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輪廻のクロノス〜記憶を継ぐ転生者〜  作者: 夏目颯真


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最終章 輪廻の果てに待つ未来 第1話「絶望の化身と希望の盾」

「ゴォアァァァァッ!」 巨大化したゼロ――いや、千年の時を超えて現出した『闇の王』の咆哮が、時の神殿を芯から揺さぶっていた。 床を覆い尽くしていた大理石が紙くずのように吹き飛び、太い石柱が次々とへし折れていく。ゼロの足元から広がる灰色の波――『時間喰らい』の能力は、触れるものすべての色彩を奪い、その存在が持つ時間を完全に静止させていた

「くっ……! このままでは神殿ごと世界が飲み込まれる!」 ルシウス皇太子が叫びながら、両手から極低温の青白い冷気を放つ。神殿の床を這うように迫る灰色の波に対し、巨大な氷の防壁を築いて進行を遅らせようとしているのだ。 「皇太子殿下、無理は禁物です! あなたの魔力でも、時間を直接凍らせることはできない!」 ザインが炎を纏った剣を振るい、頭上から降り注ぐ瓦礫を叩き斬りながら警告する。

俺――佐倉時道は、覚醒したばかりのスキル『時間支配クロノ・ルーラー』の目を凝らした

。 視界には、世界を構成する無数の時間の糸がはっきりと見えている。ゼロが放つ灰色の波は、その糸を次々と噛み千切り、虚無へと変えていた。あれに飲み込まれれば、肉体だけでなく「そこに存在した」という歴史そのものが消滅してしまう。

「時道さん!」 リーシャが俺の背中に触れ、彼女の持つ青白い精神系の魔力を注ぎ込んでくれる

。 「わかっている! このまま神殿で戦い続ければ、余波だけで外の世界が崩壊する!」 俺は『時間支配』の力を全開にし、両手を天へと掲げた。 「俺たちごと、時の狭間へ飛ぶ! クロノ・フリーズ(時間停止)、そして空間強制転移!」 俺の言葉に応えるように、手のひらに刻まれた『時の印』が目も眩むような黄金の光を放った

光が弾けた瞬間、崩壊しつつあった神殿の天井が消失した。 いや、俺たちが神殿から「切り離された」のだ。 重力が消え失せ、足元には何もなくなった。周囲を囲むのは、果てしなく広がる星空と、巨大な時計の歯車が浮遊する異次元の空間――『時の狭間』だった

「ここは……!」 ガルドが空中で体勢を立て直し、驚きの声を上げる。 「次元の裂け目だ。ここなら、どれだけ暴れても現実世界への被害は抑えられる」 俺は空中に魔力の足場を作り、そこに降り立った。リーシャ、ガルド、ザイン、そしてルシウスも、それぞれ魔法や身体能力を駆使して俺の周囲に集まる。

『小賢しい真似を……!』 星空の彼方から、ゼロの声が響き渡った。 見上げると、漆黒の泥で構成された山のような巨体が、時の狭間の空間を歪めながら俺たちを見下ろしていた。その巨体には、無数の苦悶する人々の顔が浮かんでは消えている。俺が前世のクロノスとして、正しい歴史を編纂するために切り捨ててきた「失敗した世界線」の残骸たちだ

『どこへ逃げようと同じことだ。俺は失敗の集合体。お前たちが「やり直したい」と願う心がある限り、俺の力は無限に湧き上がる!』 ゼロの巨大な腕が振り上げられた。 それだけで、周囲の星空が灰色に染まり、強烈な時間の圧力が俺たちを押し潰そうと迫り来る。

「来るぞ! 総員、防御態勢!」 ガルドが咆哮し、巨大な大剣を正面に構えて前へ出た

。 「強化系スキル最大出力・鋼鉄の城塞アイアン・フォートレス!」 ガルドの全身から赤熱するような闘気が立ち上り、巨大な物理障壁となって最前線にそびえ立つ。 直後、ゼロの放った灰色の衝撃波が障壁に激突した。 「ぐおおおおっ……!!」 ガルドが血を吐きながらも、両足で虚空を踏みしめ、一歩も退かない。彼の鎧がミシミシと悲鳴を上げ、時間を奪われてボロボロに風化していくのが見える。

「ガルドさん!」 「俺にかまうな! 俺はアンタたちの盾になると誓ったんだ!」 ガルドの背中越しに、ザインが飛翔した。 「炎帝の剣よ、過去の亡霊を焼き尽くせ!」 ザインの剣が太陽のような輝きを放ち、ゼロの巨大な腕に向かって紅蓮の斬撃を放つ。極大の炎が漆黒の泥を焼き焦がすが、ゼロの傷はすぐさま周囲の時間を吸収し、瞬時に再生してしまう。

