表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒッチハイカー  作者: 幻田恋人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/21

第20話「激突!! 『夕霧橋』の攻防!」

「スペードエース、『黒鉄の天馬(アイアン・ペガサス)』を夕霧橋の出口側へ回せ。その先の国道を封鎖しろ。ヒッチハイカーの逃げ道を断つんだ」


『了解』


 美しい女性の声が返ってきた。


 だが、その声は万能装甲戦闘車ロシナンテのAI『ロシーナ』ではない。


 『スペードエース』――。


 それはティルトローター機『黒鉄の翼(アイアン・ウイング)』を制御する完全独立思考型AIの名称だった。


 ロシーナと同様、高度な思考能力を持つ人工知能であり、人間の操縦なしでも飛行や戦闘を行うことができる。


 鳳成治(おおとり せいじ)の命令を受けたスペードエースは、夕霧橋の出口から約三十メートル手前でホバリングを開始した。


 機首は橋へ向けられたまま。


 吹雪の中、『黒鉄の天馬』は静かに空中停止する。


「スペードエース。レールガン発射準備。いつでも撃てるようにしておけ」


『了解』


 そのやり取りを、ロシナンテ後部座席の島警部補は固唾を飲んで見守っていた。


 レールガン――超電磁加速砲。


 その威力は、先ほどまで使用していた機関砲やグレネードランチャーとは比較にならない。


 もし至近距離から鋼橋へ撃ち込めば、橋そのものを破壊しかねない威力を持つ兵器だ。


 島は重火器や軍事装備について一定の知識を持っていた。


 だからこそ驚いていた。


 レールガンは各国が開発を進める次世代兵器である。


 実用化されれば既存兵器の常識を変えるとも言われている。


 その兵器を、こんな航空機に搭載できるほど小型化しているというのか。


 しかも鳳たちは当然のように運用している。


 島には信じられなかった。


「現在の状況を白虎へ発光信号で伝えろ」


『了解』


 島はますます首を傾げた。


 発光信号。


 光の点滅によって情報を伝える古典的な通信方法だ。


 だが相手は人間ではない。


 白虎である。


 まさか本当に理解できるというのだろうか。


 鳳の周囲では、常識が次々と崩れていくようだった。


   ◇◇◇


「む?」


 吹雪の中を走る白虎が足を止めた。


「発光信号か」


 青白い光を放つ瞳が橋の向こうを見つめる。


 吹雪の奥で、かすかな光が点滅していた。


「鳳の野郎からだな」


 白虎は鼻を鳴らした。


「ヒッチハイカーの逃げ道を塞いだってわけか」


 ぶつぶつと独り言を言う白虎を見て、伸田が首を傾げた。


「発光信号って……向こうに味方がいるんですか?」


「ああ」


 白虎は短く答えた。


「俺の仲間だ。橋の向こうで待機してやがる」


 伸田は目を凝らした。


 たしかに光は見える。


 しかし味方らしい姿は何も確認できない。


「ヒッチハイカーは向こうへは逃がさねえって伝えてきたんだ」


「白虎さん……あなたはいったい何者なんですか?」


 伸田は思わず尋ねた。


 人語を話す白い虎。


 それだけでも十分に異常だった。


 そのうえ仲間と発光信号で会話している。


 理解が追いつかなかった。


「俺か?」


 白虎は笑った。


「見ての通り、おしゃべりな神獣白虎さ」


 そして少し得意げに続ける。


「まあ、ちびっ子ファンの中には『仮面タイガー・ホワイト』って呼ぶ奴もいるがな」


「はあ……?」


 伸田は困惑した。


 何を言っているのかよく分からない。


 だが一つだけ分かることがあった。


 橋の向こうにも味方がいる。


 そしてヒッチハイカーは逃げ場を失った。


「お前も覚悟を決めろ」


 白虎が夕霧橋を見据える。


「この橋が最終決戦の場所になる」


 伸田は黙って頷いた。


 言われるまでもない。


 覚悟なら、とっくに決めている。


 ジャイアンツこと幸田剛士(こうだ たけし)


 須根尾骨延(すねお ほねのぶ)


