテキパキと指示を送ってくる風祭聖子という女性……。


 千寿さんの秘書だって言っていたけど、いったいどういう人なんだろう……?


 でも……この際、彼女を信じるしかない。


 とにかく先行するヒッチハイカーや白虎さんに追いつかなきゃ……)


 そう思いながら伸田は、操縦席のフロントガラスに吹き付ける吹雪の向こうを見通そうとするように、闇の彼方へ鋭く視線を向けた。


     ********


「鳳(おおとり)さん……あの『妖滅丸』っていう、おかしな槍(やり)……。

 あ、あの槍から、あなたが言ったように本当に妖怪が出て来ました……。ですが、自分には、まだ信じられません……」


 『夕霧橋』近くに停車した『ロシナンテ』の後部座席。


 隠密追跡ドローン『ハミングバード』から送られてくるライブ映像を液晶モニターで見つめていた県警SITの島警部補が、運転席の鳳へ話しかけた。


 青ざめた顔は、「信じられないものを見た」という表情のまま引きつっている。


 隣に座る皆元 静香も島と同じような表情で、ごくりと生唾を飲み込みながら鳳を見つめていた。


「君達は、この期(ご)に及んでも、まだ信じられないものがあると言うのか?


 魔界の怪物と化したヒッチハイカーの存在や、陰陽師(おんみょうじ)でもある私が使役(しえき)する式神はどうなんだ? あの神獣白虎など、君達の常識では神話や伝説にしか登場しない存在ではないのか?


 それらは皆、今夜一晩で君達の眼前に現れた。理解するのが難しいのも無理はない。


 だが、すべて現実に存在し、今まさに起きていることだ。

 この世には、人知の及ばぬ不思議なことなど、いくらでもある。


 あの魔槍『妖滅丸』も、『妖滅丸』から現れた飛行妖怪野衾も、信じ難いだろうが現実に存在している。


 そして今、再び皆元さんのもとへ向かうヒッチハイカーを追って、白虎を乗せた『野衾』も、じきにここへやって来る。」


 鳳の話を聞いた静香は、暖房の効いた車内で毛布にくるまれているにもかかわらず、身体を寒気(さむけ)が走り、鳥肌(とりはだ)が立つのを感じた。


「あいつがまた、ここへ来る……」


 ヒッチハイカーに拘束されていた時の恐怖がよみがえり、静香は血の気を失った唇を震わせながらつぶやく。


「ロシーナ! ヒッチハイカーの、この地点への到着までの時間は? それと、白虎の乗る野衾はどうだ?」


 鳳は、万能装甲戦闘ビークル『ロシナンテ』の頭脳である完全自立思考型AI『ロシーナ』へ問いかけた。


『飛行タイプのヒッチハイカーが当地点へ到着するまで、約五分。マスターの乗った”野衾”は、それより約三分遅れて到着すると思われます。』


 AI『ロシーナ』は感情の起伏を感じさせない声で、鳳へ答えた。


「なら、我々は白虎が到着するまでの三分間、ヒッチハイカーを相手に持ち堪えなければならないという訳か……」


 鳳が低くつぶやいた、その時だった。


『鳳成治さん! こちら風祭聖子! 応答してください!』


 突然、『ロシナンテ』の車内に、『ロシーナ』ではない女性の声が響き渡る。


 その声に鳳は顔を上げた。


「風祭さんだって? どうして、あなたが?」


 この非常時に飛び込んできた予想外の通信に、鳳は思わず目を見開く。


 風祭聖子――。


 千寿探偵事務所で秘書を務める女性であり、鳳にとっても旧知の人物だった。


     ********


 風祭聖子は、ただ千寿の秘書として働いているだけの女性ではない。


 カブキ町にある『千寿探偵事務所』が入るビルのオーナーであり、『黒鉄の翼』を設計・開発した科学者でもあった。


 さらに、多くの技術者が製作した万能装甲戦闘ビークル『ロシナンテ』の頭脳──完全自立思考型AI『ロシーナ』の開発にも中心人物として携わっている。


 探偵事務所で秘書を務める以前の彼女は、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)で三つの博士号を取得し、さらにハーバード大学医学部で医学博士の資格まで得た天才科学者だった。