『無駄だ。俺には実体がない。過去の後悔を消し去ることなどできないのだよ!』 ゼロがもう一方の腕を振り下ろそうとした瞬間、空気が凍りついた。 「傲慢だな、過去の亡霊。今を生きる我々の意志を甘く見るな!」 ルシウス皇太子だ。彼の両手から放たれた絶対零度の吹雪が、ゼロの腕を根本から凍結させる。 「ザイン! 私が動きを止める。今のうちに切り落とせ!」 「承知!」 二人の帝国の誇る天才たちの連携が、ゼロの巨体の一角を崩していく。

だが、状況は絶望的だった。 ゼロの再生速度は彼らの攻撃を上回り、周囲の「時の狭間」そのものが灰色の虚無に侵食され始めている。この空間が完全に崩壊すれば、俺たちは永遠に時間の迷子になってしまう。

「時道、リーシャ王女!」 息を切らしたザインが、炎の壁を展開しながら叫んだ。 「俺たちで奴の足止めをする! だが、通常の物理攻撃や魔法では奴を滅ぼしきれない。何か、あいつの存在そのものを浄化する術式はないのか!」 「奴を完全に浄化する術式……!」 俺は歯を食いしばった。

術式。時間を支配する力。 俺の頭脳には、クロノスの記憶がもたらした無数の時空魔法の知識が詰まっている。時間を巻き戻し、都合の悪い過去を無かったことにする『歴史改変』の究極魔法も、今の俺なら発動できるかもしれない

(過去を書き換える……? もし俺が、ゼロを生み出した過去の失敗そのものを「無かったこと」にできれば、ゼロはこの世界から消滅する……!) その考えが頭をよぎった瞬間。 「駄目です、時道さん!」 リーシャが俺の腕を強く掴んだ。彼女の青い瞳が、俺の心の奥底を見透かしているように真っ直ぐに向けられている。

「過去を無かったことにするなんて、絶対に駄目です! もし過去を書き換えたら、私たちが今まで一緒に過ごしてきた時間も、失敗して、泣いて、それでも立ち上がってきた思い出も、全部嘘になってしまいます!」 「リーシャ……」 「ルシウス殿下も言っていました。過去を書き換えて得た繁栄に意味はないと。私たちは、今を生きているんです。今の私たちで、あいつに勝たなくちゃいけないんです!」

彼女の言葉が、俺の心に冷水のように響き渡った。 そうだ。俺は何を血迷っていたんだ。 前世のクロノスは「完璧な世界」を求めるあまり、少しでも気に入らない時間軸を切り捨て、その結果としてゼロという化け物を生み出した

。 ここでまた過去を改変してゼロを消そうとすれば、それはクロノスの過ちをもう一度繰り返すだけだ。無限の輪廻に陥るだけなのだ。

俺はリーシャの手を握り返した。 「……ありがとう、リーシャ。君のおかげで、大事なことを見失わずに済んだ」 「時道さん……」 「完璧な過去なんていらない。失敗も悲しみも、苦しかった日本の記憶も、異世界で最弱と馬鹿にされた記憶も……すべてが、今の俺たちを作った大切な時間だ!」

俺はゼロを見据えた。 ゼロは「失敗した過去への後悔」の集合体だ。ならば、その存在を否定するのではなく、「失敗した過去を含めたすべての時間の肯定」こそが、奴を浄化する唯一の特効薬になるはずだ。

「リーシャ。俺たちの持てるすべての魔力を同調させる。今までで最大の術式を組むぞ」 「はい! 私の力、すべて時道さんに預けます!」 俺とリーシャは向かい合い、両手を強く結び合わせた。 「クロノ・シンク(時間共鳴)!」

俺の手のひらの『時の印』と、リーシャの心臓から溢れる精神の光が、完全に一つの波長となって重なり合う。 黄金と青白の光が螺旋を描きながら天高く昇り、時の狭間の暗闇を眩く照らし出し始めた。

『その光は……! 貴様ら、何を企んでいる!』 ゼロが焦燥に駆られたような声を上げ、俺たちに向かって漆黒の濁流を放つ。 「させんと言ったはずだァァァッ!」 ガルドがボロボロの身体を投げ出し、大剣を盾にして濁流を受け止める。 「ルシウス殿下、全魔力を私に!」 「頼むぞ、ザイン!」 ルシウスの氷結魔力を受け取ったザインが、炎と氷を融合させた反発エネルギーの障壁を俺たちの前に展開した

仲間たちが命を削って、俺たちが術式を完成させるための時間を稼いでくれている。 俺は目を閉じ、リーシャの鼓動を感じながら、自分の中にあるすべての時間に語りかけた。

失敗したっていい。 後悔したっていい。 それらすべてを背負って、俺たちは明日という未来へ進むんだ。

「過去を肯定し、現在を生き、未来を選ぶ! これが、俺たちの選んだ未来だ!」 俺とリーシャの「時間共鳴クロノ・シンク」が臨界点に達し、究極の光の奔流となってゼロへと解き放たれようとしていた。


次回予告: 最終章「輪廻の果てに待つ未来」第2話「肯定の光、そして別れ」

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