 水木エリ。


 山野ミチル。


 ヒッチハイカーによって命を奪われた仲間たち。


 そして今も囚われている静香。


 絶対に許せない。


 必ず決着をつける。


 静香を取り戻す。


 その想いだけが伸田を支えていた。


 拳を握り締める伸田を見て、白虎はゆっくり頷いた。


 その決意を理解したかのように。


   ◇◇◇


 夕霧橋(ゆうぎりばし)――。


 祖土牟(そどむ)山と醐模羅(ごもら)山の間を流れる木流(きながし)川に架けられた巨大なアーチ橋である。


 全長三百三十三メートル。


 東京タワーを横倒しにしたのとほぼ同じ長さを誇り、地元では観光名所として知られていた。


 しかし今、その橋に人の姿はない。


 周辺一帯は猛吹雪によって封鎖されていた。


 もっとも、それは表向きの理由である。


 実際にはヒッチハイカー事件のためだった。


 鳳成治は内閣府を通じて県や国土交通省へ働きかけ、この一帯の交通を遮断していたのである。


 観光客や一般市民を巻き込まないためだ。


 さらに周辺地域には電波妨害措置まで施されたため、報道管制だけでなくSNSまでが利用できない。


 今回の作戦は、表には存在しない特務機関『特務零課』の指揮下で進められていたのである。


 鳳は実質的に『特務零課』を束ねる長なのだ。


   ◇◇◇


「見ろよ、シズちゃん」


 『夕霧橋』中央部。


 巨大な蜘蛛の巣の天井に逆さまに張り付いたヒッチハイカーが笑った。


「美しいだろ? この巣なら白虎さえ手出し出来ない」


 鋼橋を覆うように張り巡らされた無数の糸。


 その中心付近で、静香は糸によって吊るされていた。


 先ほどまで気を失っていた彼女だったが、今は意識を取り戻している。


 ヒッチハイカーが顔を近づけてきた。


 白い息がかかるほど近い。


 その異形の姿に嫌悪感を覚えながらも、静香は目を逸らさなかった。


「殺すなら殺しなさい」


 毅然とした声だった。


「私は絶対にあなたの思い通りにはならないわ」


 ヒッチハイカーは首を傾げた。


「どうして俺がお前を殺すんだ?」


 まるで不思議そうに言う。


「お前は俺と一緒に南へ行くんだよ」


 そして笑った。


「生まれてくる子供も一緒にな」


 静香は背筋が凍った。


 冗談ではない。


 この怪物は本気でそう信じている。


 狂っている。


 だが本人は狂っている自覚すらない。


 おぞましいのは見かけだけではなかった。


 静香は絶望した。


 説得など不可能だ。


『絶対に嫌……』


 胸の中で叫ぶ。


『この怪物と家族になるなんて……絶対に嫌よ』


 だが、自ら命を絶つこともできなかった。


 お腹の中には新しい命が宿っている。


 伸田との子供。


 その存在だけが、静香を踏みとどまらせていた。


『ノビタさん……』


 会いたい。


 もう一度だけでも。


 そう願った、その時だった。


「シズちゃーん!」


 吹雪の向こうから声が響いた。


「絶対に諦めるなーっ!」


 聞き間違えるはずがない。


「必ず僕が助けるからーっ!」


 伸田の声だった。


「ノビタさん!」


 静香の瞳から涙が溢れた。


 思わず振り返る。


 吹雪の中、遠く離れた場所に二つの影が見えた。


 一つは人影。


 そしてもう一つは巨大な白い獣。


 距離があり、姿まではよく見えない。


 それでも静香には分かった。


 あそこにいるのは伸田だ。


 愛する人だ。


   ◇◇◇


「白虎さん」


 伸田が前を見据えたまま言った。


「一緒に戦ってくれますか?」


「愚問だな」


 白虎は鼻を鳴らした。


「お前の彼女、いい女じゃねぇか」


 そして伏せの姿勢を取る。


「俺はあの怪物が気に入らねぇだけだ」


 振り返りながら笑った。


「もう一度、俺の背中に乗る勇気はあるか?」


 伸田は答える代わりに白虎の背へ跨がった。


 まだ足は震えていた。


 だが迷いはない。


「お願いします」


 その一言だけを告げた。


 白虎が力強く立ち上がる。


「よっしゃあ!」


 青白く光る瞳が『夕霧橋』を捉えた。


「行くぜ、相棒!」


 吹雪の向こう。


 囚われた静香を救うための最終決戦が始まろうとしていた。


