第23話「どうしても南へ行きたいんだ…㉑『伸田 vs ヒッチハイカー!! 激突の果てに…!?』」
「ほう……ノビタのヤツ。
愛する彼女だけを逃がし、自分はヒッチハイカーとの決着をつけるため戻ってきたのか。
あいつめ……。
ほんの短時間で、本物の男になりやがった」
夕霧橋と同じ高度。
光学迷彩で姿を消した『黒鉄の翼』が、ホバリングを続けていた。
その機体の上に四肢で立つ白虎は、青白く輝く瞳を細め、橋の上で怪物と対峙する伸田伸也の姿を静かに見つめる。
「まったく……この短時間で見違えるほど逞しくなりやがって」
左手には『ヒヒイロカネの剣』。
右手には『ベレッタ90-Two』。
二つの武器を構える伸田の姿を見つめる白虎の眼差しは、まるで成長した我が子を見守る親のように優しかった。
「ギギギギギ……
小僧っ!
貴様、俺のシズちゃんと腹の子をどこへやりやがった!
この俺と決着をつけに戻っただと?
ギヒヒヒ……笑わせるな。
たかが人間風情が、この俺に勝てると思っているのか」
ヒッチハイカーは醜く笑う。
「だが安心しろ。
貴様は細切れにして、やがてシズちゃんが産む我が子への供物にしてやる。
貴様は、そのためだけに生まれてきたんだと思い知れ!」
八本の脚が凍りついたアーチリブを這う。
怪物は伸田へ向き直った。
しかし、頭部から伸びる二本の触角だけは、依然として『黒鉄の翼』を捉えたままだ。
伸田と戦いながらも、白虎への警戒は決して解かない。
それほど白虎は、この怪物にとって脅威だった。
失われた尻尾はすでに再生していた。
その先端には、以前よりも長く鋭い毒針が生えている。
まるで巨大な槍の穂先。
伸田は、その異様な変化を見逃さなかった。
「尻尾が変わってる……
あれじゃ槍だ」
次の瞬間だった。
毒針が一直線に伸びる。
狙いは伸田の心臓。
「うわっ!」
咄嗟に身を伏せる。
同時にヒヒイロカネの剣を突き出した。
――キンッ!!
火花が散る。
剣は毒針を下から受け流した。
だが、力比べでは圧倒的にヒッチハイカーが上だった。
「くっ……!」
伸田の身体が弾き飛ばされる。
凍結したアーチリブを激しく滑っていった。
ズザザザザッ!
橋の外へ投げ出される寸前。
伸田は剣を鋼鉄へ突き立てた。
ギィィィッ!
剣先は鋼鉄を紙のように貫き、そのまま深々と食い込む。
伝説の超金属『ヒヒイロカネ』。
現代の金属では到底太刀打ちできない。
その圧倒的な切れ味が、伸田の命を救った。
「チッ……生意気な!」
ヒッチハイカーは舌打ちすると、間髪入れずに左腕の触手を振るった。
先端は鋼鉄すら切り裂く刃へと変化している。
狙いは伸田の胴体。
一撃で真っ二つにするつもりだ。
――カキィンッ!