 だが、彼女の真価はそれだけではない。


 風祭聖子は、世界でも指折りの天才ハッカーとしても知られていた。


 その正体を知る者はほとんどいない。それでも世界中のコンピューター関係者は、正体不明の超一流ハッカーを『電脳世界の魔女』と呼び、その存在を恐れている。


 日本唯一の公的諜報機関『特務零課(とくむぜろか)』を実質的に率いる鳳成治でさえ、彼女には一目も二目も置いていた。


 これまでも『特務零課』が扱う数々の極秘案件で、鳳は旧友・千寿を通じ、風祭聖子の力を借りてきたのである。


     ********


『現在、私はカブキ町の千寿探偵事務所にいます。この通信は、事務所のスーパーコンピューター”MOTHER(マザー)”を介して、”ロシーナ”へ解読不能の暗号通信で送っているの。


 逆に、”ロシーナ”と”黒鉄の翼”のAI”スペードエース”を通じて、うちの所長が関わってからのそちらの状況は、すべて把握しているわ。


 いよいよヒッチハイカーとの戦いも大詰めのようね、鳳さん』


 新宿カブキ町から送られた暗号通信は瞬時に解読され、歯切れのよい女性の声が『ロシナンテ』の車内へ響き渡る。


 その声を聞きながら、鳳は静かにうなずいていた。


 後部座席の皆元静香と島警部補は、そんな鳳の様子を緊張した面持ちで見つめる。


 二人には、この通信相手が鳳と旧知の人物であることだけは伝わっていた。


「風祭さん。こちらの状況を把握しているなら説明は省く。


 もう間もなく、飛行能力を得たヒッチハイカーがここへ到着する。


 飛行能力を得る前ならまだしも、今のヤツには『ロシナンテ』の火力では対抗できない。


 照準を合わせても、トンボのような機動力で着弾前にかわされるのが関の山だ。


 ヤツの狙いは、私の後ろにいる皆元静香さんだ。


 彼女と、その胎内にいる子どもを奪うため、最後の特攻を仕掛けてくるはずだ。


 風祭さん――何か打つ手があるなら教えてほしい」


 常に冷静沈着な鳳が、誰かに助言を求める。


 その姿を見て、静香と島は驚きを隠せなかった。


 通信の向こうにいる風祭聖子とは、一体何者なのか。


 二人は疑問を抱きながらも、黙って二人のやり取りに耳を傾けるしかなかった。


『陰陽師でもあるあなたのお得意の結界で、ヤツを閉じ込めるのよ』


「そう簡単に言うが、風祭さん」


 鳳は静かに首を振った。


「ヤツを封じ込められる規模の結界を張るには、私自身が『ロシナンテ』の外へ出なければならない。


 だが、ヒッチハイカーがその間、おとなしく待っていてくれるはずもない。


 不死身の千寿と違い、生身の私は猛毒の溶解液を浴びればひとたまりもない。


 しかも私の武具、『ヒヒイロカネの剣』は現在貸し出し中だ」


 鳳らしからぬ自嘲気味の言葉に、後部座席の静香と島は思わず顔を見合わせた。


『すみません……僕が鳳さんから”ヒヒイロカネの剣”を借りているから……』


 通信越しに聞こえてきた伸田の申し訳なさそうな声に、静香は思わず頬を緩める。


 自分はいま危険の真っただ中にいる。


 それでも、愛する人が無事だと、この耳で確かめられた。


 それだけで胸が熱くなった。


 そんな静香の笑顔を見て、島の表情にも、娘を見守る父親のような穏やかな笑みが浮かぶ。


『みんな、よく聞いて』


 聖子の声が、場の空気を引き締めた。


『ヒッチハイカーが”ロシナンテ”のいる地点へ到達した瞬間、”夕霧橋”一帯を巨大な結界で包み込むわ』


「何だって!?」


 鳳。


 静香。


 島警部補。


 そして『黒鉄の翼』に乗る伸田まで――。


 その場にいた全員が、思わず同じ声を上げた。


 全長333メートルも及ぶ『夕霧橋』一帯を覆う巨大な結界。


 風祭聖子が口にした、その驚くべき作戦とは一体何なのか。


     ********


「くっそう……なかなか追いつけねえ!」


 飛行妖怪『野衾』の背に乗り、『夕霧橋』へ向かうヒッチハイカーを追う白虎が、焦りをにじませた唸り声を上げた。