   ◇◇◇


『ミスター鳳』


 スペードエースの声が鳳に告げた。


白虎(マスター)が青年を背中に乗せ、ヒッチハイカーへの攻撃態勢に入りました』


「ああ」


 鳳は吹雪の向こうに目を向けた。


「ならば、こちらも警告をくれてやろう」


 静かな声だった。


「ヒッチハイカーに逃げ場はないと教えてやれ」


 そして命じる。


「レールガン発射」


『了解』


 次の瞬間だった。


バシュッ――。


 黒鉄の天馬から放たれた砲弾が、超音速で吹雪を切り裂いた。


 弾道上の雪が衝撃波によって吹き飛ばされる。


 鋼橋の構造物に一切触れることなく、その一撃は一直線にヒッチハイカーへ向かった。


   ◇◇◇


「ギャッ!」


 短い悲鳴が響いた。


 ヒッチハイカーの身体が大きく揺れる。


 八本ある脚のうち一本。


 左後方の脚が根元から消失していた。


 切断されたのではない。


 砕け散ったのでもない。


 まるで最初から存在しなかったかのように消えていた。


 そして直後。


 轟音にも似た衝撃がヒッチハイカーを襲う。


 ソニックブーム。


 超音速で飛翔したレールガン弾による衝撃波だった。


「な、何だ……?」


 ヒッチハイカーは混乱した。


 何が起きたのか理解できない。


 目の前では静香が振り子のように大きく揺れている。


 彼は反射的に静香の身体を支えた。


「大丈夫か、シズちゃん」


 だが視線は橋の向こうへ向いていた。


 敵がいる。


 本能がそう告げていた。


 吹雪の向こう。


 景色の一部が揺らいで見える。


 まるで陽炎のように。


「あそこか……?」


 ヒッチハイカーは身震いした。


「今の攻撃を撃ったのは……」


 消えた脚を見下ろす。


 だが傷口はすでに再生を始めていた。


 肉が盛り上がり、骨格が形成される。


 ほどなく元通りになるだろう。


 しかし――。


 頭に直撃したら?


 その考えが脳裏をよぎった。

 

 再生不可能な死。


 初めて強く意識する。


 白虎と対峙した時と同じ感覚だった。


 橋の向こうには得体の知れない砲撃を放つ不可視の敵。


 橋のこちらには自分を追い続ける神獣白虎。


 前門の虎。


 後門の狼。


 まさにその状況だった。


 しかも橋の下は増水した『木流川』。


 逃げ場などどこにもない。


「だが……!」


 ヒッチハイカーは叫んだ。


「ここは俺の城だ!」


 怒りに満ちた声が吹雪に響く。


「あの虎野郎を迎え撃つ!」


 脚の再生が完了する。


 再び八本脚となったヒッチハイカーは天へ向かって吠えた。


「俺はシズちゃんと子供と三人で南へ行くんだ!」


 その時だった。


 彼の身体にさらなる異変が起きる。


 巨大な蜘蛛の胴体。


 その後部の先端が不気味に膨らみ始めた。


 モコモコと盛り上がる肉塊。


 それはみるみる伸びていく。


 やがて一本の長い尾となった。


 さらに尾の各所に節が形成される。


 先端は鋭く尖り、針のような形状へ変化した。


 硬質な外骨格。


 複数の節。


 自在にうねる長い尾。


 それはまるで――。


 巨大なサソリの尾だった。


 ヒッチハイカーは嬉しそうに笑った。


 新しい尾を振り回しながら。


「はっはぁ!」


 吹雪の夜空へ向かって咆哮する。


「俺の新しい武器の誕生だぁっ!」


 蜘蛛の身体。


 そしてサソリの尾。


 ヒッチハイカーはさらなる異形へと進化していた。


   ◇◇◇


「しっかりつかまってろよ!」


 伸田を背中に乗せた白虎が吹雪の中を疾走した。


 『夕霧橋』へ向かって一直線。


 その力強い走りは、人ひとりを乗せていることなどまるで感じさせない。


 伸田もまた、もう目を閉じてはいなかった。


 激しく吹きつける雪にも構わず、橋の中央を睨み続ける。


 その先には静香がいる。


 必ず助け出す。


 その想いだけが彼を支えていた。


 やがて白虎は夕霧橋へ到達した。


 橋を支える巨大なアーチリブへ飛び乗ると、そのまま鋼鉄の上を駆け上がっていく。


 普通なら人間は立つことすら難しい場所だ。


 だが白虎には関係なかった。


ダダダダダダッ!