伸田は真正面から受け止めない。
剣の刃に触手を滑らせ、その勢いを利用して横へ流した。
力と力をぶつけるのではない。
受け流すことで攻撃のベクトルを変える。
「なっ!?」
予想外の感触に、ヒッチハイカーの体勢が崩れる。
振り抜いた勢いは止まらず、そのまま巨大な身体が横へ流された。
凍りついたアーチリブの上を八本の脚が滑る。
四本が宙へ投げ出された。
「くっ!」
怪物は残る四本の脚で必死に踏ん張る。
しかし止まらない。
咄嗟に左腕の触手をアーチリブへ突き立てた。
鋼鉄を貫いた触手は錨となり、ようやく巨体を支える。
「ふぅ……危なかったぜ」
ヒッチハイカーは不敵に笑った。
「どうだ見たか。
貴様にできることくらい、この俺にもできるんだよ」
勝ち誇って顔を上げる。
だが――。
「……いない!?」
さっきまで目の前にいた伸田の姿が消えていた。
「ヤツはどこだ!」
慌てて見回した、その瞬間だった。
「僕はここだぁっ!!」
足元から裂帛の気合が響く。
「てぇりゃあああっ!!」
振り下ろされたヒヒイロカネの剣が、アーチリブへ突き刺さっていた触手を一刀両断した。
「ぐぎゃああああっ!!」
支えを失った巨体が大きく傾く。
吹雪が背中を押した。
一本、また一本と脚がアーチリブから剥がれていく。
「や、やめろ……!」
必死にしがみつく。
しかし巨体にかかる重力は容赦しない。
「落ちるのは……嫌だあああぁぁぁ!!」
怪物の絶叫が吹雪へ消えた。
次の瞬間――。
ヒッチハイカーの巨体は夕霧橋から真っ逆さまに転落した。
伸田は橋の縁まで駆け寄る。
木流川へ落ちていく怪物を見届けようとして――思わず息を呑んだ。
「そんな……!」
「へへへ……バーカ!」
橋の下から聞こえる嘲笑。
ヒッチハイカーは尻の出糸突起から吐き出した糸で橋にぶら下がり、逆さまのまま伸田を見上げていた。
「こんなことで俺様が死ぬと思ったか!
今すぐ戻って、貴様をズタズタにしてやる!」
蜘蛛のように糸を登り始めた、その時――。
「ロシーナ!
PSGランチャー、『炸裂焼夷弾』発射!」
『了解!』
――ポンッ!
橋上で静香を保護したロシナンテが砲撃を放つ。
発射音に気付いて振り返った時には、もう遅かった。
炸裂焼夷弾がヒッチハイカーの胴体へ命中する。
轟音とともに爆ぜた炎が、一瞬で怪物を包み込んだ。
「ぎゃあああああっ!!」
絶叫が渓谷にこだまする。
だが焼夷弾の炎は吹雪にも消えない。
怪物の身体を焼きながら、糸を伝って燃え広がっていく。
どれほど頑丈な糸でも、生体組織である以上、炎には耐えられなかった。
焦げ臭い匂いとともに、炎は確実に怪物を追い詰めていく。
「グギギギギギッ!!」
それでもヒッチハイカーは登る。
炎に包まれながら、八本の脚で必死によじ登る。
だが――。
ジジジジ……
ブチンッ!
糸が焼き切れた。
支えを失った怪物は、炎をまとったまま再び闇へ落ちていく。
真下には、雪解け水で増水した木流川の濁流。
伸田は落下する怪物へベレッタを向けた。
「さよなら……ヒッチハイカー」
通常の炎程度では死なない。
伸田は、それを誰より理解していた。
だからこそ。
鳳から託された最後の切り札――『式神弾』を装填している。
あの青白い浄化の炎なら、消える事なく怪物を灰になるまで焼き尽くせる。
そう確信していた。
「これで終わりだ!」
引き金を引く。
――パンッ!
式神弾は狙い違わず、出糸突起の近くへ突き刺さった。
直後。
ドッパァァン!!
ヒッチハイカーの巨体は巨大な水柱を上げ、木流川の濁流へと飲み込まれた。
燃え盛っていたヒッチハイカーの巨体は、激流へ何度も沈み、浮かび上がるたびに下流へ流されていく。
あれほど巨大だった怪物も、水かさを増した木流川の濁流の前では、あまりにも小さな存在だった。
夕霧橋のアーチリブに立つ伸田は、その姿をじっと見つめ続ける。
やがて『炸裂焼夷弾』が生んだオレンジ色の炎は完全に消えた。
しかし――。
伸田の予想は当たっていた。
体内から燃え広がった『式神弾』の青白い炎だけは違う。
激流に何度飲み込まれても、その炎だけは決して消えなかった。
青白い炎を灯したまま流されていく怪物の姿は、不謹慎ながら、まるで魂を送り出す精霊流しのように見えた。
それでも伸田の胸に安堵はなかった。
ヒッチハイカーの最期を、この目で確認するまでは終われない。
「……これ以上は、もうどうしようもないか」
小さく息を吐く。
「やれることは、全部やったんだから……」
そう自分に言い聞かせ、川へ背を向けた、その時だった。
「バカ野郎ッ!!」
雷鳴のような怒声が吹雪を突き抜ける。
「何ボーッとしてやがる!