「このままじゃノビタの彼女が危ねえ! 急げ、野衾!」


「ぎゃああああっ!」


 白虎の叱咤に応えるように、野衾が悲鳴にも似た鳴き声を上げる。


 野衾もまた、追い風となった吹雪を利用し、限界まで速度を上げて飛んでいた。


 それは白虎にも分かっている。


 だが、昆虫のトンボさながらの機動力を得たヒッチハイカーには、あと一歩届かない。


 距離は離されるばかりで、一向に縮まる気配はなかった。


「くそっ! 俺が着くまで持ちこたえてろよ、鳳!」


 もはや頼れるのは、万能装甲戦闘車『ロシナンテ』の戦闘力と、それを操る鳳成治だけだった。


「頼む……急いでくれ、野衾!」


     ********


「『夕霧橋』一帯を結界で包み込むって……そんなこと、陰陽師である私にだってできないぞ、風祭さん。


 そんな芸当ができる人物といえば、今の日本では私の父くらいしかいない」


 鳳は首をひねりながら答えた。


 脳裏に浮かんだのは、彼にとって実の父であり、近代日本最強の陰陽師・安倍賢生(あべの けんせい)の姿だった。


『そう。あなたのお父様は、今ここにはいない。


 だから私が作るのは、本物の”結界”じゃない。


 ヒッチハイカーを封じ込めるための”疑似結界”――そう呼ぶべき空間を、この地域一帯に機械的に作り出すのよ』


 その言葉に、その場の全員が耳を疑った。


 鳳だけではない。


 『ロシナンテ』の車内にいる島と皆元静香。


 そして『黒鉄の翼』の操縦席で通信を聞いていた伸田もまた、驚きに息をのむ。


「『疑似結界』……?」


 全員の口から、同じ言葉が漏れた。


『ええ、そうよ。


 鳳さんたち陰陽師が張る”結界”は、魔界の存在に対して絶大な効果を発揮する。


 それは、ここにいる全員が身をもって知っているはずよね。


 ”結界”とは、霊的な力によって生み出された、外敵を拒み、あるいは邪悪な存在を閉じ込める霊的効果を持った一種の”力場(りきば)”よ。


 私は以前、うちの所長があなたのお父様のご自宅で、不死身の怪人”バリー”と戦った際に使われた”逆結界”の働きを、科学で再現できないか研究してみたの。


 もちろん、本物の結界を完全に解明できたわけじゃない。


 でも、現在の科学でも、極めて近い現象を作り出せることは分かったわ。


 詳しい理論を説明している時間はないから省くけど、電磁波と超音波を応用した技術だと思ってくれればいい。


 その"現代科学の魔法"を、この”夕霧橋”で実現してみせるわ』


 誰一人、その理屈を理解できた者はいなかった。


 だが、一つだけ確かなことがある。


 風祭聖子は、自信に満ちた口調で言い切った。


 科学の力で生み出した『疑似結界』によって、魔界の怪物ヒッチハイカーを、この『夕霧橋』一帯へ封じ込める――。


 それこそが、彼女の壮大な作戦だった。


     ********


「ゲギギギ……見えてきたぜ。俺が作り上げた巣のある『夕霧橋』が。


 あそこには、俺の嫁さんのシズちゃんと、生まれてくる俺たち二人の子どもがいる。


 俺は二人を連れて暖かい南へ行く。


 そこで三人で幸せに暮らすんだ。


 それからもっと子どもを増やして、俺たち家族だけの王国を作る。


 俺が母さんと叶えられなかった幸せな暮らしを、今度こそ築き上げるんだ。


 だから――


 俺がシズちゃんを連れて行くのを邪魔するヤツらは……


 皆殺しにしてやる」


 ヒッチハイカーは背中の四枚の翅を大きく羽ばたかせる。


 その異形の身体は、『夕霧橋』を目指して一直線に夜空を駆け抜けた。


     ********


 それぞれの想いを胸に、再び運命の地『夕霧橋』へ集う者たち。


 吹雪に煙る『夕霧谷』は、最後の決戦の舞台として静かにその時を待っていた。


 ――夜明け前。


 怪物との最後の戦いが、ついに始まる。




【次回に続く……】

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