 凍りついた鋼材の上を、まるで平地のように駆ける。


「シズちゃん! 今助けに行くぞ!」


 伸田が叫んだ。


 吹雪を突き破るような声だった。


   ◇◇◇


「聞こえた……!」


 静香の瞳が大きく開かれる。


「ノビタさんの声だわ!」


 それは幻聴ではなかった。


 確かに聞こえた。


 さらに橋全体を伝わる振動が身体へ届く。


 何かが近づいてくる。


 力強く。


 一直線に。


「来る……」


 静香は胸の高鳴りを感じた。


「ノビタさんが来る……!」


 そして不思議な確信があった。


 伸田は一人ではない。


 神の使いとも呼ぶべき存在と共に来る。


 なぜそう思うのか自分でも分からない。


 だが確信していた。


   ◇◇◇


「来い!」


 ヒッチハイカーが叫ぶ。


「虎野郎にノビタめ! ここは俺の城だ!」


 サソリの尾が不気味に揺れる。


 先端の針からは透明な液体が滲み出ていた。


   ◇◇◇


「あそこだ!」


 伸田が指を差す。


 巣の中心。


 糸で吊るされた静香の姿が見える。


 距離は約五十メートル。


 伸田はベレッタを左手へ持ち替えた。


 そして背中に帯びた『ヒヒイロカネの剣』を抜く。


 ベレッタの残弾は三発。


 静香を拘束している糸を断ち切るために、この剣が必要だった。


「気を抜くんじゃねぇぞ、相棒」


 白虎が低く唸る。


「蜘蛛野郎が何もしないわけがねぇ」


 やがて白虎は足を止めた。


 静香から三十メートルほど手前。


 そこから先はヒッチハイカーが張り巡らせた巨大な巣の領域だった。


 その時。


 巣の裏側から巨大な影が這い出してくる。


 ヒッチハイカーだ。


「ついに来やがったな!」


 異形の怪物が叫ぶ。


「お前たちはここで死ぬんだ!」


「ふざけるな!」


 伸田も怒鳴り返した。


「シズちゃんも、お腹の子供も僕の大切な家族だ!」


 怒りで身体が震える。


 だが白虎が静かに言った。


「落ち着け」


 その声だけで伸田は我に返った。


「冷静さを失ったら負けだ」


 白虎の視線はヒッチハイカーから離れない。


「あのサソリの尻尾……厄介そうだぜ」


「でも、シズちゃんを助けないと」


「ああ」


 白虎が唸る。


「だが焦るな。あいつは彼女を殺すつもりじゃない」


 それだけは分かっていた。


 だからこそ、慎重に攻める必要がある。


 白虎は巣を見渡した。


「ざっと六十メートルほどか……」


 そしてニヤリと笑う。


「飛び越えるぞ」


「え?」


「助走をつけてな」


 そう言うと白虎は向きを変えた。


 そのままアーチリブの起点近くまで後退する。


 十分な距離を取るためだ。


 伸田は嫌な予感しかしなかった。


「しっかり掴まってろよ、相棒!」


 白虎が叫ぶ。


 次の瞬間。


 疾風のような勢いで走り出した。


「うわっ!」


 鋼鉄のアーチリブを全速力で駆け上がる。


 その速度は常識外れだった。


 白い身体が吹雪の中へ溶け込む。


 そして――。


「跳ぶぞ!」


 白虎が咆哮した。


 巣の手前で鋼材を力強く蹴る。


 轟音。


 爆発的な跳躍。


 白虎と伸田の身体が夜空へ舞い上がった。


 八十メートル級の大跳躍。


 ヒッチハイカーの巣を一気に飛び越えるつもりだった。


「うわあああああっ!」


 伸田の絶叫が吹雪の谷に響く。


 その瞬間だった。


 ヒッチハイカーのサソリ尾が跳ね上がる。


 鋭い針先。


 そこから透明な液体が弾丸のような速度で射出された。


 狙いは白虎。


 空中にいる今、回避は不可能だった。


 液体は一直線に飛翔し――。


 白虎の腹部へ命中した。


「ぐわあああああっ!」


 神獣の絶叫が吹雪の渓谷に響き渡った――。



【次回に続く…】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