ノビタ! さっさと乗れ!
ヒッチハイカーを追うぞ!!」
「白虎さん!?」
驚いて振り返る。
そこには漆黒の巨大な機体が浮かんでいた。
つい先ほどまで光学迷彩で姿を隠していた『黒鉄の翼』。
左右にティルトローターを備えた翼を張り出した頼もしい姿――
役目を終えた今、その漆黒の機体を吹雪の中へ堂々と現していた。
キャノピーが開いた複座型操縦席の前方に、一人の男が座っている。
三十代半ばほどだろうか。
そして伸田は思わず目を疑った。
その男は――全裸だった。
「あ、あなたは……?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
だが、その顔には見覚えがあった。
「そうだ……。
白虎さんが人間の姿になった時の……!」
「やっと気付いたか、このバカ!」
男は豪快に笑う。
「俺だよ、俺!
何度もお前を助けてやった白虎様だ!」
その声は間違いなく白虎だった。
「ま、また人間の姿に……?」
「バカ!
これが俺の本当の姿なんだ!」
そう言い切ると、男はすぐに眉をひそめた。
「……って、そんな話はどうでもいい!
つべこべ言ってねぇで、さっさと後ろへ乗れ!」
「は、はい!」
怒鳴られた伸田は慌てて頷く。
黒鉄の翼がアーチリブのすぐ下まで降下すると、伸田は機体へ飛び移った。
後席へ座ると同時に、左右のティルトローターがゆっくりと角度を変えていく。
ホバリング姿勢から前進飛行へ。
機体は静かに加速しながら、木流川の下流へ向けて飛び出した。
伸田にとって、こんな航空機へ乗るのは初めてだった。
垂直離着陸。
完全なステルス性能。
さらに強力な火力まで備えた、まるで空想の世界から飛び出してきたような機体。
少年なら誰もが胸を躍らせるはずの乗り物だった。
だが今、そんな感動に浸っている余裕はない。
流されたヒッチハイカーを追い、その生死を確かめる。
もし生きているなら、今度こそ確実に終わらせる。
それだけが、伸田の頭を占めていた。
「それで……あなたを何とお呼びすればいいんですか?」
伸田は遠慮がちに口を開いた。
「白虎さん……のままでいいんでしょうか?」
虎の姿の時とは勝手が違う。
人間の姿になった今、どう呼べばいいのか分からなかった。
「まぁ、何でもいいと言えば何でもいいんだが……」
男は苦笑する。
「お前さんからすれば、そういう訳にもいかねぇよな。
俺の名前は千寿。
『千寿 理』だ」
黒鉄の翼を巧みに操りながら、男は続ける。
「新宿カブキ町で、小さな探偵事務所をやってる。
街じゃ『風俗探偵』なんて呼ばれてるがな」
照れくさそうに鼻を鳴らした。
「探偵なんて肩書きは立派だが、実際は困ってる連中を放っておけないだけの、おせっかいな何でも屋さ。
だから好きに呼べ。
これからは相棒なんだからな」
その言葉に、伸田は自然と笑みを浮かべた。
「じゃあ……千寿さんと呼ばせてもらいます。
もちろん、白虎の秘密は誰にも話しません。
約束します」
「ああ、信用してる」
千寿は短く答える。
その一言だけで十分だった。
伸田は安心して本題を切り出す。
「それより千寿さん。
『式神弾』を受けたヒッチハイカーは……まだ生きていると思いますか?」
愛する静香と、生まれてくる子ども。
二人の未来を守るためにも、あの怪物だけは完全に息の根を止めなければならない。
その思いが、伸田の胸を離れなかった。
「さぁな」
千寿は前を見据えたまま答える。
「だが、ヤツの死を自分の目で確認しねぇ限り、お前も彼女も安心して眠れねぇだろ?」
「……はい」
伸田は力強く頷く。
「僕は静香と子どもを守りたい。
それに、ヒッチハイカーに殺された人たちのためにも、必ず決着をつけたいんです。
でも……この広い川でヤツを見つけられるんでしょうか」
「その心配はいらねぇ」
千寿はニヤリと笑った。
「お前が撃ち込んだ『式神弾』には、超小型のGPS発信機を仕込んである。
弾頭は潰れても、中の発信機は壊れねぇ。
ヤツを内側から焼きながら、居場所も教えてくれるって寸法だ」
そう言って伸田の前にある液晶モニターを指差した。
「レーダーを見てみろ」
画面中央には『黒鉄の翼』。
その前方に、小さな赤い光点が点滅している。
「あれが……」
「そうだ。
ヒッチハイカーだ」
赤い点は木流川に沿ってゆっくり移動していた。
「まだ流され続けてるんですね……」
「だったら追いつくだけだ」
千寿は操縦桿を握り直す。
「死んでようが、生きてようがな」
黒鉄の翼はさらに加速し、吹雪の渓谷を低空で駆け抜けていった。
********
「『黒鉄の翼』……行ってしまいましたね」
ロシナンテの車外へ出ていた県警SIT(特殊事件捜査係)Aチームリーダー・島警部補は、吹雪の空へ消えていく機影を見送りながら、隣に立つ鳳へ声を掛けた。
その視線は、時折ロシナンテの車内へ向けられる。
暖房の効いた後部座席では、ヒッチハイカーの巣から救出された皆元静香が毛布に身を包み、静かに座っていた。
「ああ」
鳳も黒鉄の翼を見送りながら頷く。
「千寿と伸田君は、ヒッチハイカーの生死を確認しに行った」
「伸田君が撃った『式神弾』……確かに命中しましたよね?」
島は確認するように尋ねた。
銃器の扱いでは国内でも屈指の腕を持つ島には、着弾の瞬間ははっきり見えていた。
それでも鳳の口から確かな言葉を聞きたかった。
――そして何より、その言葉を静香にも聞かせたかったのだ。
「ああ」
鳳は力強く頷いた。
「木流川へ落ちる直前、間違いなく命中した」
その言葉に、島は胸をなで下ろす。
娘を持つ父親として、静香の姿がどうしても他人事には思えなかった。
本来なら一刻も早く病院へ搬送すべき状態だ。
実際、島もそう強く主張した。
しかし静香は首を縦に振らなかった。
伸田が戻るまで、自分はここを離れない。
その意思は驚くほど固かった。
鳳も最終的には、その願いを受け入れた。
島も納得したわけではなかったが、彼女の覚悟を前に、それ以上は何も言えなかった。
「……ということは」
島は少し声を張る。
「ヒッチハイカーは、『式神弾』に込められた陰陽術で消滅するんですね」
その声は、ロシナンテの車内まで届くよう意識していた。
静香を安心させるためだった。
「そのはずだ」
鳳も同じ思いだった。
「ヒッチハイカーは、もはや完全な魔の存在だ。
魔物が『式神弾』を受けて無事でいられるはずがない」
車内でその言葉を聞いていた静香の表情が、少しだけ和らぐ。
その変化に気付いた島は、思わず右拳を握り締め、大きくガッツポーズを作った。
その姿に、静香は小さく笑う。
助け出されてから初めて浮かべた、穏やかな笑顔だった。
島も思わず笑みを返す。
鳳の表情にも、静かな安堵が浮かんでいた。
その温かな眼差しを見て、静香の張り詰めていた心も少しずつほどけていく。
(ノビタさん……)
毛布の中でそっと両手を組む。
(どうか、無事で帰ってきて)
静香は静かに目を閉じ、心の底から祈り続けた。
********
木流川の濁流に何度も飲み込まれながら、ヒッチハイカーは下流へ流されていた。
それでも――まだ、生きることを諦めてはいなかった。
だが、自分の身体が確実に滅びへ向かっていることを、一番よく理解していたのもまた彼自身だった。
腹部に撃ち込まれた『式神弾』。
その傷口から燃え広がる青白い炎は、水では消えない。
吹雪にも、濁流にも消されることなく、静かに、しかし確実にヒッチハイカーの身体を内側から焼き尽くしていく。
――浄化の炎。
それは魔を滅ぼすまで決して消えない炎だった。
この弾丸は、現代最強と謳われる陰陽師・安倍賢生が、一発ずつ自ら陰陽術を込めて作り上げた特別な『式神弾』である。
魔物へ変じたヒッチハイカーにとって、それはまさしく天敵だった。
再生能力が急激に衰えてきた理由も、この弾丸による浄化の力が少しずつ蓄積していたからに他ならない。
しかし――。
「くそおおおおっ!!」
血を吐くような絶叫が吹雪の渓谷へ響く。
「こんな所で終われるかぁっ!!
俺は家族で南へ行くんだ!
シズちゃんと子どもたちと、暖かい楽園で暮らすんだ!」
その執念だけが、彼を動かしていた。
「翼だ……!
俺に空を飛ぶ翼をよこせぇぇぇぇっ!!」
ヒッチハイカーが叫んだ、その瞬間だった――。
異変は背中から始まった。
肩甲骨の周囲が黒く変色し、皮膚が生き物のように脈打つ。
盛り上がった四つの突起は、一気に細長く伸び、薄い膜を広げていく。
鳥の翼ではない。
それは昆虫――。
巨大なトンボを思わせる四枚の翅だった。
半透明の膜には複雑な翅脈が走り、基部の筋肉が激しく震え始める。
高速で羽ばたく音が、吹雪を切り裂いた。
青白い炎をまとったまま、その身体は激流から浮かび上がった――
完成だ。
ヒッチハイカーは、新たな翼を手に入れた。
絶望に歪んでいた顔へ、再び醜悪な笑みが浮かぶ。
「は……ははははっ!!
やった!
遂に翼を手に入れたぞ!!」
だが、視線を落とした先には、青白い炎に焼かれ続ける下半身。
蜘蛛の腹部は九割以上が灰となり、八本の脚も、サソリの尾も、すでに失われていた。
「邪魔だ」
ヒッチハイカーは迷わなかった。
右手に握った山刀。
左腕の刃と化した触手。
二つを同時に振るう。
ズバッ!!
ズババッ!!
「ぐあああああっ!!」
自らの身体を切り裂く。
腹部から血と臓物が飛び散っても、その手は止まらない。
やがて――。
彼は、自ら下半身を切り捨てた。
青白い炎に包まれた部分ごと。
浄化の炎から逃れるために。
四枚の翅が激しく震える。
その身体は、ゆっくりと『木流川』の水面から浮き上がった。
切断面からは臓物が垂れ下がっていた。
しかし、それすら変化を始める。
肉は融合し、乾き、黒ずみ、硬質化していく。
やがて一本の長い尾へと姿を変えた。
節を持つ細長い尾。
その先端には鋭い毒針。
失ったサソリの尾が、まるで別の姿となって蘇っていく。
上半身は人間。
背中には四枚の巨大な翅。
下半身は巨大なトンボの尾。
人でもない。
蜘蛛でもない。
新たな怪物が、この世に誕生した。
四枚の翅が高速で羽ばたき、ヒッチハイカーは完全なホバリングを始める。
その姿は、悪夢そのものだった。
「うおおおおおおっ!!」
歓喜の雄叫びが渓谷へ響き渡る。
「飛べる!!
俺は飛べるぞ!!
あの忌々しい青白い炎からも解放された!!
ノビタも虎野郎も、もう怖くないぞぉ!」
口元が大きく吊り上がる。
「待ってろ!!
今度は俺が狩る番だ!!
リターンマッチだぁぁぁっ!!」
四枚の翅が吹雪を切り裂く。
ヒッチハイカーはトンボのような驚異的な速度で木流川を遡り、夕霧橋へ向かって一直線に飛び去っていった。
誰にも教わることなく。
まるで最初から飛び方を知っていたかのように。
新たな姿となった怪物は、再び伸田たちの前へ舞い戻ろうとしていた――。
【次回へ続く……】




